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xxxy 08

 おれは、8ヶ月ぶりに外の世界に帰って来た。
 この間に、おれは休暇と名のつくものはすべて使い果たし、10年住み続けた家も引き払い、20年近く掛かって貯めた金も目減りさせてしまった。
 多くのものを失ったおれが得たもの。
 ひとつは、1歳分の年齢。入院中に、おれは42歳になっていた。
 そして、もうひとつは、双葉という名の24歳の人妻の体――。

 退院したおれは、新居に入った。新居と言っても、築30年の下町のボロアパート。6畳と4畳半の2部屋に台所、風呂、トイレという下宿屋のような狭いアパートだった。小なりとは言え、東証2部上場の食品卸会社に20年近く真面目に勤務してきた42歳の男が暮らすような家ではない。実際、両隣の住人は学生と、定職があるのかどうだかわからないような30絡みの独身男。2階には、定食屋のパートで何とか生計を立てている母子家庭。1階の奥の部屋に住む若い男は、どこかで見たことがあると思っていたら、近くのコンビニのレジにいたバイトだった。名札を見る限り、中国人のようだ。あとの入居人はよくわからないが、まあ、似たようなものだろう。今はまだ仕事に復帰していないが、このアパートから毎朝スーツを着て出掛ける中年男というのは、却って怪しく感じられるに違いない。
 このあたりは、基本的には下町だが、最近は都心回帰ということで、付近には新しいマンションも目立つ。代替わりした住宅や、古くなったアパートが、小ぎれいなマンションへと生まれ変わりつつある街で、このアパートもいつまで存続していられるかわからない。入居の際には、建て替え時には部屋を速やかに明け渡すとの念書を書かされた。その分、家賃は安かったのがありがたかった。おれとしては、当面、病院に通う間だけでも寝泊りできれば御の字ぐらいの気持ちだ。
 古い建物と、新しい建物が混在する街。古い建物のプロトタイプ的存在がおれが入居したボロアパートだとしたら、新しい建物の象徴的存在が、双葉のおれが住むマンションだった。アパートを出たところで振り返ると、アパートの向こうにおれの住むタワーマンションが、他を圧するように建っているのが見える。おれのアパートからおれのマンションまで、直線距離で3キロ弱。双眼鏡があれば、道で手を振るおれの姿をマンションの45階から見ることができるかもしれない。鉄道の路線が別なので、電車で行くには乗換えが面倒だが。いざとなれば、お互いタクシーですぐに駆けつけられる距離だ。もちろん、そんな緊急事態にはならないことを祈っているが。

 退院に当たって、おれに課せられたノルマはこうだ。
 まずは、毎日の通院による診察。これは双葉の場合と同じだが、特別扱いの双葉と違って、おれの場合は診察券を置いて順番待ちをして、という診察だから結構大変だ。病院に着いてから診察を終えて帰るまで、2時間かかることもざらだ。病院側としては、これで少しでも病院滞在時間を増やして、不測の事態に対応できる可能性を高めたいのかもしれない。転院を仄めかす保険会社に強引に押し切られただけで、本当は退院させずに手元においておきたかったというのが病院側の真意のようだ
 付き添いの看護師については、双葉のように24時間体勢ではなく、1日1回、介護の資格を持ったヘルパーが訪問してくれることになった。基本的には、午前中が通院で、午後はアパートでヘルパーを待つ。診察は医者が午前に行なうので、おれの生活状況をチェックするのがヘルパーの目的のようだ。他にも巡回先を持つヘルパーなので、やってくる時間はまちまちで、その間ずっと家で待っていなければならない。なんだかんだ言って、おれの自由時間も意外と少ない。ちなみに、このヘルパーの費用は、最初の1ヶ月間だけ、保険会社が出してくれることになった。なので、おれとしては、1ヶ月以内にヘルパー不要の状態にならなくてはならない。
 あとは、体温や血圧などの病院への報告。これは、2時間おきに携帯メールで知らせろと言われている。実際のところ、数値が知りたいのではなくて、メールを送ることによって、昏倒など不測の事態に陥っていないことを確認するのが目的なのだろう。定時のメールが届かない場合は、おれの携帯に連絡が入り、それにおれが応答しないと、救急車がやってくる。おれがいる位置は、GPSで常に把握されているらしい。夜も、就寝を知らせるメールが必要だし、朝の8時には最初のメールを求められるので、それまでには起きなければならない。仕組みとして、24時間付き添いに少しでも近い形にしようとしているのだろうと思う。
 それでも、双葉のおれのような24時間体制とは程遠いので、週に1度は入院して、各種検査を行なうことになっている。当面は、風呂も1日おき。1人での入浴は危険ということで、自宅の風呂は使わずに、通院時に看護師立会いの下、病院の風呂に入れてもらう。
 ある程度予測していたことだったが、退院したと言ってもおれの生活は制限だらけ。しかも、住み慣れた千葉のマンションに帰るのならまだしも、見知らぬアパートへの帰還だったので、退院したという実感はあまり湧いてこなかった。
 それでも、おれに取って1人の時間が増えたというのはとてつもなく大きな前進だった。通院と、午後のヘルパーの訪問時を除いて、双葉の肉感的な肢体に下半身が反応しないよう我慢する必要は、もうなくなったのだ。

 おれが退院して迎えた最初の朝。8時の定時メールを送り、前日に近くのコンビニで買っておいたおにぎりで朝食を済ませたおれは、布団に寝転んでいた。アパートの薄い壁越しに、隣の学生の部屋からテレビの音がかすかに聞こえてくる。
 アパートのおれは、双葉のおれが起き出すのを待っていた。今日は、夫がいる日だ。8時半。いつものように園子さんに起こされたおれは、急いでバスルームへ向かい、シャワーを浴びる。
 これまでは、服を脱ぐときも、鏡に背を向けていたが、今日からはそんな必要はない。おれは、鏡の前で服を脱ぎ、まずは下着姿のおれを存分に楽しんだ。この頃には布団に寝転がっているおれの下半身は硬くなり、おれはそれをティッシュでくるんだ。
 鏡の前のおれは、ブラの中に右手を潜り込ませ、右よりも感じやすい左胸をやさしく揉んだ。おれのペニスがいきり立ち、乳首も硬くなっていた。敏感になっているそれに触ると、声が出そうになるが、壁の向こうを意識して、必死に声が漏れるのを抑える。双葉のおれも、アパートのおれも。
 おれは、空いた左手でブラのホックを何とか外す。その瞬間、ぶるんと揺れたおれの胸を、おれは見逃さなかった。ペニスを擦るおれの手の動きが激しくなる。おれは、上半身を動かして、形のいいGカップのバストを揺らして見せた。乳首が上を向いているのがいやらしかった。おれは、鏡に向かって男を誘うような表情を作ってみせる。鏡の中の女がおれを誘っている。おれは――鏡の中の女は笑った。
 なんていい女なんだ、おれは。
 その瞬間、おれは、ティッシュの中に射精した。
 アパートのおれがぐったりする間に、双葉のおれはショーツを脱ぎ捨てて、シャワールームに入る。脱衣所で時間を食いすぎてしまった。全裸になってシャワーを浴びた。おれのペニスは、まだ力を失ったままだった。このあたりが若い頃とは違う。昔だったら、こんなセクシーダイナマイトのシャワーシーンを見せられたら、抜いた直後だろうとあっという間に復活したことだろう。
 おれは、急いでシャワーを浴びた。急いでいるからと言って、手は抜けない。女初心者のおれが師匠である園子さんの目を欺ける筈もない。
 髪を入念に洗い終え、シャワーも終わり、というところまで来て、おれの下半身が復活した。間の悪い話だ、と双葉のおれは苦笑する。
 今日の下着は思い切って、黒。これは対夫用の装備。おれの気持ちの中としては、対おれ用。退院祝いみたいなものだ。もちろん、病院へ行くときにはもっとおとなしい下着に着替えるのだが、園子さんは、おれが夫に対するときの格好についてはほとんど口を挟まない。下着姿で髪の手入れと化粧をするのもおれへのサービス。座っているので下半身は鏡に映らないが、黒いブラジャーで彩られたおれの胸の谷間が、いちいち鏡越しに見えている。おれは、化粧をしながらも、胸元に直接目を落としたり、時には、ブラの上から胸を揉んでみたりする。アパートのおれの方は、再びティッシュを用意して2回戦の準備。化粧を終えると、おれは下着姿のまま姿見の前に立って、おれを挑発した。セクシーという言葉は、今のおれのために作られたかのようだ。
 おれは、復活したペニスをしごきながら、姿見の前で服を着始めた。グレーのタンクトップ。ちょっと小さめなので、体にぴっちりくっついて、胸が強調される。Tシャツにしても、タンクトップにしても、こうして小さめのを着ると、実際よりも胸を大きく見せるから不思議だ。おれは、前屈みになって胸の谷間を強調したり、横向きになって胸を張り、Gカップの迫力をおれに見せ付けた。
 おれが、アパートのおれのために数々のセクシーポーズを披露していると、園子さんが入ってきた。朝食の準備ができたらしい。
「どうしたの? 今日は気合入ってるじゃない」
「そ、そうですか。最近、暑くなってきたから、薄着でもいいかなって」
「薄着と言っても、これはやりすぎでしょ」
 そう言って、園子さんは、おれの背後に回ると、黒のパンツ越しにおれのおしりを撫でた。
「ひゃんっ!」
 思わず声を出すおれ。タンクトップ姿でポーズを取るのに夢中で、まだ短パンを穿いていなかった。
「ご主人を朝から興奮させて、どうするつもりなの?」
 ごめんなさい。確かに興奮させるつもりはあったんですが、対象は夫じゃないんです。
「だったら、いっそのこと、こうしちゃいなさい」
 園子さんは、おれの背中から手を回してタンクトップの胸元をぐいと押し下げた。
 おれは、鏡の中にタンクトップの胸元から黒いブラジャーに包まれた谷間を覗かせているおれと、妖しくおれに絡みつく園子さんの姿を捉えた。
「あっ」
 おれとおれが同時に声を上げ、おれは本日2度目の射精を行なった。
 アパートのおれが果てると同時に、双葉のおれも力が抜けて、へなへなとその場に崩れ落ちた。
 園子さん、あなたはどこでこんな技を覚えてきたのですか?

 退院したおれは、朝は双葉のシャワーと共に自慰をするのが日課となった。さすがに初日のように2度抜くことはなかったが、朝抜いておけば、双葉のおれが少々エッチな目に遭おうとも、元々のおれが興奮してどうしようもなくなるということにはならないので安心だった。
 双葉と違って、おれが通院するのは、午前中。病院の常として、少しでも早く診察券を投函しないと、診察の時間はどんどん後ろに延ばされるのだが、双葉のシャワーに合わせるとなると、9時より前にアパートを出ることは無理だった。午後にはヘルパーがやってくるので、匂いが残らないようにと空気を入れ換える。ついでに掃除もするので、家を出るのは10時頃になってしまう。病院までは電車で30分もあれば行けるが、その頃には、診察待ちの長蛇の列。僅か5分の診察のために、1時間以上待たされるのは、ざらだった。
 診察を終えると正午近い。1日おきにある入浴の日には、病院を出る頃には1時を回っている。
 このあたりまでは、双葉同様なかなか過密スケジュールなのだが、午後になると、ヘルパーの訪問を待つだけなので、特にやることはなく、暇になる。ヘルパーが早く来た日などは、陽のある間、アパートの周囲を散歩して回り、買い物先となるスーパーやら外食の店やらを物色した。
 おれの睡眠時間は人並みなので、おれには夜というものが存在する。毎晩、10時頃までは起きていて、朝は6時には目が覚める。入院中のリズムがそのまま続いているので、こうなる。ちなみに、双葉のおれは、夫の起床時間に生活のリズムを合わせて以来、夜というものを経験していなかった。
 おれは、友人に運び込んでもらった荷物を少しずつほどいては整理していたが、それも数日で終わり、たちまちおれは暇を持て余すようになった。特に、雨など降るとどこへも出掛けられない。千葉に住んでいるとき、おれは車を持っていたが、向こうのマンションを引き払うときに処分してしまっていた。都内では、駐車場代だけでも馬鹿にならないし、維持費も掛かる。それに、万一運転中にフリーズでもしようものなら命に関わるので、おれは車の運転はもうしないつもりだった。同じ理由で自転車にも乗らないことにしたため、外出は歩きにならざるを得ない。雨の日に出掛ける気にならないのは、当然だった。
 おれは、暇な時間のうち、昼間は本を読んで潰した。実は、千葉のマンションにあった本は友人に処分されてしまったので、おれの手元には1冊の本も残っていなかったのだが、双葉として読んだ本は、双葉の記憶の中に丸ごと残っている。おれは、双葉の体が起きていて、おれの脳とつながっているときは、双葉の記憶を引っ張り出してきて、擬似的に本を読むことができた。その中には、当然、例の英国の女流作家の歴史ミステリーも入っている。双葉の体で読んで、レズシーンにときめいてしまった本だ。双葉の体ではレズシーン以外には楽しめなかった本だが、おれがその本を読み返してみると、ちゃんと面白く読めるから不思議だ。レズシーンのところは、おれ自身は取り立てて何も感じなかったが、双葉の方が想像の園子さんとのレズプレイを思い出してしまい、かあっと体が熱くなった。双葉のおれは、ちょうど診察を終えて園子さんの運転で自宅に戻るところ。その後、おれは園子さんとお風呂に入ったが、例によって一言も口を利くことができなかった。
 退院したおれが日課にしたもうひとつもの。それは、コーヒーだった。おれは、自他共に認めるコーヒー好きだったが、双葉の体で半年振りに飲んだコーヒーのあまりの苦さ、まずさは、おれのトラウマになりかけていた。それから1ヶ月。自宅で淹れて飲んだコーヒーは、やっぱりうまかった。こんなにうまいものを苦くて飲めないと感じてしまう双葉の舌が情けない。以来、毎朝朝食の後、双葉のおれが起き出すのを待つ間、コーヒーを飲むのが習慣となっている。同じコーヒーを飲むのでも、双葉の脳とつながっているときよりも、双葉の体が眠っていてつながっていないときの方がうまいと感じる。おれの舌であっても、双葉の脳とつながっているときは、苦味に対して双葉の脳が拒否反応を示すのかもしれない。
 退院してから3日目の夜、夕食を作るのが面倒だったおれは、宅配ピザを注文した。双葉の大好物のピザ屋のシーフードピザで、双葉のおれが退院した日に食べたときには絶品と思ったものだったが、おれが食べると、やっぱり何の変哲もない普通のピザだった。
 砂糖をたっぷり入れたミルクティーは、まだ飲んでいない。

 5月も中旬に差し掛かったが、双葉のおれの状況は相変わらずだった。相変わらず平熱が高く、相変わらず睡眠時間が長い。
 以前のように、意識不明になることはないので、特別深刻な問題があるわけではないが、睡眠時間の長さは異常だと医師たちは考えているようだった。これでもおれはがんばって睡眠時間を15時間まで切り詰めているのだが、おれの努力などないかのごとく扱われた。
 園子さんとの契約は、5月末までだが、少なくともこのときまでに、おれの睡眠過多が完治するとは思えないので、夫と園子さんと医者が相談した結果、園子さんにはもう1ヶ月おれについてもらうことになった。もちろん、この決定には、おれの希望も反映されている。おれとしては、園子さんから女として学ばなければならないことが、まだまだたくさんあったし、何より、たった2ヶ月で園子さんと別れるのは嫌だった。もうひとつ、園子さんがいなくなって、あのマンションに夫とふたりきりになるというのが怖かったというのもあるが。
 5月の下旬から、双葉のおれが病院へ通うのは、1日おき。月水金の週3回になった。おれの睡眠障害を改善する有効な治療法が見つからなかったし、試験的な意味合いの強い投薬は、おれが拒否していた。もちろん、医師に対して断固拒否を伝えたのは夫だったが。実際問題として、睡眠過多と言っても、おれが特に困っているわけでもないため、医師たちの中でも「現状維持やむなし」という声が大勢を占めはじめたようだ。少なくとも、毎日診察に来る必要はないし、場合によっては、2週間に1度、園子さんの休暇時に行なう健康診断の各種検査だけでもいいという声もあったが、取りあえずは1日おき。問題がなければ、病院に通う頻度も次第に減っていくことだろう。
 双葉の体の睡眠過多は、双葉とおれの脳がつながっている限り、完治しないだろう。おれは、投薬や手術による治療はすべて拒否するし、そのことについては夫も全面的に支持してくれているので、恐らくは一生このまま。双葉の体は、普通に寿命を全うしたとしても、常人の半分の時間しか生きられない、ということになる。だが、おれの人生に取っては、双葉の一生などおまけみたいなものだ。1日8時間しか起きていられないと言ったって、元々のおれと合わせたら、24時間フルに起きているようなものなので、十分におつりが来る。
 今のところ、双葉の体を拾ってしまったことによる収支は大きくマイナスだ。たかが盲腸で余計な入院を半年以上もされられたのだから。だが、これからはおれと双葉の2つの体を合わせて、1日24時間も使えることになる。これまでに失われた時間は、双葉として1年半も生きれば、取り返せる計算だ。
 それに、おれは、双葉が1日8時間しか起きていられないのなら、その時間の中で精一杯生きてやろうと思うようになっていた。たとえ自由になる時間が僅かだとしても、有意義に使う方法はある筈だ。実際、双葉の脳なら、僅かな時間で新聞の大半の記事を読むこともできるのだ。やりようによっては、起きている時間は半分でも、できることは他人の何倍にもなるかもしれない。
 病院がない日は、双葉のおれは、下のスポーツクラブに通うことにした。専門のスタッフにメニューを作ってもらって、1日おきにそれをこなしていった。メニューと言っても、ランニングマシンと水中歩行の繰り返しなのだけれど。最初は、ランニングマシンと言われて、走るのはちょっと無理、と思っていたのだが、実際には歩くようなスピードでおれでも充分にこなせるメニューだった。ランニングマシンと聞いて、走らなければならないと思っていたのはおれの思い込みで、よく考えてみたら、スピードは調整できるので、歩いたって構わないのだ。実際、周囲を見回しても、走っている人はまばらで、歩いている人がほとんどだった。
 おれの体力を考慮してのメニューなので、どちらも運動量としては本当に微々たるものなのだが、取りあえず、これを1ヶ月も続ければ、外出しても、路上で遭難しなくても済むぐらいの体力はつくだろう。

 一方、退院後の元々のおれの方は、順調な日々を送っていた。おれは、双葉と違って睡眠障害もないので、意識不明にさえならなければ何ら問題がない。長期の入院で、体力は大きく落ちていたが、バランスのいい食事と規則正しい生活、充分な睡眠時間によって、入院前よりも健康なぐらいだった。
 体力回復のためには、ひたすら歩いた。アパートの周囲をとにかく虱潰しに歩く。小さな路地にもどんどん入っていって、行き止まりで引き返すこともたびたびあった。1度だけ、双葉のマンションの近くまで行ったことがあるが、会ったことは1度もない。
 おれは、5月一杯を休養と体力づくり、入院・引越しに伴う各種手続きや雑事に当てて、6月から会社に復帰することにした。
 9ヶ月ぶりに会社に復帰したおれを、上司や同僚は拍手で迎えてくれた。女子社員から花束を受け取ったときは、おれは柄にもなくちょっと涙ぐんでしまった。正直、上場会社とは言え、昔ながらのところがあって、時代から取り残された感のある会社だったが、こういう情に厚いところがあるのは、美点だと思う。その分、これから先、生き残っていくのは大変なのだろうが。
 最初の1週間は、内勤だけで過ごさせてもらった。当面は、残業もさせないという配慮もしてもらっている。ただ、おれは、営業なので、得意先のスーパーなどを回るのが本来の仕事だ。長らく休んでいたし、中には、見舞いの品を貰ったところもあるので、1軒1軒挨拶回りをしなくてはならないのだが、数が多いため、葉書と電話で挨拶だけは済ませておいて、ちゃんとした訪問は、ゆっくりと時間をかけて回るということにした。内勤と外回りを1日おき。外回りも、1日中出払うのではなくて、半日ぐらいの間に近場から少しずつ回っていくという感じ。全部回り終わるのには、2ヶ月はかかりそうだった。
 おれは、週に1度、土曜日には診察のために病院へ通っているし、月に1度は会社を休んで検査を受けに行く。もちろん、おれには有給は残っていないので、これは欠勤扱い。いい加減、すっぽかしてやろうかとも思ったが、行かないと上司が心配するので仕方なく検査に出掛けていく。まあ、今更欠勤が何日か増えたところで、おれの勤務評価に影響が出ることはない。というか、これだけ欠勤してしまっては、いくら情に厚い会社だと言っても、おれの評価はボロボロだろう。
 ということで、おれは厳密にはまだ完治したわけではないのだが、会社にも復帰したということで、各方面から「全快祝い」をしてもらった。会社の上司、同僚、同期生、懇意にしてもらっている取引先、大学時代の友人から、実家の近所の人たちまで、様々な人に祝ってもらったので、6月の中旬頃は、まるで忘年会シーズンみたいに飲み会だらけで忙しかった。
 おれの病室に屯していた若い医師たちまでもが、全快祝いをしてくれたのには、驚いた。もっとも、酒が入ると、おれの部屋にやってきていたときと同様に、おれに愚痴ばかりこぼすのにはうんざりだったが。例の新人君は、あれ以来、双葉と1度も会ってもいないことを嘆いていて、いい方法はないかとおれに相談してきた。双葉のおれが新人君に気があると、本気で思っているらしい。妙なことを吹き込んだ先輩医師にも困ったものだが、元はと言えば、おれのいたずらが過ぎたのが原因だ。暇を見て、双葉の体で一度ぐらい医局に顔を出してやろうかとも考えたが、勘違いがますます進行すると困るので、やめておいた。お前に取って、おれは二度と会うことのない女神ってことでいいじゃないか。

 双葉のおれの方は、6月に入ってから通院が週3日から週2日になった。これは、おれが回復したというよりも、医者も匙を投げたといった方が近い。恐らく、あと1ヶ月。園子さんの契約が残っている間は、適当に通院して、そこで「完治」ということにしてしまうのだろう。実際、6月の中旬になると、通院は、更に減って週1回になった。
 スポーツクラブでの運動の方は、相変わらず1日おきに続けている。怠けようと思っても、園子さんがいるうちは、そんなことは不可能だ。スタッフの作ってくれたメニューをおれは黙々とこなしていた。プロが作ってくれるメニューは、おれがほんのちょっと頑張ればできるという絶妙の設定で作られいるので、やりがいもある。おかげで、ちょっとは体力もついてきた気がする。病院の駐車場と病棟の往復で歩くのが以前よりも楽になった。
 園子さんは、基本的にはトレーニング中のおれについているのだが、かつての水泳娘の闘争心に火がついてしまったのか、おれがプールに入る日には、25m自由形のタイムを1本だけ計ってもらっていた。いいタイムが出ると、その日1日ニヤニヤしているのが園子さんっぽくなくて、面白い。ゲスト会員の有効期限が切れる来年の3月までに、計画的にトレーニングをして、設定タイムをクリアするのが目標なのだそうだ。このあたりは、いかにも園子さんらしい。
 スポーツクラブにも病院にも行かない日の過ごし方は、様々だ。買い物に行くときもあるし、家で本を読んだりして過ごすこともある。
 そう言えば、1度だけエステに行った。双葉が入院する前によく行っていたエステサロンから会員券の有効期限が切れるとの通知が来たので、その前に行ってみようと思ったのだ。
 銀座にあるサロンに行くと、いつものコースでいいかと訊かれた。どうやら双葉はここの常連だったらしい。確かにこの店には何度も来た記憶が残っている。
 いつものコースでお願いすると、簡単なヒアリングでデータを取られた後、ジャグジーバスに入れられ、入念なハンドマッサージを受けた。ジャグジーは気持ちよかったし、ハンドマッサージもいろんな意味で気持ちよかった。園子さんは、見学。女性には珍しく、エステにはあまり興味がなさそうだ。というより、看護師としては、こういう商売を信用していないのかもしれない。おれとしては、充分気持ちよかったし、リラックスもできたので、エステ自体には、とても満足だった。
 ちなみに、双葉が通っていた「いつものコース」というのは、痩身コースだったようだ。おれの体は、出るところは出て、引っ込むところはそれなりに引っ込んでいる。胸はもちろん、太腿などもボリュームがあって肉感的なところがおれのセールスポイントだと考えているので、これ以上太るのは困るが、やせる必要は全然ない。痩身コースなんて、この体には不要だと思うのだが、女性というものは、常に「やせたい」と思っているものらしい。そう思わないのは、園子さんのように本当に細い人だけのようだ。おれは、あくまで男目線で双葉の体を見ているので、普通の女性とは違う考え方になるのだろう。
 エステが終わって、帰りがけに会員証の更新を勧められたが、値段を聞いて断った。年会費が馬鹿高かったからだ。元々のおれの月給よりも高いのだ。確かに今日は気持ちよかったが、こんな大金を払うほどのものではない。
 最近のおれは、夫から我が家の家計についていろいろ聞いているので、無駄な出費は極力抑えようと思うようになってきた。主婦としては当然のことだろう。うん。夫の後ろで家を守る主婦なのだ、おれは。
 特に、この半年余り、おれの入院費やら、園子さんを雇う費用やらで、家計は苦しいようだ。実際、夫はまた少し株を処分したらしい。夫は、株やマンションという財産は持ってはいるが、年収という意味ではたいしたことはない。昨年は、役員報酬と株の配当金を合わせて1000万を超えたぐらいだったそうだ。自宅のマンションは夫の所有物だが、管理費が通常の賃貸マンションの家賃よりもはるかに高いような金額なので、それを払ってしまうと、手元にはあまり残らない。我が家は貧乏ではないが、金を湯水のように使えるというわけでもないのだ。財産ではなく、収入に見合った生活をしていかないと、やがて家計は破綻する。
 ところで、最近聞いたことなのだが、どうやらおれは夫の会社の役員らしい。取締役なのだそうだ。社長とか専務とか常務という役職はつかなくて、名前だけのもの。役員を経営側の身内の人間で占めてしまおうということのようだ。全然知らなかった。双葉の記憶の中には、そんな事実はどこにも出てこない。そう言えば、夫に連れられて、夫の会社に一緒に行ったという記憶があるが、あれは、役員会だったのかもしれない。双葉はまるで理解していなかったようだが。
 それにしても、上場会社の取締役とは、おれも知らないうちに出世したものだ。しかも、こんな美貌の取締役ときている。もし、ミス取締役なんてコンテストがあったら、絶対におれが優勝するだろう。あ、おれはミスじゃないか。ちなみに、夫と一緒に会社を創業した社長・副社長の妻たちも取締役に名を連ねているそうだ。
 更に言うと、おれは、夫の会社の株主でもあるようだ。おれの持ち分は全体の2パーセント弱。上場会社の株主としては、結構な比率だ。全体でも10番目ぐらいの株主らしい。おれの持ち株の時価総額は1億2000万ほど。夫からこの話を聞いたときには驚いた。おれって、そんな大金持ちだったのか。これなら、夫と離婚したって、路頭に迷うことはない、と思っていたら、この話には裏があった。おれには借金があるのだ。夫に1億円ほど。何のことはない。双葉は、結婚するときに夫から借金をして、その金で夫から株を買ったのだ。役員名簿に双葉の名前がある名目上の理由は、この株があることだろう。ちなみに、当時1億円で買った株は、今では2000万も値上がりしているので、双葉には株の才能があったのかもしれない。おそらくは、ビギナーズラックという奴だろうが。
 そんなわけで、まったく働いていない双葉のおれには、役員報酬と株の配当という収入がある。そうたいした額ではないが、小遣いとしたら、かなりの額だ。おれは、洋服だの化粧品だの、自分が使う分の支払いは、その金で賄うことにしている。エステの会員権も、その金から支払われるべきものなので、元々のおれの月給よりも高いエステなどというものに、金を払いたくはなかったのだ。

 6月も中旬になると、園子さんとの別れの日が近付いてくる。園子さんは、7月からの仕事を探していて、そろそろ決まりそうだと言っていた。札幌で、病院勤務に復帰するのだそうだ。前回の休暇の時には、札幌に戻って面接を受けてきたらしい。
「園子さんがいなくなると、寂しくなります」
「来月もいてほしかった?」
 いてほしいのは、もちろんだが、無理を言うわけにはいかない。今月1ヶ月契約を延長したように、こちらから残ってくれと言えば、園子さんは残ってくれるだろうが、そうもいかない。なんと言っても、園子さんは高いのだ。こんな優秀な看護師を実質24時間勤務で雇うのは、夫に取ってはかなりの負担だと思う。もちろん、双葉名義の収入で賄えるような額ではない。何より、おれも、そろそろ園子さんの手を離れて、独り立ちしていかないといけない。
 ただ――。
(はあ……)
 おれは、ひとりため息をつく。
 病院から「完治」だと言われ、園子さんがいなくなる。その先にあるものは――。
 今度こそ、夫はおれを抱くだろう。おれは、夫に抱かれるのだ。
 夫とのセックスをずっと先延ばしにしてきたおれは、いまだにその覚悟ができていなかった。

「はい、これ」
 夫と朝食を摂っているとき、夫の会社の封筒を一通渡された。
「園子さんと、行ってくるといい」
 中には、A4の紙が1枚。パソコンでプリントアウトした用紙。夫の会社でネット予約した旅館の宿泊券のようだ。
「来週だけど、いいよね。箱根なら車で行っても高速ですぐだし、何なら、新幹線で行ってもいい。老舗のいい宿らしいよ」
 用紙には、宿の名前や宿泊日がプリントされている。宿泊日は園子さんとの契約が終了する1週間ほど前の日付だった。人数欄には「2名様」とある。
「ダーリンは?」
「ぼくはいいよ。というか、その日は平日で、出張。これは、園子さんにお礼の意味をこめてのぼくからのプレゼント。何しろ、3ヶ月もの間、双葉のためにがんばってくれたんだからね。ぼくはいいから、園子さんとふたりで行っておいで」
 夫が出て行ってから園子さんにこの話をすると、園子さんは既に知っていた。実は、園子さんは、夫からこの話を何日も前に持ち掛けられ、箱根という行き先も園子さんが決めたらしい。
「わたしは、こちらの観光地とかよくわからないので、双葉さんと相談して決めようとしたんですけど、ご主人が、わたしへのプレゼントなんだから、わたしが決めればいいと言われたので、勝手に決めさせてもらいました。本当にこちらのことはよく知らないので、3つあった候補地のうち、聞いたことがある場所にしたんですけど、よかったですか?」
 あとの2つは、千葉の館山と伊豆の伊東だった。確かに、北海道の人からすると、馴染みがある地名は、箱根ぐらいか。
「あたしは、園子さんと一緒だったら、どこでもいいです」
 この日からおれと園子さんは、空いた時間にこの1泊2日の小旅行のための計画を練り始めた。園子さんとふたりきりで旅行だなんて、わくわく、どきどきする。毎日お風呂は一緒だし、夫が出張の時には同じ部屋で寝ているわけだけど、旅行となると、同じようにお風呂に入って、同じように一緒に寝ても、気分が違う。
「夫は、車でも新幹線でもどっちでもいいって言うんですけど、どっちで行きます?」
「もちろん、車」
「そうなんですか」
「だって、折角毎日のようにZに乗っているのに、高速を1度も走ることなく終わるなんて、ありえないでしょ」
 ひょっとして、園子さんって、意外とスピード狂の人ですか?
 下の本屋で、ガイドブックをいくつも買い込んできて、周辺の観光地の検討などをする。1泊2日では、おれが起きている時間を考えると、宿に行って、温泉に浸かったら、あとは寝るだけという旅行になりそうなのだが、こうして事前にふたりで調べ物をしたりするのが楽しい。
「ねえねえ、何着ていく?」
 旅先の話だけではなく、着ていく洋服の話でも盛り上がるのが、女の子同士の旅の醍醐味だろうか。実際に、買い物に出掛け、これがいい、あれにしたら、という感じでまたも盛り上がる。旅行のための買い物は、いつもの数倍楽しいから、不思議だ。もちろん、おれに取っては、そんなこともはじめての経験。
 宿をネットで調べたところ、芦ノ湖を見下ろす高台にあるらしい。
「箱根って、定山渓みたいなところかと思ってたけど、湖があるとは知らなかったな」
 パソコンの画面に映された宿からの眺めを見て、園子さんが言った。
「箱根は知ってるんじゃなかったんですか?」
「名前だけ、ね」
 どうやら、正月の駅伝でよく聞く地名というだけの知識だったみたいだ。
「離れの部屋を取ってくれたらしいよ」
 数日後、宿泊する宿について、夫が詳細を教えてくれた。庭園の中に離れが建ててあって、そこに泊まれるようになっているのだという。都会のホテルで言えば、最上階のスイートにあたる位置づけの部屋だそうだ。ネットにもその部屋のことは公開されていなかった。宿から見たら、おれは取引先の取締役ということになるので、特別に手配してくれたのかもしれない。もちろん、夫がそれなりの宿泊料金を払っているということなのだろうが。
 おれと園子さんは、旅行の日が来るのを指折り数えるように待った。
 その日が近付いてくるということは、おれと園子さんの別れの日が近付いてくるということでもあったのだが。

 旅行の前日には、おれと園子さんは翌日の準備でてんてこ舞いだった。
 おれが双葉になってから、はじめての泊りがけでの外出。男のおれは、1泊2日程度の旅行だとほとんど準備をしない。下着の替えを持っていくぐらいだ。ところが、女性の旅行というのは1泊2日であっても、準備からして大変だ。1日のうち、夜(おれの場合は早寝なのでせいぜい夕方だが)や朝に必要なものを一通り持っていかなければならないのだが、これが半端な量ではない。下着や2日目に着る洋服は言うに及ばず、旅行ともなれば目一杯のおめかしをするので、洋服に合わせたアクセサリーも持っていく。初日につけたアクセサリーをしまっておくケースなども必要だ。当然、靴も、洋服に合わせないといけないので、別途必要になる。旅慣れてくると、洋服だけ替えて靴やアクセサリーは同じでもいいようなコーディネートを考えたりして、荷物を少しでも減らそうとするのだそうだが、おれのような初心者ではそれは無理。量が多くなろうと、ひたすら必要な品を旅行カバンに詰め込んでいく。車で行く旅行なので、荷物を持って歩かなくてもいいから、そのあたりは気楽なものだ。もっとも、おれと園子さんが乗っていくフェアレディZは、荷物はあまり積めないのだけど。
 翌日分のお召し物の他に、旅館に入ってからチェックアウトするまでの間に着られる軽装の普段着も持っていくことを、園子さんに勧められた。温泉宿なので、浴衣と羽織はあるだろう。浴衣では行きづらいが、かと言って、おめかしし直すのも面倒だというとき(たとえば、車でちょっと近くのコンビニに買い物に行くとき)に、重宝するのだそうだ。Tシャツ、パーカー、ジーンズ、スニーカーというカジュアル用品一式を入れておいたが、案外、これがかさばってしまった。
 もちろん、化粧品は必需品だが、いつものおれのメイクは、自分が持っているありったけの化粧品を鏡台の前に並べて、その中から必要なものを選択して顔に塗りたくる、というスタイルだ。園子さんからは、「そんなにいっぱい並べて、何がどこにあるかよくわかるわね」と呆れられているが、おれには、持ち前の記憶力と処理能力があるので、化粧品を決まった場所に置かなくても、ちゃんと必要なものを必要なときに取り出せる。だが、旅行鞄の中に、この化粧品の山を全部入れるというのは現実的な選択ではない。対策としては、2日目に必要な化粧品だけを持っていくというのもあるが、2日目の朝、メイクをしてみてやっぱりあれが欲しかったということもあるので、リスクが大きい。実際、おれのスキルでは、必要な化粧品だけをあらかじめピックアップするのは無理。いつもはその場その場で、山のような壜の中から役に立ちそうなものを探し出しては使っているのだ。
 そこで、第2の方法、旅行用の簡易的なメイクセットを買ってきて、持って行くということにした。こういうのは、量が少ないので割高な上、いつも使っている化粧品とは微妙に違うものだったりするのだが、仕方がない。園子さんに言わせると、ありあわせの化粧品でもそれなりのメイクができることが女の嗜みなのだそうだ。一応、セットに入っていなくて、必要になりそうなものは少量の使いきりタイプのものを買ってきて、持っていく。風呂上りの日課になっているお肌のお手入れも欠かせないので、これはいつも使っているものの少量のタイプを買ってきて、持っていくことにした。万事にこんな具合なので、女性の旅行では、交通費や宿泊費よりも、新調する洋服やアクセサリー、化粧品の代金の方が高くなるんじゃないだろうかと思った。

 慌しく準備の日々が過ぎた後に、ついに旅行の当日がやってきた。
 おれは、いつものように8時半に園子さんに起こされた。元々のおれの方は、会社で始業時間を迎えたところ。夫は、前日から出張でいなかったので、おれは、園子さんの部屋で寝ていた。
 梅雨時で雨が降りがちなのは仕方がない。外を見ると、今はまだ雨が降っているらしく、ガラスに水滴がついているが、天気予報によると、神奈川県西部地方は午後から晴れ。今の時点でも、雨はもうやんでいる模様。
 おれは、いつものようにシャワーを浴びる。このシャワータイムは、元々のおれが退院して仕事に復帰する前まではお楽しみタイムだったのだが、会社に復帰すると、入院中と同様、興奮を抑えるのを苦労する厄介な時間になっていた。始業直後のこの時間は、トイレの個室も塞がっていることが多いので、自席で耐えなければならない。
 入院中も、双葉の悩ましい姿に散々悩まされたおれだが、仕事に戻ってからは、その悩みは更に大きくなっている。病院での出来事であれば、言ってみれば、その場限りの付き合い。退院してしまえば、会わなくなる人たちばかりだ。だが、会社内で痴態を晒したりすると、定年を迎えるまでずっと「例のあの人」ということで変な目で見られ続けることになる。最悪の場合、それで退職に追い込まれるかもしれない。
 双葉が起きている時間は、朝の8時半から夕方の5時半頃まで。偶然にも、おれの会社の勤務時間と一致する。ということは、おれは、平日は、双葉のどんな姿も楽しむわけにはいかないのだった。
 朝食を食べた後、先週、園子さんと一緒に買ってきた洋服に着替えた。6月も下旬ともなれば、雨さえなければ季節は完全に夏。今日のおれは、レモン色のノースリーブのワンピースで、下は思いっきりミニ。肌の露出具合は、下のスポーツクラブでいつも着ている水着と大差ないんじゃないかとさえ思う。ノースリーブやミニスカート、時にはキャミソールのような露出の多い衣装は、夫を起こすときには結構着ているのだが(何だかんだ言って、おれがそういうのを着ていると夫は嬉しそうなのだ)、こんなの着て外に出たことは1度もない。姿見に映る派手な黄色いワンピースに身を包んだおれは、スタイルがよくて、セクシーで、かわいくて、と、もう何も言うことがない完璧な姿。男たちの目は、すべておれに釘付けだろうが、自分がそんなセックスアピールのシンボルみたいに見られるのは、恥ずかしくて仕方がない。
 どうしてこんな派手な格好になったかというと、買い物のとき、園子さんが「和風の旅館だから、和服で行こうか」なんて言い出したからだ。さすがに、和服は苦しいと言うし、そもそも今は夏だし、ということでお断りしたのだが、だったら、ということで、和服とは180度正反対のようなこの服を勧められた。というか、この服しか許してもらえなかったのだ。恥ずかしいからと必死に断り続けていたのだが、最後は、和服とこれとどっちを選ぶかという究極の選択を迫られて、おれの魅力を120パーセント引き出してしまうようなこの服を買わされたのだ。
「うわあっ、ふーちゃん、凄い! なんて完璧なの。やっぱり、あなた、天才」
 天才って……。おれは、服着て立ってるだけなんですが。
「やっぱり、恥ずかしいですよ、この服」
「どの辺が?」
「どの辺って――露出度高すぎです」
「露出が高すぎておかしなところ、ある?」
 そういう言い方をされると、元々セクシーなおれの体に似合いすぎるほど似合っているだけで、おかしくはない。理屈で言いくるめられている、と思いながらも、おれは、仕方なく小声で言った。
「――ないです」
「だったら、何の問題もないでしょ」
「でも、あたし、これでも一応、取締役ってことになってるんですよ。今日行くところは、夫の会社の取引先でもあるんだし。取締役のあたしがこんな格好じゃ、まずいでしょ」
 おれは、精一杯の抵抗を試みるが、おれの抵抗をあらかじめ予測していたように、こう言った。
「よし、わかった。じゃあ、今日一日、わたしが取締役ってことにしてあげるから。だったらいいでしょ」
「そ、そんな」
 こうしておれは、セクシーで、かわいくて、でも、死ぬほど恥ずかしい格好で箱根まで行くことになった。
「あ、双葉ちゃん、ちょっと待って」
 あきらめて姿見の前を離れようとしたときに、園子さんがおれを呼び止めた。
「ちょっとワンピースの裾のところが……」
「え?」
 園子さんは、おれの足元でしゃがむと、おれのレモン色のワンピースの裾を持って――めくり上げた。
「きゃっ」
 おれは、思わず悲鳴を上げた。姿見には、黄色いワンピースの裾をめくられて、ライトブルーのおれのパンツが見えていた。
「そ、園子さん、何するんですか」
「だって、双葉ちゃん、今日はせっかく気合入れて派手なパンツはいてるのに、ここで見せておかないと、見せるときないじゃない」
 園子さんが言うとおり、今日のおれは、気合を入れて、下着もライトブルーの派手パンツで決めてきているのだ。もちろん、ブラもパンツとお揃いのライトブルー。黄色と青。明るい原色系の2つの色が、今日のおれの隠しコンセプトだったのだが、別に誰かに見せたくてこうしたわけじゃない。敢えて言えば、自分で見て楽しむ程度。大体、園子さんも言ってたじゃないか。見えないところまで気を掛けるのがおしゃれだって。
「双葉ちゃん、この格好は反則」
 園子さんが鏡を見て、そう言った。確かにそうだ。とっくに始業時間を迎えて、真面目に仕事していたおれは、おれのパンチラ姿を見て、机の前に座ったまま立ち上がれない状態になっている。今日は、これから得意先まで行かないといけないというのに。
「おっと、3原色が揃ったね」
 園子さんに言われて鏡を見ると、黄色いワンピースから青いパンツを覗かせたおれの顔は、恥ずかしさのせいで真っ赤になっていた。

 おれと園子さんは、10時にマンションを出た。いつものようにフェアレディZを園子さんが運転し、おれが助手席に座った。元々短いワンピースの裾は、座るともっと短くなって、自分で自分のパンツが見えちゃいそうだ。そこまでは行かなくても、おれの健康的な白い太腿があらわになっていて、自分でも目のやり場に困ってしまった。
 外に出たときには、雨はやんでいた。路面はまだ濡れていたので、上がったばかりというところだろう。
 双葉として遠出をするのは、横浜までピザを食べに行ったとき以来の事だった。あのときと同じように、東京湾を横目に見て横浜へと向かった。あのときと違うのは、夫がいないこと、車がセルシオからZに変わったこと、そして、園子さんが飛ばすこと。路面が乾いてくると、法定速度をはるかに超えるスピードでフェアレディZは走り出した。おかげで横浜まではあっという間だった。
 横浜で一般道に出ると、ちょっと渋滞があって、足が鈍った。ここで通りにあった喫茶店でちょっと休憩。店を出た頃には日が射してきたので、おれは、ノースリーブの上から薄手のジャケットを羽織ることを許してもらった。トランク(ではなく、ラゲッジルームと呼ぶらしい)の旅行鞄からジャケットを引っ張り出すときに、園子さんの鞄があいていて、文庫本が入っているのが見えた。
「園子さん、今、これ読んでるんだ」
 園子さんは、例の大人買いした作家の本は、夫の図書室にあったものも含めて、とっくに読み終えてしまっていた。最近では、夫の図書室からいろんな本を持ってきては読んでいるようだ。相変わらず、読むペースは速いみたいで、同じ本を2日続けて持っているのは見たことがなかった。
 園子さんが持ってきたのは、英国の女流作家の歴史ミステリー。例のメイドと令嬢のレズシーンがある作品だ。
「うん。今日から下巻を読み始めたところ。双葉ちゃんも読んだんだよね。面白いね、これ」
 あのレズシーンは上巻にあったから、園子さんは、もうその部分は読み終えたということだ。おれはまた、この本を読みながら、園子さんとのレズシーンを想像してしまったことを思い出してしまう。園子さんは、この本を読みながら、おれとのレズシーンを思い浮かべたりはしなかったのだろうか、などと考えているとまた、顔が赤くなってきた。
 フェアレディZは、一般道の渋滞を抜け、バイパスを通ったりしながら、西へと向かう。午後になって、膝に日が当たるようになってきたので、タオルで隠した。肌を露出させている部分には日焼け止めクリームを塗っているのだが、できることなら、6月の強い日射しは避けたほうがいい。
 あまり役に立つことは残っていない双葉の記憶だが、さすがに商売柄、日焼けに関する知識は豊富だった。園子さんよりも詳しいぐらい。まあ、園子さんは、北海道の人なので、こちらの人間に比べると、日焼けに対する恐怖感は薄いというのもあるのだろうが。夏を迎えるにあたって、日焼け止めを買いに行ったときには、珍しくおれの方が園子さんに講釈を垂れていて、おれはなんとなく優越感に浸ったものだ。
 平塚を過ぎると、左手には湘南の海。ちょうど晴れてきて、海が青かった。多少、遠回りで時間が掛かるかも知れないが、この海を見るために横浜から一般道経由の道を選んだのだ。
「きれいねぇ」
 バイパスで、再びスピードを出せるようになったこともあって、園子さんはご機嫌のようだ。おれは、助手席で、うとうとし始めたところだった。

 この日、会社のおれは、外回りの得意先をいくつか抱えていた。仕事に復帰したばかりの頃は、外回りは1日おき。訪問する得意先も、1日1箇所となっていたのだが、復帰から1ヶ月近く経った今では、毎日のように、得意先へと出掛けていく。この日は3社の予定。午前中に都内の小さなスーパーを2つ回り、午後は千葉の向こうまで行かなくてはならない。
 復帰直後は、1年近いブランクに戸惑うこともあったが、今ではすっかり以前のペースを取り戻している。それどころか、双葉の能力が使えるので、とても重宝している。まず、何と言っても記憶力。双葉とつながっているときは、おれが見聞きしたことを何でも記憶してくれるので、会議などでメモを取る必要もないぐらいだ。会議の内容にしても、適当に聞き流しておいても、発言を求められてから双葉の記憶をたどっていけば、慌てることなく答えられる。計算も、双葉の脳なら電卓を叩くよりも速いし、入力ミスもありえないので正確だ。各部署から山のように送られてくるメールに目を通すのも、流し読みだけしておいて、必要になったら双葉の記憶から引き出せばいいので、時間を節約できる。もちろん、これらは、双葉のおれが眠ってしまったら使えなくなる能力だが、今の双葉の生活リズムだと、定時時間内は起きていてくれるので、それも都合がよかった。
 ということで、おれは、入院前に比べて、随分仕事が楽になった。と言っても、営業成績が上がったわけではない。面倒な事務作業に掛ける時間を多少削減できただけなので、外回りの移動と会議で時間を食ってしまうおれの仕事の中では、実際の効果は大したことがないのだが、気分的に全然違う。入院前のおれは、事務処理を溜め込んでしまう方で、外回りから戻っても、片付けなければならない書類が山のようにあると、頭が混乱してパニックになったものだが、今ではそんなことにはならなくて済む。元々のおれの頭では目一杯の仕事量でも、覚醒した双葉の脳に取っては、ほんのごく僅かの量なのだ。今までは、何から手をつけたらいいかわからなくて悩んでいたものが、今では、何から手をつけても最終的にはすべてを終わらせる自信があるので、仕事をする上でのストレスがない。
 この日も、会社に戻ったら、書類仕事が8つばかり溜まっていて、午前中の得意先で更にそれが2つ増えたのだが、どんなに仕事が溜まっても、双葉の脳が憶えていてくれるので、おれは差し迫った仕事から順番に片付けていけばいいだけだ。
 おれは、午前中の得意先回りを終えて、電車に乗って千葉方面へと向かう。時間がなかったので、昼食は駅の立ち食い蕎麦で済ませた。
 おれが担当する得意先は、ほとんどが東京都内にある。周辺の県にはそれぞれ支店があるので、当然そうなるのだが、これから行くスーパーは、元々東京にあった会社が、千葉県に大きな配送センターを作ったついでに、本社機能の半分を移転させてしまったというところだった。相変わらず本社は東京なので、おれがいる東京本社営業部の担当だが、関係部署は千葉県に移転してしまったので、商談時にはそこまで足を運ばないといけない。千葉と言っても、成田の更に先なので、おれの会社から1時間半は掛かる。たまに行くだけのおれはまだいいが、東京の本社から千葉の奥へと飛ばされた関係部署の面々は、おれが行くたびに愚痴をこぼしていた。
 昼時の電車は空いていて、千葉県に入る頃には座れるようになった。蕎麦だけとは言え、昼食後の満腹感もあって、おれは千葉を過ぎる頃にはうとうとし始めていた。

 小田原を過ぎて、いよいよ箱根の山道に入った頃、突然、元々のおれとの意識が切れた。
 どちらのおれも、丁度うとうとしていた所だった。向こうは、眠ってしまったのだろうか?
 1年近くも休んだ会社に復帰して、1ヶ月。そろそろ、疲れも出る頃だ。眠いのであれば、無理に起こす必要もないだろう。双葉のおれは、元々のおれには、呼びかけないことにする。
 双葉のおれだけが起きていて、元々のおれが寝ている状態での注意事項を思い返してみる。とにかく、この状態のおれは、自制心が働かなくなりがちなので、それに注意する。そう。何に付けても自制心。それが肝心だ。あと、刃物は絶対に持たないこと。これは絶対に忘れてはいけない。刃物には、近付いても駄目だ。それ以外にも、危険なことは、絶対にしない。
 よし、大丈夫。ちゃんと憶えてる。当たり前だけど。双葉の脳なんだから、忘れたりしない。
 車は、さっきまで海沿いを走っていたのが嘘みたいに、山を登っている。カーブが多くなって、園子さんは、大変そう。――いや、これはこれで園子さんは楽しんでいるのかも。
 有料道路の料金所が何度かあるが、ETCがついてるから、関係ない。支払いはどうなってるんだろう? 多分、夫のカードで引き落とし。この旅行は夫からのプレゼントだって言うから、それでいいか。
 フェアレディZは、ワインディングロードを進む。右手に大きな湖を見ると、そのうち、雄大な富士山が見えてきた。
「うわあっ。富士山、きれい。凄い。大きい」
 とおれは盛り上がるのだが、園子さんは浮かない顔をしている。
「確かに、きれいで大きいと思うけど、大き過ぎない?」
「え?」
「何だか、道を間違えてるような気がするんだけど」
「そうなんですか?」
「だって、さっき、静岡県って看板があったような――。箱根って、神奈川県だよね」
 神奈川で合ってると思う。ていうか、朝、神奈川県西部地方の天気をチェックしてたし。
「富士山は静岡県だよね。こんなに大きく見えるってことは、もう富士山の近くまで来ちゃったってことでしょ。箱根なんて、とっくに通り越して、とんでもない方向に行ってたら、どうしよう」
 園子さんは、路肩に車を止めて、カーナビの地図をチェックしてくれと言った。
 地図によると、おれたちの車はワインディングロードをほぼ北上しているようだ。右手に湖があって「芦ノ湖」と書いてある。さっき、右手に見えた大きな湖が芦ノ湖なのだろう。
「ほら、この地図、ガイドブックにもあったじゃないですか。富士山がきれいに見える展望台があるって書いてあったところ。そこで、富士山をバックに写真撮ろうって言ってたじゃないですか」
「でも、あんなに大きいなんて、絶対変よ」
「そりゃ、富士山なんだから、大きいでしょ」
「でも、双葉ちゃんの家から見える富士山はもっと小さいでしょ」
 うちのマンションからも、晴れている日には富士山が見えることもある。園子さんが来てから――というか、おれが双葉になってから、そんな日が何日かあった。
「うちは東京だから、小さいのは当たり前です。大丈夫ですよ。取りあえず、ここの展望台まで行って、誰かに訊いてみましょうよ」
 3ヶ月園子さんと暮らしてみてわかったのだが、園子さんにも苦手なものがある。それは、地理だった。毎日通っていた病院への往復はともかく、買い物に出掛けるようなときには、よく道を間違える。最初は、北海道の人なので、東京の土地勘がないからだろう、と思っていたのだが、どうも、見ていると、それ以前に地図というものを理解できないらしい。おれを連れてはじめて病院へ行ったときも、「練習を兼ねて、この車をお借りして病院との間を何往復もしました」と言っていたが、あれも、今思えば、何往復もして道を憶えないと迷ってしまうという自覚があるからだろう。現に今も、ガイドブックで何度も見た地図と同じ形がカーナビに表示されているのに、迷ったんじゃないかと心配している。
 おれは、何かに付けて完璧な園子さんの弱点を見つけると、何だか嬉しい気分になってしまう。有能で完璧な女性もいいけど、こういう玉に瑕なところがあった方がかわいいって思えるし、読めない地図を必死になって読もうとしている姿もけなげでいじらしい。
 おれは、訝しがる園子さんを何とか宥めて、富士山の見える展望台まで行った。元々、今日の目的の1つにしていた場所だった。
 展望台からの富士山の絶景は素晴らしかったが、園子さんは、ここが静岡県だということが納得行かないらしい。駐車場に止まっていた観光バスの運転手と何やら話をしていたが、やはり、納得が行かないという表情で戻ってきた。
「このまままっすぐ行けば、芦ノ湖の方に下りられるんだって。やっぱり、ここで合っているみたい」
 そりゃそうだろう。展望台の名前まで同じなんだから、合っているに決まっている。
 車を降りたおれは、間違っても崖から落ちたりしないように、崖の近くには絶対に近寄らないように注意する。思わぬ方向から車が出てきて轢かれたりしてもいけないので、あたりをしっかり見回して、細心の注意を払う。これだけ気を付ければ、大丈夫。
 おれと園子さんは、富士山をバックにデジカメで記念撮影。この目で見た光景は、おれの記憶に残るので風景写真はいらないが、自分の姿は見ることはできないので、写真に収める必要がある。当然、ジャケットは脱いで、レモン色のワンピース姿になる。まずは、園子さんと交替で撮りあったが、ふたりで並んだ写真も欲しいので、通りがかったカップルにお願いした。
 園子さんが彼氏にカメラを渡して使い方を説明しているときに、おれは彼女の方と目が合った。歳はおれと同じぐらい。ただ、おれと違って純粋にかわいい系。かなりレベルが高い。これはいい勝負。
 園子さんからカメラを受け取った彼氏が、おれに目を向ける。視線が合ったときににっこりと笑ってやったら、慌てて視線を外した。それを見ていた彼女の顔が険しくなる。この男、彼女の目を気にして、わざとおれから視線を外したのか。それとも単に純情なだけなのか。
「はい、チーズ」
 彼氏がシャッターを押す直前に、おれは、レモン色のワンピースの裾をちょっと持ち上げて見せた。
「あ」
 おれの動きに、男が、明らかに動揺した。どうやら、純情君の方だったようだ。おもしろい。
 ただでさえ露出の高い服を着ているおれがそんな動きするのだから、そりゃあ、純情君なら動揺もするだろう。裾を上げても、パンツまでは見えていない筈。
「ごめんなさい。今、失敗しました。もう1回お願いします」
 2回目も同じように裾を上げてやったが、今度はちゃんと撮れたようだ。写真の具合を確認する顔が赤いのがかわいい。彼女の方はそんな彼氏をふくれっ面で見ている。勝った。でも、ちょっといたずらが過ぎたかも。
 園子さんがお返しにカップルの写真を撮ってあげたが、彼女の方は終始不機嫌なままだった。

 展望台を後にしたおれと園子さんは、少し早いが宿へと向かった。5時半には寝てしまうおれなので、早く宿に入らないと入浴と夕食という旅館の2大イベントを満喫できないのだ。そのため、本当は3時にならないとチェックインできないところを2時のチェックインということにしてもらっている。
 おれは、助手席で、先刻撮影したデジカメの画像を見ている。何と言っても、おれと園子さんが並んで写っている写真。雄大な富士山をバックに、清楚で真面目な印象の園子おねえさまと、元々露出の高い服の裾をめくりあげてセクシー度をアップさせる馬鹿妹(おれ)のツーショット。エッチなおれの隣で、澄まし顔の園子さんも、何だか却ってエロい感じが出て、これはそそるなぁ。今は、元々のおれとつながっていないので、反応するものは持ち合わせていないけど。
 おれの方は、ちょうどいい感じでパンツがギリギリ見えていないのがいい。まさに計算どおり。あの彼氏、今日は一日、おれのパンツがどうなっているか、妄想し続けそうだ。どうせなら、ライトブルーという色だけでも教えてあげればよかった。
 実を言うと、おれも、このワンピースの下がどうなっているか知っている筈なのに、さっきから気になって仕方がない。ワンピースの裾をめくって、中を見たくて仕方がないのだ。
 いつもは、短いスカート系の服で座るときには、おしりを手で押さえてスカートの後ろ部分を踏み、万一風でスカートがめくられても大丈夫なようにして座っている。女性の動作としては、かなり初歩の技術だが、今のおれは、そんなことをしていない。短い裾のワンピースで座席にふわっと座ったので、ライトブルーのパンツとシートが直接触れ合っている状態。おしりの押さえがないので、裾をめくったら、パンツが丸見えになることは間違いない。
 展望台を過ぎても、ワインディングロードが続く。園子さんは、ハンドル操作で手一杯な上、峠を攻めるライダーに絡まれて大変そうだった。さっきの展望台にバイクの一団がいたが、Zに乗る若い女性2人組ということで、絡んできたのだろうか。
 どちらにしても、園子さんにはおれの方を向く余裕はまるでなさそうだ。
 おれは、まずは、ワンピースの裾の左側――つまり、運転席の園子さんからは死角になる部分を摘んでみた。ゆっくりと引き上げると、――おお。見えてきた。レモン色のワンピースの下に、ライトブルーのパンツの左サイドの細くなっている部分が見える。これだけでも凄くエロい。特に、園子さんの目を盗んで見ている、というのがたまらない。時折、カーブで車が左右に振られるので、それを耐えながらというのも、燃えるものがある。
 よし、次は思い切って、真ん中行こう。運転席の園子さんは、きっと前を見据えて、次々にやってくるカーブの対処だけに集中しているようだ。おれは、股間の先にあるワンピースの裾に手をやる。フェアレディZが次のカーブに入り、園子さんがハンドルを切るタイミングで、おれは裾をめくることに決めた。
 と、そのとき、園子さんがきっと前を見据えたままで厳しい口調でこう言った。
「双葉ちゃん、さっきから何自分のパンツめくって見てるの? ちょっと今大変なんだから、気が散ることはしないで」
「は、はいっ」
 園子さん、気付いていたんですか。それならそうと、もっと早い段階で、言ってください。
 双葉、恥ずかしいです。

 午後2時過ぎには宿に着いた。地図を見ると、芦ノ湖を大回りにほとんど1周したような感じになる。
 和風の老舗旅館ということで、古い建物をイメージしていたのだが、新しくてきれいだったのには、驚いた。何でも、最近建て直したのだそうだ。
 玄関では、まさに従業員一同、という感じでお出迎えを受けた。大勢の人が一斉におれと園子さんに向かってお辞儀をしているのは、やくざが親分の帰りを出迎えるみたいで、変な感じがした。取引先の旅行会社の取締役が来るということで、下にも置かぬおもてなしの一貫なのだろうか。
 そもそも、おれと園子さんは、宿の人たちにはどのように見えているのだろう? 少なくとも、おれの方が取締役だなんて思っている人はいないだろう。園子さんが女取締役で、おれはその秘書、というところか? まさか、女取締役とその愛人、なんて見られることはないだろうが、おれの今の格好では、そんな妄想をする輩もいるかもしれない。もし、そうだとしても、おれにこんなセクシーでかわいい格好を強要した園子さんのせいだ。
 荷物は従業員の方が持ってくれたので、おれたちは手ぶらで案内される。手持ち無沙汰のおれは、手近にあるもの――園子さんの腕に掴まって歩いた。
「こら、ふーちゃん、離れなさい。歩きにくいから」
「あたし、取締役と一緒がいいです」
「誰が、取締役よ」
「だって、朝、そう決めたじゃないですか」
 結局、部屋までの間、おれはずっと園子さんに寄り添って歩いた。こうやって、園子さんと歩けるのも、あと僅かだと思うと、今のうちに園子さんの感触を目一杯感じておかなきゃ、と思う。
 途中の廊下を歩いていくとき、日本庭園があった。真ん中に池があり、橋が架かっているようなかなり広い庭園だ。一角では紫陽花が咲き誇っていた。
 おれと園子さんの部屋は、日本庭園を通り抜けた奥にある離れだった。純和風の畳敷きの部屋。8畳の本間の床の間には山水画の掛け軸と、一輪挿し。縁側の向こうに見えるのは、先刻廊下から見えていた庭園。静寂の中に、時折鹿威しの乾いた音が響く。反対側の窓からは、芦ノ湖が見下ろせた。襖の向こうは次の間で6畳。確かに、スイートだ。その先が部屋風呂で、2人一緒に入れるような檜風呂。
「お風呂、どうしよう?」
 部屋風呂もいいけど、体を洗うにはちょっと手狭なので、まずは大浴場へ行ってみることにした。3時までは、他の客がやってくる気遣いがないので、貸切状態の筈だ。部屋風呂には、夕食の後、おれが起きていられたら入ることにする。寝てしまった場合は、明日の朝でもいい。
 服を脱いで、旅館の浴衣に着替える。羽織を着たおれは、鏡の前で自分の艶っぽさに見とれてしまう。これで湯上りだと、廊下ですれ違う男に押し倒されちゃうかも。先に着替えてしまった園子さんは、デジカメで撮った写真をチェックしていた。
「ふーちゃん、あなた、何、セクシーポーズ取ってるのよ」
 あ、園子さんにばれた。展望台でふたり並んで撮った写真のことだろう。そりゃ、いつかはばれるに決まっているのだけれど。
「隣で突っ立ってるあたしが、馬鹿みたいじゃない」
「ごめんなさい。何だか、つい、体が勝手に動いちゃって」
「プロの習性だといいたいわけ。ふーちゃん、こっちに来なさい」
 園子さんに腕を掴まれて、縁側へと引っ張られていく。園子さんは、怒っている振りをしているだけで実際には楽しんでいる。間違いなく。
「はい。お庭の前に立って。カメラ向けてあげるから、思う存分ポーズ取っていいわよ」
「そんなぁ」
 結局、浴衣姿で普通にポーズを取った写真だけでなく、前をはだけて谷間を強調したようなセクシーショットも撮られてしまった。
「この写真、どうするつもりですか?」
「ご主人のお土産にしようかな」
「ええっ」
「今更、何言ってるの。ふーちゃん、ご主人にはもっと恥ずかしいことされてるんでしょ」
 双葉はいろんな恥ずかしいことされてますけど、ふーちゃんとしては、まだなんです。
 園子さんは、散々おれをからかった挙句、最初に撮った浴衣姿の立ち姿だけを残して、あとのセクシーショットは全部消去してくれた。できれば、消去した分は、夫には見せずにおれにだけデータを渡してくれたらよかったのだけど。

 大浴場には、誰もいなかった。さすがに、「大」とついているだけあって、うちのお風呂よりもはるかに広い。泳げるぐらいに。いや、もちろん、おれは泳げないんだけど。
 いつものように背中を流し合うんだけど、いつもと感じが違う。違うお風呂で園子さんもテンション上がっているんだろうか。いつもより入念に、というか、広い面積を洗ってくれる。
「ふーちゃん、さっき、車の中で自分のパンツ見てたでしょ」
「……」
 おれは、返す言葉もなく、小さくなって黙り込む。
「ひょっとして、自分の写真見て、ムラっときちゃった?」
 有体に言えば、その通りなんだけど、はいと認める勇気はない。
「やっぱり、こんな体つきだと、自分に欲情したりする?」
「え、ええっ?」
 正直に言うと、毎日欲情しているんだけど、そんなこと、言えない。
「自分の体に、そんなこと思いません」
 大嘘をついてしまった。
「まあ、見慣れてるか」
 そういうことにしておいてください。
「あたしはレズじゃないけど、ふーちゃんみたいな胸の大きい子には、ちょっと欲情しちゃうかも」
 はあっ? 何言い出すんですか、園子さん。
「だって、ふーちゃんの胸、あたしと同じ女とは思えないほど違うんだもの」
 おれは黙り込む。園子さんが胸の話をするときは、無反応が一番だと、この3ヶ月で学んだ。
「そんな大きな胸の女の子になるって、どんな感じなんだろうっていつも思っていた」
 意外と重くて大変なんです。
「手触りだけでもと思うんだけど、ふーちゃん、触られてくれないし」
「駄目だなんて、言った覚えないです」
 あ、まずい。なんでこんなこと言っちゃったんだろう。
「触ってもいいの?」
「……い、いいですよ」
 おれの返事が終わらないうちに、園子さんの手がおれの胸に伸びてきた。ああんっ。
「こんなに柔らかいんだ」
「園子さん?」
「張りがあって、全然垂れてないから、もっと硬いんだろうって思ってた。
 園子さんはそう言って、おれの胸をこねくり回す。おれのGカップバストが園子さんの手でいやらしく歪められた。
 おれ、今、園子さんにおっぱい揉まれてる。
「ねえ、感じはどうなの?」
 へぇ?
「大きい子は感じないっていうじゃない」
 園子さんは、そう言って、おれの乳房を揉み続ける。大きい子の感じ方はどうかと訊かれても、おれは胸の大きい女にしかなったことはないわけで……。
「やっぱり、女に揉まれても、感じないのかな。ご主人じゃなきゃだめだとか」
「え?」
 おれの脳裏に、夫にキスをされたとき、胸を夫の体に押し付けたときの感覚が甦ってきた。
「あ、ふーちゃん、乳首たってきたね」
「やめてください」
 おれは、大声を出して、園子さんの手を振りほどいた。
「あ――ごめん」
 その後、交替でおれが園子さんの背中を流す。さっきのお返しに園子さんの胸を触ってやりたかったけど、おれは必死になって我慢した。自制心。自制心。我慢。我慢。そうそう。偉いぞ、ふーちゃん。
 その後、なんとなく気まずい思いで湯船に浸かり、中年の女性客2人がやってきたのを機に、おれと園子さんは風呂を上がった。

 風呂上りにはいつものようにお肌のお手入れ。その後、園子さんと庭を散策していると、4時過ぎに夕食の準備ができていた。おれの睡眠時間に合わせて、何もかも時間を前倒し。わがままな女取締役と思われているんだろうな、きっと。
 宿自慢の懐石料理は、予想通り、おれには物足りなかった。山の物だけでなく、相模湾や駿河湾の魚もあって、園子さんはびっくりするぐらいおいしいと言っていたので、きっとそうなのだろう。この旅は、園子さんへのプレゼントなので園子さんが満足してくれればそれでいいが、これだったら、おれの分の食事はなしにして、ピザでも取ってもらった方がよかったのに、と思う。
 夕食を終えると、5時。そろそろ眠くなる頃だが、どういうわけかこの日はちっとも眠くならなかった。仲居さんが6畳の間に敷いてくれた布団に入ってはみたが、まだ何時間でも起きていられそう。
「眠れないの?」
「何だか、今日はちっとも眠くならないんです」
 園子さんに体温を測ってもらったら、熱がいつもより若干低めだった。と言っても、普通の人の平熱ぐらいなのだけど。血圧は正常なので、まるっきり人並みということだ。
「取りあえず、眠くなるまで起きてましょうか」
 折角高級旅館に来て、布団の中で羊を数えるのも間抜けな話なので、部屋風呂に入ることにした。さっきのこともあるので、1人で入りたかったのだが、そういうわけにも行かない。
 風呂は純和風の檜風呂。壁も板張り。湯船の周りにも、すのこが敷かれていて、すべて、木の浴室。本日2度目のお風呂なので、汗を流す程度で、湯船に浸かった。函型の檜の浴槽は、ちょうど2人並んで足を投げ出せるぐらいのスペースがある。園子さんと肩を並べてお湯に浸かると、温泉のお湯がざーっと湯船からこぼれた。うちにあるような石のお風呂もいいけど、木の香りがする檜風呂は、また格別だ。
「気持ちいいですね」
 隣の園子さんに話し掛けるが、園子さんは怪訝な顔をしていて、ちょっと考え込むと、おもむろに立ち上がった。
「やっぱり、こうでしょ」
 園子さんは、湯船の反対側に移動して、おれと向かい合うようにに座った。
「ほら、この方が肩がぶつからないからゆったりできる」
 おれの目の前に、湯船に浸かった園子さんの顔がある。うちの風呂で湯船に浸かるときは、いつも横に並んで東京湾を眺めていたので、こんな風に裸で園子さんと向き合うのは、初めてだ。温泉と言っても、濁りのないお湯なので、園子さんの白い肌が、ゆらゆらとお湯の中に見えている。
「ふふーん」
 園子さんが不敵な笑みを浮かべた。あ、この人、また何か企んでいる。
 と、思う間もなく、園子さんの長い足が伸びてきて、おれのおなかをつつく。
「うわっ、何してるんですか」
「何ってもちろん、攻撃してるの」
 放っておくと、この人は調子に乗るので、おれも反撃。園子さんの白い太腿を下からえいと突いてみる。
「ふーちゃん、やったな。ならば、こうだ」
 園子さんのきれいな足が、お湯の中からざばーっと出てきた。何する気だ?
「かかと落とし!」
 園子さんがそう叫んで、おれの目の前でかかとをお湯に叩きつけた。おれの顔に思い切りしぶきが飛んできた。
「ちょ、ちょっと――」
「今だ、チャンス」
 おれが顔にかかったお湯を手で拭っている隙に、園子さんの足がお湯の中を突進して、おれの胸を突いた。
「あ」
 お湯に浮いた乳房が下から蹴り上げられるような感じがして、思わず声が出た。
 園子さんは、おれの胸をえい、えい、と何度も突いてくる。おれも、お返しとばかりに園子さんの胸を足で突こうとするが、おれの方が足が短いので、届かない。いや、園子さんの胸がちっちゃいせいか。
「ここじゃないな。もっと上か?」
 園子さんは、おれの胸をつつきながらも、何かを探しているみたい。その何かというのは……。
「ん? ここだ!」
 園子さんは目標物をついに探し当てたようだ。園子さんの目標、それは――おれの乳首。
「えいっ」
 あろうことか、園子さんは、おれの感じやすい乳首を足の指で挟みつけた。
「ああん」
 おれの艶かしい声が浴場に反響する。
「ほれ、ほれ」
 園子さんは、調子に乗って、足の指に力を入れて、おれの乳首を摘みあげた。
「あ、ああっ」
 だめ。そんなことされたら――感じちゃう。
 乳首というボタンを押されたおれは、スイッチが入ったみたいに体中が敏感になった。
 おれの脳がピンクに染め上げられていく。
 あ――。おっぱいが硬くなって――。あそこからも何か出てきて――。
 体中が燃えるように熱い。
 もう、何でもいい。この体をどうにかしたい。
「園子さん」
 おれは、おれの乳首を摘んでいる園子さんの足を両手で掴んだ。
 園子さん、あんよもきれい。
「すき!」
 おれは園子さんの足を持って、自分の胸に押し付けた。おれの大きなおっぱいで挟みつけ、すりすりしてやった。ああん。園子さんのあんよで、おっぱいがこすれて、気持ちいい。
「ちょっと、ふーちゃん、離して!」
 おれに足を引っ張られた園子さんは、湯船の中に引きずられていく。おれの胸の中で園子さんの足が暴れる。離すもんかとぎゅっと握り締めていたけど、すべすべの肌がつるんと滑って、逃げられた。
「はあ、はあ」
 園子さんは、湯船の中で体を反転させ、浴槽の縁に手を掛ける。園子さんは、溺れる者が救命ボートに上がるような感じでなんとか湯船の中から脱出しすると、すのこの上に仰向けに横たわった。
「ふーちゃん、もう、びっくりするじゃない」
 園子さんは、はあはあと、まだ息が荒れている。体が上気してピンクに染まった全裸の園子さんが、とろんとした目でおれを見ている。息をするたびに、園子さんの胸の小さくてきれいなふくらみが上下していた。
 ああ――。
 あたし、もう、我慢できない!
「園子さん!」
 おれは、湯船を飛び出ると、すのこの上で横たわる園子さんに覆いかぶさった。
「すき。すき。だいすき!」
「え、ええっ?」
 おれは、園子さんの左胸に手を当てた。小さくて、かわいらしいおっぱい。でも、それは、小さいけど、ちゃんと丸くて、柔らかくて、すべすべで、女の子の胸だ。
「ふ、ふーちゃん、ちょっと――」
 園子さんの顔が赤くなる。凄い。園子さんのこんな表情、はじめて。
 右の胸は、乳首を口に含んで、舌で転がしてあげた。
「あんっ」
 園子さんが声を漏らした。初めて聞く園子さんの、かわいらしい声。やっと見せてくれた園子さんの女の子の顔。
「こら、ふーちゃん、やめて」
 やめてって、言われても、やめてあげない。だって――。
「すき」
 ずっと言いたかったけど、我慢してたんだよ。
「だいすき!」
 ほんとに、ずっとだいすきだったんだから。
「はむっ」
 園子さんのちっちゃな乳首を甘噛みしてみた。
「そ、そこはだめーっ!」
 園子さんの声が悲鳴になる。園子さんの目が、だんだんとろんとしてきた。
 すごい。園子さん、なんて無防備なの。
 おれは、胸を責められてとろけてしまっている無防備な園子さんにキスをした。
「んっ、んんんっっ」
 おれが舌を絡めると、園子さんは舌を侵入させまいと抵抗する。
 だったら、こっち。キスしたまま、胸への愛撫をやめて、園子さんの小さなバストに、おれの大きな乳房を押し付けた。
 ふたりの間で、おっぱいが潰れるのがわかる。乳首同士がぶつかって、すごい気持ちよかったんだけど、声が出そうになるのを我慢して、キスを続けた。
 ああっ。
 初めて会ったときから、双葉は園子さんにこうしたかったんだよ。
 おれのおっぱいが感じてる。凄いよお。気持ちいいよう。
 園子さんのおっぱいと一緒になって、乳首が硬くなって、それで――あああんんっ!
 園子さん、最高!
 あたしの体も最高!
 気持ちよくって、頭が変になりそう。
 すき。すき。
 園子さん、大好き!

テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》 - ジャンル : 小説・文学

コメント

08のあとがき

図書館の方で、「いろいろ取材に行ったりしているんじゃないか?」とコメントくださった方がおられました。
確かに、取材はしています。
でも、部屋から一歩も出ていません。

最近は、ネットでいろいろ調べることができて、行ったことのない土地のことでも、なんとかばれない程度には書くことができます。もちろん、行ったことのある場所のことは、記憶と、やはりネットを頼りに書いています。

小説を書いていると、自分が何も知らないことに気付かされます。話の必要上、登場させなくてはならない物について、何も知らないで書くわけにもいかないので、とにかく調べます。双葉が着る服なども、いろいろ調べていたおかげで、一時期は、婦人服のネットショップからやたらと宣伝メールが送られて来るようになりました。

ネットで調べれば、小説に少し書く程度のことはわかるので、わざわざ出掛けて行って調べるということはないのですが、一度だけ、近所のスポーツクラブを歩いていたときに、中でランニングマシンに乗っている人がみんな歩いていたのに驚きました。作中の「おれ」同様、あれは走るものだと思っていて、歩くなんて発想はまったくありませんでしたから。
外で「取材」したのは、これぐらいですかね。

この章は、02や04と同じく長い章で、お話としては、旅行の前と旅行当日に分かれるので、2章に分けようかとも思ったのですが、結局、1つにまとめました。05以降、たいしたイベントもなかったため、読者を飽きさせていやしないかと不安で、一刻も早く濡れ場を書かなくてはと思っていたのでしょうね。
それ以前に、作者は、園子さんを出した時点で、こうすることを決めていましたので、これまで、我慢して、我慢して、もう待ちきれない、という気持ちだったのかもしれません。
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