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xxxy 10

 空港からの帰り道、夫の運転するセルシオの助手席に座ったおれは、緊張していた。
 夫の車にこうしてふたりきりで乗るのは、退院した日以来のこと。おれは、あのときと同じように、いや、それ以上に緊張していた。
「ダーリン、この後は……?」
 おれは、恐る恐る聞いてみた。
「残念ながら、仕事」
 残念ながら、おれは残念に思っていません。この後、どこかのホテルに入ってセックス、という展開でなくて、ちょっとほっとするおれ。
 いやいや、そうじゃなくて。いつまでもそんな具合に先延ばしになったことを喜んでばかりでいいのか?
「一旦家まで戻って、双葉を下ろしたら、すぐ出て行く」
「夜は、遅いの?」
「うーん、そうだね。今朝はこうして抜け出してきちゃったから、日付が今日のうちに戻れたらいい方かな」
「そう――」
 あ。今の言い方は、夫の帰りが遅くて、残念がっている妻という感じだったかな。
 おかしなことに、おれは、夫が早く帰ってきてくれないことを本気で残念がっていた。いやそれは、抱いてもらえないということではなくて、あの広い家にひとりきりでいると淋しいって意味だけど……。
「あのね、ダーリン」
「うん?」
「……」
「どうかした?」
「いえ。なんでもない」
 助手席のおれと、運転席の夫との間に沈黙が横たわった。車は、高速を降りて、おれたちのマンションへと近付いている。
 おれは、自分でもよくわからないうちに、さっき何か言いかけていた。何を言いかけたのだろう?
「双葉はね」
 また、よくわからないうちに、おれは話し始めた。
「まだ夜は起きていられないんだけど、昼間のうちから寝ておけば、少しぐらいなら夜でも起きていられるから」
 な、何を言っているんだ、おれは。それは、昨日、園子さんから言われたことで――。
「だから……」
「――だから?」
「帰ってくるときに、双葉に電話して、起こして。そしたら、双葉、シャワー浴びて待ってるから」
 おい、こら。おれ。何言ってるかわかってるのか? それって、今夜、夫と――。
「わかった」
 夫が嬉しそうに言った。っていうか、やる気満々じゃないか、こいつ。
 おれがさっきの言葉を取り消そうかと思っているうちに、車はマンションの前に着いた。
「双葉、ひとりで平気? 何だったら、会社の女の子に様子を見に行かせようか?」
「大丈夫だって。それに、私用で会社の子を使っちゃ駄目だよ」
 おれは、夫に行ってらっしゃいのキスをして、夫の車から降りた。

 さあ、大変なことになった。ある程度、予想していたとは言え、今夜はついに夫とセックスすることになってしまった。
 いい加減、覚悟を決めないといけないのだ。結婚前の付き合っている段階ならまだしも、おれは夫の妻なのだ。いつまでもセックスレスなんてありえない。
 その理屈なら、ずっと前からわかっている。問題はそこじゃない。夫のペニスがおれの――正直に言えば、それがおれのものであるという気にもまだなれないのだが――あそこに入ってくる、ということだ。そんなことにおれは、耐えられるのか?
 双葉は処女じゃないんだから、きっとそんなに痛くない。10ヶ月ぶりのセックスとは言え、それまで夫とは1年以上も夫婦でいたのだから、きっとこの体は夫によって充分に開発されているに違いない。女としてはじめて経験するセックスとしては、この上なく恵まれているはずだ。
 そうは言っても、――そうは言っても、ペニスだけは……。
 駄目。とても耐えられそうにない。
 ――取りあえず、部屋の電気は消したままにしてもらおう。夫の裸体とか、欲情した夫の顔なんて見たくない。映像はなし。決まり。そんなものを双葉の記憶に永久保存したくはない。
 あと、酒臭いのもやめて欲しい。にんにくとかもだめだ。とにかく、息が臭うのは勘弁して欲しい。これは、帰ってから言ったって遅いので、今のうちに言っておかないと。
『今日はお酒はだめだよ。にんにくとか臭う奴もやめてね』
 取りあえず、夫にメールを打った。これじゃ、抱かれる気満々という女みたいだが、こうなってしまった以上、仕方がない。

 部屋に戻って、時計を見たら、11時。さすがにまだ寝るのは早い。本当は、今日は下のスポーツクラブでプールに入る予定だったが、とてもそんな気分になれない。園子さんがいなくなった途端にサボりというのも気が引けるが、今日は、プールで男たちに水着姿を披露して、いつものおっさんのマッサージを受けるなんて、考えられない。
(そうだ)
 おれは、思いついて、出掛ける支度をする。と言っても、さっき帰ってきたばかりで、化粧も落としていないし、洋服も脱いでいない。黒のレディーススーツのまま。大きなサングラスを用意して、小さなハンドバッグにお金を入れて、玄関を出る。靴だけは、踵が低くて歩きやすいものに替えた。
 エレベーターで2階まで降りて、スポーツクラブとは反対側の通路を進むと駅に出る。駅と直結しているこのマンションに3ヶ月も住んでいて、電車に乗るのはこれが2回目。ひとりで出掛けるのははじめてだ。今日のおれは、OL風のレディーススーツ姿で、スカートは長め、顔も大きなサングラスで隠れていたが、大きな胸のふくらみだけは隠しようがなかった。すれ違う男のほとんどがおれの胸を見るのが恥ずかしかった。
 取りあえず、都心に向かい、途中で乗り換え。地下鉄にしばらく乗って、目的の駅で降りた。改札を出て、出入り口の階段の下で立ち止まった。うん。ここなら、上から降りてくる人がよく見える。
 ただし、あと5分はある。階段を上って、通りまで出ようかと思ったが、双葉の体力を考慮してやめておいた。最近、体力はついてきたが、階段を上るのは、まだつらい。
 仕方がないので、階段の下で5分待った。階段を通る人が、必ずおれを見ていく。いろんな意味の籠もった視線で。おれの前を通り過ぎた男もかなりの確率でおれの方を振り返って見ていた。
 あと1分。あと30秒。時間の経過を数えて待った。
 10秒。おれは、サングラスを外して素顔を晒した。
 カウントダウン。3、2、1。
 来た。
 ちょっとくたびれたスーツの中年男がおれの視界に現れた。
 おれだ。
 階段を下りるおれの視界に、美貌の若い女が見えた。双葉のおれは黒い服を着ているというのに、薄暗い地下鉄の階段のそこだけが、おれの目には光って見えた。
 おれは見つめあいながら、階段を下り、階段を下りるおれを見ていた。
 おれは今、得意先での会議を終えて、ここから地下鉄で5駅先の会社に戻るところ。
 おれが会うのは、お互いの体が、本当に困った状態になって、助けを必要としているときだけ。そう決めていた。決めたときには、それは、主として肉体的な危機に瀕したときを想定していたのだが、今の双葉のおれの状況も、危機だろう。
 別に、会ったからといって、何をするわけでもない。自分同士なのだから、会話も無意味だ。公衆の面前で、抱き合ったり、キスしたりするわけにもいかない。誰かに見られているかもしれないので、本当にただ会うだけ。少し離れて、自分の姿を見つめあうだけ。それも、おれの会社の近くで会うのはやめて、この5駅離れた地下鉄の駅までやってきたのだった。
 おれは、双葉の前を通り過ぎて、そのまま改札へ向かった。おれも、再びサングラスで顔を隠して、得意先から会社へ戻るおれの後をついていく。
 昼前の地下鉄は空いていた。
 ちょうど、ふたり並んで座れるだけのスペースがあったので、おれはそこに並んで座った。見ず知らずのサラリーマンとOLが、たまたまその席に隣り合わせたように。スペースは、うまい具合にギリギリだったので、おれの体同士が服越しに触れ合った。おれは、触れ合う体の後ろで他の乗客からは見えないように、手をつないだ。おれの少しくたびれた手が、しなやかで肌触りのいい手を握ると、おれの細くて小さな手が、大きくてごつごつした手を握り返した。
 おれの会社まで戻る5駅の間、おれは、座って手をつないだまま過ごした。手に触っている感触と、触られている感触が同時に伝わってくるのは、変な感じがした。前を見ていると、ほとんど同じだけれど、微妙にずれた2つの映像が見えるのも違和感があった。2つの体で、まったく別々に生活することには慣れてしまったおれだが、こうして同じ空間を共有するのは、不思議な気持ちだった。
 やがて、地下鉄はおれの会社がある駅に着いた。おれは、そっと手を離し、立ち上がって歩き出した。席に残ったおれは、先刻までの手のぬくもりを逃がさぬように、胸の前で両手を握っていた。列車を降りるおれは、振り返ることもしなかった。
 それで終わり。
 それだけのことだったが、おれは、今日のおれに必要なものを得た。
 それは、勇気――。

 マンションに戻ったのは1時前。昼食は、駅のスーパーで買った弁当。園子さんがいなくなった途端に食事が貧弱になった。双葉として、ひとりでの食事は、入院していたとき以来。そのときだって、食事を用意してくれる人は別にいたし、部屋の外には大勢の看護師が待機していた。でも、今日は、弁当もお茶も、自分ひとりで用意して、自分ひとりきりで食べる。おれは、いつもアパートでひとりで食べているので、こんな食事は慣れっこの筈なのに、なんだか寂しく感じるから不思議だ。
 食事の後、お風呂に入った。
 はじめてのひとりきりでの入浴。誰も見ていないし、おれが何をしようと咎める者は誰もいない。この美しくも豊満な肉体を、どう扱おうと、おれの勝手。双葉の体を得てから、この日が来るのを待ち焦がれなかったと言えば嘘になるのだが、どうにも、うきうき、わくわくした気分にはなってこない。今夜、おれのこの体が夫によって何をされるのかを思うと、自分の体を楽しむなんて余裕は全然なかった。
 園子さんがいたときと同じように体を洗い、園子さんがいたときと同じように湯船に浸かって、風呂上りには、園子さんがいたときと同じようにお肌のお手入れをした。
 朝7時起床と、いつもよりも早起きだったおれは、風呂から出ると、2時前には寝てしまった。
 ベッドは、今朝まで園子さんが使っていたものを使った。
 かすかに園子さんの残り香がして、ゆうべと同じように園子さんに抱かれているような気分になった。小さな幸せに浸って、おれは眠りに就いた。

 携帯の呼び出し音で起こされた。
 暗闇の中、携帯の液晶画面だけが青白く光っている。
 画面に表示されたのは夫の写真。「だいすきダーリン」というピンクの文字が入っている。写真は元からだが、文字は園子さんが勝手に入れたものだ。恥ずかしいから、園子さんが帰ったら消そうと思っていたけど、そのままになっていた。時刻は、夜中の2時だった。
「寝てた?」
 電話の向こうで夫がそう言った。なんだか楽しそうな声だ。こっちは寝起きだというのに。
「うん。――でも、もう起きた。今、どこ?」
「会社。これから出るところ。30分で着く」
 その間に準備しろってことだ。
 少しの間、会話が途切れた。
「双葉」
「うん」
「その――」
「……うん」
「いいよね」
 駄目だって言えば、今日はナシになるのだろうか?
 でも、そういうわけにもいかない。いい加減、一歩前に踏み出さないと。
「いいよ」
 結局、そう答えた。
「ダーリン、あのね」
「なに?」
「双葉、恥ずかしいから、明かりはつけないでね」
「そうなの?」
「うん」
 また、間が空いた。夫は、おれの体が見たいのだ。でも、駄目。おれは、夫の顔を見てやれる自信はないし、それに、万一、嫌だったとき、そんな顔を夫に見られたくはない。
「――わかった。帰ったら、玄関でベルを鳴らすよ」
 夫がそう言うと、通話は切れた。おれは、しばらく、右手に持った携帯電話を見つめていた。
 今この時間、おれはひとりで起きていた。元々のおれは、眠ったままだ。おれは、元々のおれを起こさないようにして、記憶だけ見てみた。今日は仕事で久しぶりに残業だったらしい。アパートに着いた頃には10時を回っていた。帰りのコンビニで買ってきた弁当を食べながら、ビールを2本空けて、11時には寝てしまったようだ。
 夫に抱かれるのなら、男のおれとつながっている必要はないと思って、寝てしまうことに決めたのだ。これから、シャワーを浴びて、あとはベッドで夫を受け入れるだけ。シャワーを浴びるときだけ、滑ったりして怪我をしないように気をつける。ベッドでは、もう自制心なんて必要ない。やってみて、そのとき感じたままに行動すればいい。
 もしも――やってみて、どうしても我慢できなかったら、正直に夫にそう言おう。それで夫との仲にひびが入ってしまったら、そのときは別れて、身一つでおれの元に走ればいい。
 昼間、会ったときに、おれはそこまで覚悟を決めていた。
 だから、今夜は、ありのままのおれになって、心の命じるままにしよう。
 おれは、シャワールームで入念に体を洗った。
 体を洗うとき、おれの手が自分の体に触れるたびに、箱根での園子さんとの一幕を思い出してしまう。
 あのとき、園子さんの愛撫は、おれの全身に及んだ。気持ちよくって、頭が変になりそうだった。おれは園子さんの手で何度もイカされた。
 おれの体が熱くなる。
 夫も、あのときと同じように、おれを気持ちよくさせてくれるのだろうか?
 でも――。
 あのとき、園子さんは、ここには何もしなかった。
 園子さんでは何もできなかった。
 おれは、その場所にそっと手を伸ばす。
 自分で指を入れてみたことはある。双葉の頃には、夫の物をここで受け入れていた。でも、おれが夫の物をここに入れるのは、はじめて。
「旦那さんに満足させてもらうのよ」
 不意に園子さんの声が脳裏に甦った。昨日、お風呂での園子さんの言葉。
 満足――。
 満足って、どういうことだろう?
 箱根の夜。園子さんとだって、おれは充分に満足していた――と思う。
「男なんて、所詮は、女を満足させるために存在する動物なんだから」
 男――夫はもうすぐ帰ってくる。
 女――おれを、いや、あたしを満足させるために?
 怖い。――でも、心のどこかで、何かを期待しているおれがいるのも、事実だった。

 おれは、シャワーを終えて、体を拭くと、ブラとショーツを身に付けた。双葉の記憶では、いつもそうしていた。夫は、下着を脱がせるところから始めるのが好きらしい。ブラはフロントホックで、夫が外しやすいもの。ショーツはなるべく薄いものに決めた。おれのお気に入りの下着は避けて、引き裂かれてしまっても、惜しくないものを選んだ。
 夫が電話してきてから、25分が経った。もういつ着いても、おかしくない。
 おれは、部屋の明かりはフットライト以外はすべて消して、寝室に入った。カーテンで覆われた部屋の中央に、大きなダブルベッドがある。双葉の記憶の中では、一番見慣れた部屋だが、おれがこのマンションに来てから、この寝室に入るのははじめてだった。園子さんとふたりでいるときでも、この部屋に入るのは、避けていた。ここは、夫と双葉が愛を交わすための部屋だったから。
 おれが入り口の壁にあるスイッチを押すと、電動式のカーテンが開き始めた。一面ガラス張りのこの部屋からは、東京湾の夜景が一望できる。寝室のドアは開けたままにしておいた。
 おれは、下着姿でベッドの中に入った。双葉の記憶にしたがって、夫のスペースを空けておく。
 このベッドで、東京湾の夜景を見ながらおれに覆いかぶさる夫は、まるで空中でおれを抱いているようなものだろう。仰向けにされているおれには、夜景なんて見えない。おれは、星空を眺めながら、夫に抱かれるのだろうか?
 玄関で、チャイムが鳴った。
(来た!)
 夫が帰ってきた。玄関の重い扉を開閉する音がする。
 夫は何も言わない。おれも、何も言葉を発せずに、ベッドの中でじっとしていた。
 しばらく、動きはない。多分、シャワーを浴びているのだろう。
 この時間が長く感じた。耐え難いほど永い時間。
 おれは、ブラ越しに自分の胸に手をやった。そうしないと、何のためにここでこうして横たわっているか、わからなくなってしまいそうで。
 おれの胸には、大きくて、柔らかなふくらみが2つ。ショーツを撫でると、つるんとした感触しかなかった。
 そう。おれは、女なのだ。今のおれには、どこにも男の部分なんてない。完璧に女。
 今のおれは、夫のために存在する。この胸は、夫に触られ、揉まれ、吸われるためのもの。そして、ここは――。
 ショーツの中が、湿り気を帯びてくる。そんな。まだ、何もされていないのに。
 これじゃ、まるで、夫に抱かれるのを待ち切れない淫乱女だ。そんなの嫌だ。でも、そう思えば思うほど、ショーツの中は湿ってくる。
 駄目。ショーツだけでも替えたい。
 そう思って、体を浮かせかけたとき、足音がして、黒い影が寝室に入ってきた。
(ほんとに来ちゃった)
 夫は、ガウンを着ているようだ。
 ベッドの中のおれは、わざと夫から目を背けるように横を向いた。
 ベッドサイドで、衣擦れの音が聞こえる。最後にばさりと音がして、夫がガウンを脱いだのがわかった。
「双葉――」
 夫がおれの横に潜り込んできた。「ダーリン」と返さなくちゃいけない、と思ったけど、声が出ない。
 背中で夫の気配を感じて、おれの緊張が張り詰める。
 おれはまた、自分の胸に手をやった。おれの胸にはおっぱいがある。股間には何もない。いや、夫を受け入れるためのものが備わっている。そうなんだ。おれは――あたしは、女。でも……。
「双葉」
 夫がおれの背中に触れた。
「や」
 思わず、声が出てしまった。
「双葉。こっちを向いて」
「やだ」
 おれは、背中を向けたまま、拒否する。
「久しぶりだからね。緊張してるんだろ」
「緊張してる」
 でも、それは久しぶりだからじゃない。初めてだからだ。
「手をつなごうか」
「え?」
「ほら、向こう向いたままでいいから、右手を出して」
「う、うん」
 おれは、夫に言われるまま、リレーのバトンを受け取る走者みたいに右手を後ろに伸ばした。
 夫の大きな手が、おれの細くてしなやかな手を握った。
「かわいい手だ」
 夫がおれの手を握りながら言う。
「しばらく、こうしていようか」
 おれと夫は、本当にしばらくの間、こうして手をつないでいた。まるで、今日、地下鉄の中で、おれと手をつないでいたときみたいに、黙ったままで――。
「落ち着いた?」
 随分長い時間が過ぎた後に、夫がそう言った。
「わかんない」
「嫌だったら、そう言えばいいよ。気長にやればいい」
「うん」
「嫌?」
 夫はやさしい。いきなりおれに襲い掛かったりせずに、ちゃんとおれの気持ちを確かめてくれる。おれは、こんな夫を拒絶してちゃいけないような気がしてきた。
「嫌――じゃないかも」
「ほんと?」
「……」
「双葉、無理してるだろ?」
「少し……。でも、ダーリン――」
 おれは、夫とつないだままの手を自分の体の前に持ってきた。
「双葉も、ちょっとはダーリンに触ってほしいとも思ってるんだよ」
 そう言って、おれは、夫の手をおれの胸に当てる。
「ブラの上から、触るだけだよ」
「うん」
「揉んだりしちゃ、駄目だからね」
「わかってる」
 夫は、ブラの上からおれの胸を撫ではじめた。触るだけなんだけど、たまに乳首の上を撫でられて、声が出そうになる。
「ねぇ、双葉」
「なに?」
「ちょっと、指で押してみてもいい?」
「押すの?」
「うん。ちょっとだけ」
「うーん」
 おれはどうしようかと迷う。
「お願いだから」
「わかった。許す」
 夫は、本当におれの胸をブラ越しに指でつつき始めた。弾力のあるおれの乳房は、夫の指をぷるんとはね返す。
「やっぱり、双葉はちっとも変わっていない」
「え?」
「このおっぱいの感じ。昔のままだよ」
 そう言えば、双葉のときの記憶でも、こんなことをされたことがある。でも、おれは、今のおれと双葉の頃とを比べられるのはあまり好きではない。特に、昔の双葉のことを夫に褒められたようなときは、悔しい思いをしているおれがいる。
「ダーリン」
「うん?」
 夫は、相変わらず、おれの胸を指でつついている。
「昔の双葉と今の双葉を比べたりしないで」
「どうして?」
「だって――」今のおれが、昔の双葉とは違うって言うのはまずいだろうか。「今の双葉は、昔の双葉じゃないから」
「昔と違うの?」
「違うよ」
「どこが?」
「どこがって……」
 中身が全部――と言ったって、冗談としか思わないだろう。
「だって、あれから1年近く経ってるんだよ。双葉もいろいろ変わったの」
「変わったんだ」
「うん。今いるのは、新しい双葉」
「新しいの?」
「前とは全然違うよ」
「じゃあ、ぼくは、今の双葉のことはまだ何も知らないんだ」
「たぶんね」
「それはショックだ」
「知りたい?」
「知りたい。双葉のすべてを」
 すべてを知りたいって、やっぱり、そういうこと?
「双葉じゃなきゃ駄目なの?」
「駄目」
「どうして?」
「双葉なしでは生きていけない」
 夫は、当たり前のようにそう言った。
「それは昔の双葉?」
「双葉は双葉だろ」
「でも、昔と今とでは違う双葉かもしれないよ」
「だったら、今、ぼくの目の前にいる双葉が欲しい」
「ほんと?」
「もちろん」
「今の双葉でいいの?」
「今の双葉がいいんだ」
 そんなにも、夫はおれのことを必要としてくれているのか。昔の双葉ではなく、今のおれを愛してくれているのか。
 だったら――。
 もういいや。この体、みんな夫にあげちゃおう。
 ていうか、あたしもダーリンのこと、全部知りたくなっちゃった。
「ダーリン」
 おれは、ベッドの上で体を反転させて、夫の方に向き直った。暗闇の中、夫のシルエットだけが見えた。
 夫の息遣いが聞こえるぐらい近くにいる。
 よかった。夫の息はペパーミントの香りがした。
「きて!」
 夫は、いきなりおれの口唇を奪った。
 キスははじめてじゃない。前にもしたことがある。でも、今夜はそのときよりも夫は激しくおれを求めた。おれも、夫の頭を両手で掴んで、夫の情熱に応えた。
「んんんっ」
 痺れるような快感がおれの体を包み、燃え上がらせていく。
 キスをしたまま、夫の手が、おれの胸の上を這った。ブラの上からおれの右胸を揉んでいたが、やがて、Gカップブラの中に手を潜り込ませて、直接おれの乳房を揉んだ。
 感じるっ。
 でも、駄目。こんなんじゃ物足りない。
 おれは、もっと快感を得ようと、胸を突き出すようにして、右の乳房を夫の手に押し付けようとする。夫は、空いていた手で、今度はおれの敏感な左胸を揉みはじめた。
「ああんっ」
 キスしているのを忘れて、思わず声が出た。
 夫の愛撫は、今度はおれの左胸に集中する。その間に手探りで、おれのフロントホックを外しにかかった。
 ぶるんという感触がして、ホックが外れた。おれの乳房が大気に晒された。
 開放された左胸を閉じ込めておこうかというように、夫の愛撫は続いている。空きになった右胸は、夫の口でくわえられた。
「ひやん」
 いきなり、舌で右の乳首を転がされた。
「あぁんっ」
 今度は、左の乳首を指で摘まれた。
「ひゃんっ、あんっ、あんっ、あんっ」
 左右の乳首を舌と指とで交互に弄られて、おれは、そのたびに可愛らしい声を上げてしまう。
 だんだんリズムが速くなる。胸への刺激もどんどん強くなっていく。
 凄いっ。快感がおれの体には収まりきらなくなってくる。
 最後。夫がおれの右の乳首を強く吸った。同時に、おれの左の乳首を思い切り摘み上げた。
「いやああぁぁぁぁんっ!」
 おれは、胸だけでイッてしまった。

「はあ、はあ――」
 おれは、息が上がり、快感の余韻に浸っていた。胸だけでイッちゃうなんて、はじめてのことだった。
 夫の愛撫は、園子さんとは全然違った。夫の優しい性格とは裏腹に、力強くて、ちょっと乱暴なぐらい。それが、おれの体に眠っていた性感を呼び起こして、これまでにないような快感をもたらしたのだ。
 胸ばかり責められて、全然気付かなかったが、下半身の方も酷いことになっていた。いつのまにか、ショーツはぐちょぐちょに濡れていた。
 おれが、快感の余韻に浸る間も、夫の愛撫は静かに続いている。優しく撫でられている左胸からは、今もほんのりと新たな快感が湧き上がっている。
 やがて、夫のくちづけが移動を始める。右胸の頂からゆっくりと山を降りて、谷間へと向かった。おれは、夫の顔をおれの大きな胸で挟み込むように押し付けてやった。
「ダーリン……」
 おれは今、おれの胸に顔をうずめているこの男のことが愛おしくてたまらない。夫にもっと気持ちよくしてもらいたい。ダーリンにもっとあたしの体を味わってもらいたい。
 谷間にかかる夫の吐息が熱い。再びおれの性感が昂ぶりはじめた。
 夫は、おれの乳房の間を抜け出して、下へと向かう。おれの胸から腹のあたり一面に、キスの雨を降らせていった。
 知らぬ間に、夫の手は俺のショーツにまで達していた。夫の手が濡れたショーツの中をまさぐった。
「あっ」
 夫の指がおれのもっとも敏感なところを探り当てた。
「あぁっ、あっ、あっ、あっ、あああぁっ!」
 夫が、それを触り、撫で、つねり、弾いた。そのたびに、おれの口からなまめかしい叫び声が寝室の闇にこだました。
 おれの体は、さっき絶頂を迎えたばかりだというのに、再び頂点に向かって駆け上がる。
 体の奥から、熱いものがとめどなくあふれ出ているのがわかる。
 夫の手の動きが激しくなる。
「ひゃっ、ひゃぁぁん」
 おれは、夫の指先ひとつで翻弄されている。責められているのは1点なのに、そのたびに巨大な快感が体中を駆け抜ける。
「ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ」
 夫の指の動きが激しくなった。あまりの快感にじっとしていられなくて、上体を揺すると、おれのGカップのバストがぶるんぶるんと揺れた。
 夫が指にぐいと力を入れた。
「ひゃぁぁぁーーーんっ!」
 おれの体が爆発して、おれは、この夜、2度目の絶頂を迎えた。

 ほんのわずかな時間で2度もイカされたおれは、ベッドの上でぐったりと横たわる。
 絶頂を迎えた後の快感の余韻は、1回目よりも強く残っていて、うっとりするような夢見心地だった。
 凄い。気持ちいい。
 こんな気持ちいいの、はじめて。
 夫は、今度はおれを抱き寄せて、背中をやさしく撫でてくれる。
 おれの硬くなった乳首が、夫の厚い胸板に触れて、小さな吐息が洩れる。
 夫は、おれの首筋に、やさしいキスをくれた。
 敏感になった体中が、ほんのりとした快感に包まれて、気持ちいい――。
 でも……。
 でも、何だか物足りない。
 あたし、まだ満足していない。
「旦那さんに満足させてもらうのよ」
 おれの中で、園子さんの声がした。
「男なんて、所詮は、女を満足させるために存在する動物なんだから」
 ダーリン。あなたは、双葉を満足させるために来たんでしょ。
 だったら、早く。
 あたしを満足させて。
「ダーリン、お願い」
 あたしは、ダーリンに向かって言った。
「双葉の中に来て!」
 もう我慢できない。
「双葉を満足させて!」
 夫がおれの上に覆いかぶさった。ダーリンの手で、あたしのショーツが脱がされた。
「双葉、行くよ」
 ダーリンが、あたしの中に入ってくる。
 あんっ!
 凄いっ。すごいっ。すごいよぉ。
 あたしの中が満たされている。
 そうか。そうだったんだ。
 双葉とダーリンが一緒になってる。
 あたしが感じてる。
 気持ちいい。きもちいい。
 ダーリンのことが大好き。
 ダーリンと一緒になれて、嬉しい。
 こんな風に、ダーリンと一緒で――。
 双葉、しあわせ!

「――双葉、双葉」
 おれを呼ぶ声がする。
 おれは、ボロアパートで、寝ているときに半ば強制的に開始されられた自慰行為の後始末をしているところだった。
 夫の声が聞こえる、ということは、双葉の意識が戻ったということ。双葉と再びつながった。切断されていたのは、たかだか1分かそこらというところか。
「ダーリン?」
 目を開けると、目の前に夫の姿があった。寝室には、明かりがつけられていた。夫は裸のまま、ベッドに座っておれの顔を覗き込んでいるところだった。
「双葉――。ああ、よかった。また意識を失くしたのかと思った」
 おれは――おれは、あの後、夫とのセックスの途中で、気を失ってしまった――らしい。だって、あまりにも凄い快感だったので。
 夫のペニスを受け入れたおれは、脳が焼き切れるような凄まじい快感に、思わず元々のおれを叩き起こしてしまったようだ。ビールを飲んでいい気持ちで寝ていたおれだが、起こされた途端に、双葉の体で体験した2度の絶頂の記憶と、現在進行形で感じる物凄い性的快感が伝わってきて、一気に自分のペニスを爆発させてしまっていた。
「双葉、大丈夫……だよね」
 夫が恐る恐るおれに問い掛けた。
「うん」
 おれは、顔を赤らめてうなずいた。
「だって、ダーリンが――その……気持ちよかったし」
「そんなによかったの?」
 おれは、こくりとうなずいた。
「今までになかったぐらい、凄い気持ちよくって、双葉、しあわせ、って思ったら、いつの間にか……」
 そう言っておれは「あはは」と照れ笑いをした。すると、ようやく夫が安心したように、ため息をひとつついた。
「でも、よかったよ。双葉が悲鳴を上げるほど感じてくれていたのはわかったけど、急に動かなくなっちゃったから。こんなこと、前にもあった?」
 ぶるぶるとおれはかぶりを振った。もちろん、おれに取っては女としてのはじめてのセックスだったし、双葉の脳の中にも、気持ちよすぎて失神したなんて記憶はなかった。
「ねえ、ダーリンはどうだった?」
「え、ぼ、ぼく?」
 夫は、急に顔を赤らめて、横を向いた。なんか、かわいい。
「よかったよ。凄く、よかった」
「今までで、何番目?」
「何番目って……い、一番、かな」
「ほんと? 双葉、嬉しい! ――それで双葉の体、どうだった?」
 おれは、夫に、おれの体の感想を問いただす。
「どうって?」
「だから、双葉を抱いてみて、どんな感じだったのかなぁって」
「――気になるの?」
「そ、そりゃ、まあ」
 双葉としてのセックスは、もう最高だった。なんで、こんな気持ちいいことを今までためらっていたんだろうって、馬鹿らしくなるぐらいに。でも、それはそれとして、男のおれとしては、セックス相手としての双葉がどんなものか、夫に是非訊いてみたかったのだ。
「で、双葉の感じはどうなの?」
「ええっと――柔らかい、かな」
 まあ、大抵の女は柔らかいよな。
「なんか、ありきたりな感想だなあ。そうだ。他の女の子と比べて、双葉はどうなわけ?」
「ほ、他の女の子?」
 夫の声が裏返る。まあ、妻から、他の女と比べてどうだったかなんて訊かれたら、そうなるか。
「まさか、ダーリン、あたし以外の女の子とエッチしたことないってわけじゃないでしょ」
「――そりゃ、まあ」
「双葉が入院してたときにも、ソープとか行ったりしてたんでしょ」
 夫は黙り込んだ。ひょっとして、黙秘権のつもりか? でも、それは、肯定したようなものだと思うぞ。
 まあ、おれは、男の本能的な欲求に対して、とても理解のある妻なので、少々のことは、気にしないからいいけど。
「怒らないから、正直に教えてよ。双葉がちゃんとダーリンを満足させられたかが知りたいの。それで、双葉は他の女の子と比べてどうなの?」
 おれがそう言うと、夫は観念したように下を向いて、ぼそぼそと話し始めた。
「ええっと、双葉は、その、他の女の子と比べて――胸が大きい」
 まずは、それか。
「うん、それで?」
「それで、大きくて柔らかい。しかも弾力があるから、物凄く揉み応えがある」
 やはりそうか。自分でも、そうだろうなと思ってはいたのだが、おれの手は男の手に比べて随分と小さいわけだし、如何せん、自分で揉んでる分には、いまいち確信が持てなかった。そういうところも、こうして経験者の言葉を直に聞くと、よくわかるな。
「特に、胸に顔を埋めたときなんかは、ボリュームがあって、柔らかくて、弾力もあるから、もう最高。これは双葉が飛び抜けて凄い」
 飛び抜けてって、他の女のときもそういうことやるんだ。まあ、おれもやったことあるから、仕方ないか。許す。
 そう言えば、顔を胸に押し付けるのは、やるにはやったが、あまりたくさんやらなかったな。これからは、もっとたっぷりとやってやろう。
「胸以外では声がいい」
 ほう。これは意外な指摘。全然意識していなかった。
「特に、今日はいつもに増して凄かった」
 そうなの? いつもあんな声出さないんだ。おれ、ひょっとして、声出しすぎ?
 おれは、念のため、そのときの記憶を見てみる。
 げ。何これ? これじゃ、悲鳴というのを通り越して、絶叫だ。うちのマンションだからよかったけど、そのへんのホテルでこんな声出したら、やばいな。絶対隣に聞こえちゃう。
 まあ、今日は、夫も喜んでくれたみたいだから、いいか。一応、うち以外でやるときには、声は控えめにしておこう。
「締め付けも、まずまず」
「まずまず?」
 ここまでは100点満点だったけど、これは70点ってとこ?
「そりゃあ、プロの人と比べたらね」
 あ、プロと比べられてるんだ、一応。まあ、おれは初心者、っていうか、はじめてだったわけだし、正直、気持ちよすぎでそれどころじゃなかったし、それで「まずまず」なら、いいか。
「次に、駄目だったところ」
 え? そんなとこ、あるの?
「暗かったこと」
「暗いと駄目なの?」
「駄目に決まってるよ。だって、双葉が見えないんだもの。もう、これ最悪」
「最悪――なんだ」
「折角、双葉が凄い声を出して感じてるってのに、そのときの表情が見えないんだよ」
 はあ。
「形がよくて弾力のあるバストが揺れてるってのに、それが見えないなんて、興味半減だろ」
 ふむふむ。
「第一、下着を脱がすところから始めてるのに、暗かったら、折角の下着姿が見えないから、意味ないじゃん」
 なるほど。お説、ごもっとも。
「でも、双葉、恥ずかしかったんだよ」
 おれは、わざとうつむきがちに可愛らしい声でそう言った。
「恥ずかしくても、駄目なの。夫婦なんだから、そこのところはわかってくれなきゃ」
 げ。夫に怒られた。夫は、泣く子と税務署とかわいい双葉には勝てないってタイプなのに。余程、今日のセックスが暗闇の中だったってのが腹に据えかねたらしい。
「それで、双葉の方はどうだったの?」
「はい?」
「だから、今日のぼくは、双葉としてはどうだったのか、言ってみてよ」
「――言うの?」
「そりゃあ、ぼくにばかり言わせておいて、自分のほうは内緒ってのはずるいよ。夫婦のあり方として、そういうのは、どうかと思うな」
 うう。そんなこと言われても。
「わかった。じゃあ、ぼくの方から質問するから、双葉にはそれに答えてもらうことにしようか」
 げ、こいつ、変な質問する気じゃないだろうな。
「質問1。双葉は今夜、何回イキましたか?」
 いきなりそんな質問かよ。
「う――。さ、さ……3回」
 おれは真っ赤になりながら、小声で言った。ていうか、お前だって、わかってるだろ。おれが3回イッたってことぐらい。
「それじゃ、質問2。3回のうち、一番気持ちよかったのは、何回目ですか?」
 また、あからさまな質問を。おれは横を向きながら、さりげなく言った。
「3回目」
「へえ、3回目なんだ」
 白々しく言うんじゃない。
「それじゃ、3回目のときは、何がそんなに気持ちよかったんですか?」
 何がって――そんなの決まってるだろう。
「パス」
「ええっ、双葉、パス使うの?」
「使うよ。パス3まで使う」
「まあいいや、それじゃ次。双葉は、今夜、ダーリンの体の中で、どこが一番好きになりましたか?」
 答えは、一瞬でおれの頭に思い浮かんでしまった。でも、おれの答えは――。
「パスその2」
「双葉、またパスなの?」
 おれは、無言でうなずく。自分でも、顔が赤いなって、思う。
「双葉、そのパスは、答えを言っているも同然だと思うんだけど」
「え――」
 おれは、恥ずかしさのあまり、顔を両手で覆った。裸のままで顔を隠しても、意味はないんだと思いながら。

「双葉、シャワー浴びる?」
 夫が訊いてきた。随分汗をかいたし、洗っておきたいところもあるし、シャワーでも浴びたい気分なのは確かだ。
 アパートのおれは――あ、ちょうど今、寝たところ。結局、寝るためにまたビールを1本空けた。明日も会社があるのに、こんな夜中に突然叩き起こされたみたいな形になって、災難だったかも。まあ、自分のやったことなんだから、仕方がないよね。それにしても、明日、ちゃんと起きられるかなぁ。こないだの反省も踏まえて、向こうのことも心配してあげるおれ。えらいえらい。このまま、おれが朝まで起きてたら、起こしてあげようか。
「それとも、お風呂のがいいかな」
 と夫が言った。
 あ、お風呂がいい。ここのところ、ずっと昼間ばっかりだったから、夜景を見ながらお風呂に入ってないし。
「お風呂お風呂。ダーリンも一緒に入ろう」
 わお。ドサクサ紛れに言っちゃった。まいっか。夫婦だもんね。さっき、セックスしたばっかりだし、いまさら、恥ずかしがることないか。
「じゃあ、双葉、行こうか」
 そう言って、夫はおれをよいしょと抱き上げた。うわ。生涯2度目のお姫様抱っこだ。しかも、今度は全裸で。なんか、ちょっと嬉しい。
 実は、このときのおれは、まだ性的快感がほんのり体に残っている状態。夫に抱っこされて、夫と触れ合う肌が感じてしまう。
 夫の顔が近い。うん? 何だか、いつもよりもかっこいいぞ、夫。
「やっぱり、これだよ、双葉」
「え、なに?」
「やっぱり、双葉、かわいいよ。こんなにかわいいのに、さっきは、双葉の姿が見えなかったんだよ。暗いのは絶対に駄目だ」
 とはいうものの、寝室から浴室に至るまで、明かりは消してあるので、フットライトの薄明かりの中を歩かなくてはならない。ついでに言うと、お姫様抱っこで夫の両手は塞がっている。途中、閉まっているドアもあるので、おれが抱っこされたまま体を捻ってドアを開けないといけない。結構、間抜け。お姫様抱っこって、召使がいないと、様にならないんだ、と思った。
 ようやく、浴室に着いて、洗い場のところで下ろしてもらった。
「姫、洗って進ぜましょう」
「いいよ、自分で洗えるから」
「あれ、園子さんと一緒のときは、洗いっこしたんじゃないの?」
 うっ。どこでそんな情報を。
「背中だけだよ。洗いっこしたのは」
「じゃあ、背中を洗ってあげるよ」
 夫が手のひらでボディソープを泡立たせて、おれの背中を洗ってくれた。
 うわっ。なにこれ。気持ちいい。感じちゃうよ。
 さっきのセックスの残り火のせいなのか、夫の手つきが妖しいせいなのかわからないけど、また体が火照り始めている。
「前も洗ってあげる」
「――恥ずかしいよ」
「何をいまさら」
 そりゃ、そうだけど。
 答えを待たずに、夫の手が前に伸びてきた。おれが何も言わなかったからなんだけど。
 おれの胸が泡だらけになる。
「やっぱり、双葉、大きいね」
「さっき、さんざん、揉んだじゃない」
「さっきは揉んだだけ。見るのは、今日はじめて」
「そんなに見たいんだったら、後で双葉のDVDをあげる」
「あれは、肝心なところが隠れてるじゃないか。たとえば、こことか」
「ひゃん」
 夫が泡だらけの指でおれの乳首を弾き、おれは、思わず声を上げた。
「それに、さっきも言っただろ。ぼくは、今の双葉がいいんだって」
「さっき、散々、楽しんだじゃない」
「だから、さっきの双葉も、もう過去の双葉だって。ぼくが欲しいのは、今の双葉」
 えっ、欲しいの? また?
「面倒だ。双葉、そこに横になって。全身洗ってあげるから」
 夫は、おれを強引に洗い場に寝かせると、首から順に始めて足の先まで、おれの全身に泡を塗りたくった。全身触られまくって、体中が、また敏感になっていく。
「よおし、できた。それじゃ、今度は」
「えっ、何、何するの?」
 夫は、シャワーを持って、おれの足の先にかけ始めた。足が終わると、手。次は首という具合に、順番にお湯で泡を洗い流していく。
 要するに、おれが着ていた泡の服をシャワーでもって脱がせているのだ。
「おおっ、凄い。凄いよ、双葉」
 夫は大喜びだが、おれはちっとも楽しくない。寝転がって、シャワーをかけられているだけだから。これだったら、普通に抱いてくれた方がいいよお。
 ていうか、おれも、見たい。泡の服を着たおれ。写真か何かに撮れ。
「よし、完成」
 多分、おれは、ビキニ姿。泡で作ったビキニ。
「あたしも見たい」
 おれは、我慢できなくなって、立ち上がった。
「双葉、動いたら、泡が取れちゃう」
 おれは、夫が止めるのも聞かず、鏡の前へと向かう。歩くと、おれのGカップの乳房がぶるんと揺れて、泡が飛び散った。
 おれは、鏡に映った自分の姿を見た。
 エロい。エロすぎだ。
 夫が「完成」と言ったときにはどんな状態だったか知らないが、今のおれは、全裸にふたつの胸の頂点と股間にほんの少し泡をつけただけの姿。また、そのほんの少しが乳首と股間の繁みをうまい具合に隠していて、全裸よりも余計にエロさを際立たせている。
 まずいよ。おれ、自分に欲情しちゃいそう。ただでさえ、スイッチ入りそうなのに。
 鏡に映る自分の姿に目を奪われていたら、背後からシャワーを持って近付いてくる夫の姿が見えた。
 げ。夫もおれに欲情している。
 だって――。
 おれは、振り向いて、思わず夫の股間を凝視してしまった。
 はじめて見た。自分以外の男の勃起したペニス。普通はそんなの見る機会はない。男とセックスする女以外は。
 あ――。
 おれの股間が、再び潤いを帯びてきた。
 な、なんで?
「双葉」
 夫がおれに、シャワーを浴びせてきた。
「きゃっ」
 おれは、思わずしゃがみこむ。運動神経ゼロの双葉の体は、バランスを崩して、尻餅をついた。おれは、両足広げちゃって、それはもうあられもない姿。
「ちゃんと流さないと駄目だろ」
 夫は、あられもない姿のおれの胸めがけて、至近距離からシャワーを浴びせた。
「やんっ」
 思わず声を出しちゃうおれ。駄目。スイッチ入っちゃう。
 それを見た夫は、シャワーの矛先を、今度はおれの股間の方へ。
「ひゃう」
 おれの頭がまたまたピンクに染め上げられちゃった。立ち上がろうとしても、体中が敏感になっちゃって、立ち上がれない。完全にスイッチ入っちゃった。
 夫がおれに近寄ってくる。ペニスを屹立させたままで。
 おれの目は、ダーリンの股間に釘付け。
 うわあ、おいしそう。もう、何でもいいから、それ、ちょうだい。
「ダーリン、早く来てえぇっ!」
 お風呂場で叫んじゃった。
 ダーリンは、あたしの言葉に戸惑ったみたい。ええい、じれったい。
 あたしは、ダーリンを抱きしめて、ダーリンの顔をあたしのおっぱいの間に押し付けてやった。
 ほらほら。ダーリンの好きな双葉のおっぱいだよ。あたしの極上のおっぱいを味あわせてあげる。だから、だから、早く来て。
 ダーリンがあたしのおっぱいを揉んでくれる。ダーリンがあたしのおっぱいを吸ってくれる。
 凄い。感じる。気持ちいい。そのたびに、声も出ちゃう。
 でも、あたしが欲しいのは、そこじゃないの。
 そんなのどうでもいいから、ここへきて。
 そう。あ。ああん。そう。そこ。そこに。
 もっと。ひやああぁん。もっと。あんっ。あんっ。あんっ。ひ。ひゃああん!
 ……。
 あたしは、お風呂場で、この夜2度目の失神をした。

 2度目の失神は、ほんの10秒ぐらいのこと。夫から見たら、ちょっとの間、ぼんやりしていただけのように見えたかも知れないが、確かにおれの意識は飛んでいた。
 その後、夫がまたおれの体を洗ってくれた。スイッチが入ったままになっていたおれの体は、夫の手が動くたびに、感じてしまって、可愛らしい声を上げ続けてしまった。夫は、おれの体をシャワーで流し終えると、おれをお姫様抱っこして、湯船へと向かった。おれは夫の腕に抱かれながら――もちろん、性的快感をたっぷりと感じながら――夫と一緒に東京湾の夜景を見ていた。たまに、夫がおれを強く抱きしめてくれて、それがとてもよかった。
 湯船を出たときに、おれの方から「もう1回しよ」とお願いして、抱いてもらった。夫は疲れていたと思うんだけど、ちゃんと応えてくれた。3回目は、気絶したりはしなかったが、ちゃんとイケた。結局、3回目が一番よかった。失神しなかったので、イッちゃった後の余韻まで存分に楽しめた。
 結局、この日は、3回やって、5度イッてしまった。はじめてセックスした女としては、驚異的なパフォーマンスだと思う。この体、本当に凄い。
 こんなに凄いとは思わなかった。今まで、自分でオナニーしたり、園子さんとレズっちゃったこともあって、双葉の体が敏感で感じやすいことはわかっていたし、実際、気持ちいいって思っていたけど、セックスは全然違う。自分自身や園子さんに触られるのとは違って、夫の――男の、力強くて激しい愛撫。体の奥から性感を搾り出されるような感じ。そして、何より、夫の怒張したペニスがおれの中に入ってきたときの満足感。
 そうなんだ。園子さんが言っていたのは、これなんだ。
 園子さん、あたし、夫に満足させてもらいました。
 3度目のセックスを終えて、おれと夫は、湯船に並んで浸かっていた。
 東京湾の夜景から時折視線を切って、おれは夫の方を見る。この人がすごく愛おしい。今朝までは感じなかった感情。おれは、間違いなく、夫を愛している。
 夫がおれの方を向いて、目が合った。
 おれも、夫も顔を赤らめて、下を向いて笑った。
 夏の朝は早い。
 おれは、夫と共に展望風呂の中で夜明けを迎えた。

テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》 - ジャンル : 小説・文学

コメント

10のあとがき

10にして、ようやく、01の冒頭のシーンまで戻ってきました。

ほかの章は、あまり制約のない中、好きなように書けたのですが、この章だけは、ちゃんと冒頭部分につながるよ

うに書かないといけないので、ちょっと大変でした。
結果としては、うまくつながっていませんね。

冒頭部分に戻るに当たっては、いろいろと考えました。
冒頭とほとんど同じ文章なんだけど、微妙に違う文章にしてやろうとか、いっそのこと、何らかの叙述トリックで

、実は、冒頭部分にはつながらない、なんてことにできないかとかも考えてみたのですが、無理でした。

結局、こんな形になったのですが、やっぱりうまくつながっていませんね。
なかなか踏ん切りがつかない「おれ」を描いていたら、そっちの方が気に入ってしまって、こうなっちゃいました


正直言って、今更、01の冒頭のような小説にはならないので、辻褄さえあっていれば、いいかな、と思いました。
まあ、これはこれでよかったのだと思っています。

多分、今書いたら、オープニングはもっと違う場面で始めていたでしょう。
02のラストのおれ同士がはじめて会うシーンとか。

ようやく冒頭部分まで戻って、さあ、これから、と思ったら、描きたいことの大半は既に描き終えてしまっていて

、後は物語を終わらせるだけになっていました。「あれ、この後、何を書いたらいいの?」という状態。
これを発表した後に、図書館の不調で、しばらくアップできなかったこともあって、この後はこれまでみたいに順

調に書けなくなりました。やはり、物語をちゃんと終わらせるというのは、好きなことを好きなように書き綴って

いくというのとは、違った労力を必要とするのだなと、実感しています。

そうでなかったら、ネット上の小説の完結率は、もっと高くなっているのでしょうね。

No title

ごきげんよう。
しばしばチェックには来ていたのですが、なかなか落ち着いてコメントできる時間がなかったもので、こんなに日が経ってしまいました(^^;
個別にコメントされても大変だと思いますので、ここにまとめて書かせていただきますね。

「xxxy」というタイトル、まさかそういうところから生まれたものだったとは。てっきり作品に合わせて考えたものだとばかりっ。いやしかし、面白い偶然です。

舞台となる場所を、随分しっかり把握されてるなあと思ったのですが……ネット取材でもここまで書けるものなのですね。「全部実際に行ったことのある場所を使っているのだろう」と思い込みかけましたよ(^^;

10が終わって詰まっていたというのも予想外……。
書き手の苦労というのは、読んでいるだけでは結構気付けないものですね。わたしはまだ長編を書いたことがないので、「終わらせる苦労」というのは、さほど実感できてませんし。

……ふむ。URAさんの書く完全オリジナル短編というのも、読んでみたいものですね(^^

No title

nekomeさん、コメントありがとうございます。

> 「xxxy」というタイトル、まさかそういうところから生まれたものだったとは。

世の中、そんなものですね。

とにかく、タイトル決めるの苦手なんですよね。何に限らず。
基本的に、頭の中であれこれ考えたタイトルというのは、しっくり来ないみたいです。
困ったときは、ディック・フランシスみたいに、漢字2文字みたいな短いのがいい気がします。
タイトルで余計なことを言うと、ボロが出ますので。

> 舞台となる場所を、随分しっかり把握されてるなあと思ったのですが

東京から始まって、横浜、湘南、箱根、千葉、栃木、群馬、北海道、福岡、盛岡、仙台と、随分、いろんなところが出てきますから、いくらなんでも、゛全部知ってる場所ということはないです。というより、むしろ、大半は知らない場所です。
最近は、有名な観光地になると、ネット上にいくらでも情報がありますので、なんとかなります。実際にその場所を熟知している人から見たら、「こいつはわかってないな」と思われるかもしれませんが、その場所に行ったことのない大半の人には、何とかボロを出さずに済んでいるのではないかと思います。
大体、この作品では、極力、固有名詞が出てこないようにしていますから、そもそも、それがどこのことなのかということ自体をはっきりさせていないので、突っ込みようがないというのもあるのでしょうが。

> 10が終わって詰まっていたというのも予想外……。

基本的に、1つ先の章が書けてからアップしていますので、10をアップするときには、11を(推敲前の状態ですが)、書き終えているわけです。逆に言えば、11を書き終えないと、10をアップすることができないわけですが、実際、09をアップしてから10をアップするまで、10日かかっているんですよね。いつもは、1週間ぐらいでできるのに。
やっぱり、いろいろ苦労していたんだと思います。

> URAさんの書く完全オリジナル短編というのも、読んでみたいものですね(^^

一応、アイディアがあったので、短いのを書いてます。昨日から書き始めたばかりですから、完成は当分先ですが。
気長に待ってやってください。

例によって、タイトルは思いつかないので、取りあえず、漢字2文字の仮タイトルをつけてあります。
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