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専属メイド製造機

 宝くじが当たった。
 と言っても、10万円。
 微妙な金額だ。
 いや、嬉しいのは嬉しい。少なくとも、ここ1週間ぐらいの間では一番嬉しかった。
(まあ、3億とか当たっちゃうと、人生変わっちゃうだろうから、これぐらいがいいんだよな、きっと)
 なんて思っていたのだが、おれはこのときまだ知らなかった。
 10万円だって、人生、変わっちゃうときは変わっちゃうものなのだ。


 それから数日間、おれは10万円で何を買おうかといろいろ考えた。
 家、車。そういうのは、10万円じゃ無理だ。
 旅行に行くのならちょうどいい金額だが、1人で行ってもなぁ。彼女もいないし。
 電化製品も、まあ、生活に困らないぐらいにはあるから、今のところ必要ない。
 今の安アパートからもう少しましなところに引っ越すというのもあるが、後々の家賃のことを考えると、とても10万円では足りない。
 ファッションに金を掛ける柄でもないし、何かを収集しているわけでもない。カメラとかオーディオとか機材に金のかかる趣味もないので、これと言って使い道が思い浮かばない。
 だからと言って、貯金するのもなんだか。
 一応、大学を出てから5年間、まじめに働いてきたし無駄遣いすることもなかったので、そこそこの貯金はある。返さないといけない借金もない。
(どうせなら、こういうあぶく銭でしかできないことに使おう)
 ということで、パソコンに向かい、通販サイトやオークションサイトで、何か面白いものがないか探してみた。
(何だこれは?)
 大手のオークションサイトにそれはあった。
 専属メイド製造機(新品)。
 は?
 何のことやらわからずに、詳細という文字をクリックする。

 あなたの理想のメイドをお作りします。設定可能項目は800以上。
 あなた専属で夜のお供をする理想のメイドを作ってみませんか?
 まさに夢のオーダーメイド製造機です。

 書いてある意味がこれっぽっちもわからない。理解できるのは、「オーダーメイド」と「メイド製造機」をかけてあるということだけだ。
 ダッチワイフみたいなものなんだろうか? あるいは、メイドのコスプレをしたデリヘルの類か?
 現在の入札価格を見てみると、7万5000円となっている。結構な額だ。締め切りは約1時間後。
 おれは、試しにこの出品者の過去の出品物を見てみた。
(何だ、こりゃ?)
 大体、週に2、3点ぐらいずつ出品されているのだが、どれも意味不明な品物ばかり。
 巨乳化薬(男女兼用)。
 入れ替わりキット(12時間版)。
 魔法少女変身セット。
 詳細説明を読んでみたが、要領を得ないものばかりだ。だが、どれも結構な値段で落札されていて、購入者の評価も概ね良好だ。ヤラセじゃないかとも疑ったが、購入者はまちまちだし、複数IDを使用しての自作自演だとしても、これだけの品数だと、オークション会社への手数料も馬鹿にならない。ある程度は本当に売れて、好評だったのだろう。
(まあ、こういうのでもいいか)
 おれは、これは風俗の一種なのだ、という結論に達した。敢えて、ぼかした書き方になっているのは、オークション会社の規約に触れないようにするためだろう。ダッチワイフかデリヘルかはわからないが、どっちにしたってメイドは嫌いではない。どうせあぶく銭だし、話のタネに入札だけでもしてみるか。普通に風俗店へ行って10万円使うよりは、面白味があるだろう。
 専属メイド製造機に戻ってみると、価格は9万4000円まで高騰していた。残り時間はあと3分。見ているうちに、9万5000円になった。
 まあ、こんな価格になったというのも何かの縁だろう。おれは、宝くじで当たった金額、10万円で入札した。
 残り1分。入札額はそれ以上変わることなく、おれの落札が決定した。


 早速10万円を送金したら、2日後、宅配便が送られてきた。
 開けてみると、中から携帯電話とテレビのリモコンを一緒にしたような細長い機械が出てきた。携帯にしては大きめの画面と数字や文字が書かれたボタンがついている。これが専属メイド製造機なのだろうか。分厚い取扱説明書と「誰でもできるかんたんメイド製造」という小冊子がついていた。
 ぱらぱらと見てみると、メイドの選択とか、服装、言葉遣いの設定、なんて書いてある。うーむ。よくわからんが、これはこの機械で設定して送信すると、設定通りのメイドがデリヘルで来てくれるっぽい。
 それでは早速、と電源を入れてみる。初期画面が立ち上がり、メニューにあった「サンプル画像」というのを見てみた。膨大な数の女の子の映像があった。年齢は、20歳前後の子が多かったが、下は小学生から上は60歳まである。適当に見てみたが、どれもかわいかったり、きれいだったりという子がメイド服姿で笑っている写真が表示された。なかなかレベル高いぞ、これ。さすがに60歳の人は遠慮したかったけど。
 何人か見てみて、おれの好み、直球ど真ん中という子を見つけた。
 身長155センチと小柄で童顔だけど、Fカップの巨乳美少女。プロフィール欄を見ると、名前があかね。年齢は17となっている。
「あかねちゃんか、かわいいな」
 この子が来てくれるデリヘルなんだよな、これ。デリヘルだったら、17歳ってのは嘘かもしれないけど、この子なら、17歳で通るよなぁ。マジで、この子がメイド服で来てくれるなら、10万払っても惜しくない。
 そんなことを考えて、おれは画面の下にある「決定」のボタンを選択した。
 これで受付完了なのかと思っていたら、画面にエラーメッセージが表示された。

 識別番号が入力されていません。
 ICカードをかざしてください。

 何だ、ICカードって?
 宅配便で送られてきた中に入っているのかと思ったが、そんなものは見当たらない。仕方がないので、取扱説明書を読もうと思っていたら、玄関のベルが鳴った。
(誰だよ、こんなときに)
 心の中でふくれっつらになりながら玄関のドアを開けたら、見知らぬ若い男がくすんだ色のボストンバッグをかついで立っていた。年のころは20歳ぐらい。髪を茶色に染めている。半袖の腕になにやら模様が見え隠れしているが、あれはタトゥーだろうか?
「シケたとこだなぁ。あんなのに10万も出すんだから、もっと金持ちかと思ってたぜ」
 そう言って、男は勝手に部屋の中に入ってくる。妙に態度がでかい。チンピラ、とまでは言わないが、その予備軍ぐらいだろうか。あんまり関わりあいたくない人種だが、部屋にずかずか入って来られたんじゃ、一言言っておかないわけにはいかない。
「おい、お前。人の家に勝手に入るなよ」
「勝手にって、あんたが呼んだんだろうが。こっちは合コンの誘いを蹴ってきてやってるのに、そんな言い方はないだろう」
 なんだと? こんな奴呼んだ憶えはないぞ。――ああ、そう言えば、この男、さっき「あんなのに10万も出すんだから」とか言ってたな。
「ひょっとして、例の機械のことで?」
「そうだよ。お、何だ。ちゃんと届いてるじゃねぇか。ふうん、写真そっくりだな。もう使ってるのか、このスケベ野郎が」
 どうやら、この男は専属メイド製造機のことで来たらしい。初期設定とかしてくれるのだろうか。口は悪いし、風貌を見ても、まともな人間かどうかは疑わしいが、風俗業界の男はこんなものかもしれない。取りあえず、さっきから疑問に思っていることを訊いてみる。
「あのさ、ICカードをかざせって出てるんだけど、そんなもの入ってなかったよ。どうなっているか、知らないかな」
 おれは突然やってきた男にそう訊いてみる。
「カード? ――ひょっとして、これか?」
 男は、ボストンバッグからプラスティックのカードを取り出して、それを機械に近づけてみた。
 ボンッ。
 突然大きな音がして、男の姿が煙に包まれた。
「な、何だ? どうした」
 部屋に、女の子の甲高い声が響いた。って、おれの部屋には女の子なんていない筈。
 煙がさーっと消えていく。煙でおぼろげだった輪郭がはっきりと浮かび上がった。
「あ、あかねちゃん!」
 さっきまで、茶髪の男が立っていたところには、おれが専属メイド製造機の画面で見ていた美少女・あかねちゃんが立っていた。彼女の服装は、画面と寸分違わぬメイド服姿。頭にカチューシャをつけているのもかわいい。彼女の足元には、メイド姿の美少女とは不似合いな、くすんだ色のボストンバッグが転がっていた。
「あかねちゃんだと? あかねちゃんって、オレか? げっ。ホントにメイドになってやがる」
 そう言ってあかねちゃんは、自分の体を見下ろして、あちこちベタベタと触る。
「うおっ。で、でかいぞ、これ。本物の胸か。でかくて、やわらけー」
 姿形は確かに画面に表示されている美少女・あかねちゃんなのだが、何だか妙に口が悪い。まるで、男みたいだ。――って、さっきの男は?
「おい、鏡ねえか、鏡」
 あかねちゃんは、相変わらずがさつな物言いで、おれの部屋を勝手に物色して、おれが答える前に、壁に掛かっている小さな鏡を見つけた。
「おおおっ。すげえっ。むちゃくちゃかわいいぞ。いいのか、おれ、こんなかわいくて」
 あかねちゃん、小さな鏡を見ながら、ハイテンションで叫んでいる。
「ね、ねえ、君」
 おれは、鏡を見ながら自分の胸を揉み出したあかねちゃんに向かって言った。
「君、どこから入ってきたの?」
「どこからって」
 あかねちゃんは、胸を揉む手を止めることなく答えた。
「玄関のドアからに決まってるだろう。オレが入ってくるとこ、見てたじゃねぇか」
「玄関から入ってきたのは男だったんだけど――ひょっとして、あの男が君?」
 そう言うと、あかねちゃんは自分の胸を揉む手を止めて、おれの方に向き直った。
「何言いやがる。ご主人さまのせいで、オレはこうなっちまったんじゃねえか」
 え? ご主人さまって?


 それから、おれは「あかねちゃん」と少し話をした。
 話をしながら、例の専属メイド製造機についてきた小冊子「誰でもできるかんたんメイド製造」を読んだ。時には、分厚い取扱説明書も調べてみた。
 その結果、わかったことはこうだ。
 結論から言えば、今、俺の目の前にいる美少女「あかねちゃん」は、先刻おれを訪ねてやってきた若い男の変身した姿だった。ちなみに、あかねちゃんは、おれの目の前で切なげな表情をして、メイド服の上から自分の胸と股間に手をやっている最中だったりする。
「すっ、すっ、すげぇっ。この体、感じるっ!」
 おれは、今すぐにでも、目の前で痴態を晒している直球ど真ん中の美少女を押し倒したくて仕方がないが、必死でこらえていた。突然やってきた怪しい男が美少女に変身して、目の前で自慰を始めたなんて非常識な事態が起きているのだ。迂闊に事を起こしたらどうなるかわかったものではない。まずは状況を把握しないと。
 あかねちゃんの話と小冊子と取扱説明書からわかったことはこうだ。
 おれがネットオークションで落札した専属メイド製造機というのは、理想のメイドを作り上げる機械らしい。どういう原理でそんなことが行なわれるのかは全くの謎だが、現在、おれの目の前にいるメイド姿の美少女を見る限り、そうだとしか思えない。この携帯とテレビのリモコンを一緒にしたような機械は、実際にはメイドの設定をする端末のようなものだそうだ。この端末でメイドの容姿や性格、特技などの設定をしておいて、識別番号が記録されたICカードを読ませると、そのICカードに登録された人物が、設定どおりのメイドに変身するらしい。以後、メイドに変身した人物は、専属メイド製造機の所有者(おれのことだ)の専属メイド、しかも、性処理専門の専属メイドになるという、おれに取っては、まさに夢のような機械だ。
 取扱説明書によると、細かな設定は、後から変更することも可のものもあるが、この変身は1回きりで、取り消し、変更はきかない。要するに、さっきまで茶髪でタトゥーを入れていて態度のでかかった男は、今後、ずーっと美少女メイド「あかねちゃん」として、生きていかなきゃならない、ということだ。
 うーん、恐ろしい。
 ちなみに、この専属メイド製造機、新たなメイドを作るには元となる人間が1人必要らしい。今回、メイドの元となる人間には、オークションで入札したものの、落札できなかった人間が選ばれているとのこと。
「オレがこの機械を見つけたときは、まだ開始直後だったから、取りあえず、300円って入れてみたんだよ。ネットオークションなんて初めてだったけど、初入札で100ポイントゲットとかいうキャンペーン中だったから、ポイント目当ての入札だ」
 それって、たまたま落札できたからよかったけど、場合によってはおれも、この男と一緒の立場に立たされていたってことか? あぶねぇ。そう考えると、背中を冷たい汗が落ちてくる。
 あかねちゃんによると、ネットオークションのことはすっかり忘れていたが、今日、彼(その時点では男だった)の元におれの住所を書いた紙とICカードが送られてきたとのこと。この住所のところに行って、性処理専門の専属メイドになるように、と書いてあったので、うちまで来たのだそうだ。
 ……。
 って、おまえ、バカだろう。
 なんで、そんな怪しげなところにホイホイ出掛けていくんだ? おれだったら、そんなとこ、絶対行かないぞ。
 まあ、そのおかげで、おれは、こんなかわいい子が性処理専門の専属メイドになってくれたわけだから、おれとしては、こいつがバカでラッキーだったな。
 ちなみに、「あかねちゃん」というのは、設定端末にあらかじめ登録されているサンプルのひとつで、本来はここから背の高さとか胸の大きさとか声のトーンとかを自分でカスタマイズしていくものらしい。性格や能力、特技なども設定できるようだが、おれはそんなことはわからずにデフォルトのまま登録してしまったので、肉体的な特徴はサンプルのまま。性格など内面的な特徴は元々の男のままということになっているらしい。道理で、喋り方は男のときと変わっていないわけだ。まあ、中身がまるっきり男のままだと言っても、あかねちゃんは、それを補って余りあるぐらいかわいいからな。これも一種のツンデレみたいなものか?
 しかし、性処理専門の専属メイドってことは、おれがこの子にあんなことやこんなことしてもいいってことなんだよな。こんな超のつくような美少女に、おれが――。
 って、ちょっと待て。この子っていくつだ? 設定画面では17歳ってなってたけど、そんな子にあんなことやこんなことしてもいいのか?
「ねえ、きみ、何歳?」
 取りあえず、聞いてみた。実は未成年であんなことやこんなことをしたら怖いお兄さんが出てきて、なんてのは嫌だからな。
「ああ? 21だよ。何なら、免許証見るか?」
 そう言って、あかねちゃんはボストンバッグから財布を取り出して、それごとおれに投げた。
 財布から免許証を抜き出して生年月日を確認する。間違いない。21歳だ。未成年じゃない。免許証の写真も、目の前で自慰を繰り返している美少女と同じものだ。
 ……。
「なあ、この免許証、写真が変わってるぞ」
 免許証に写っているのは、目の前にいる美少女。免許証の写真だというのに、メイド用のカチューシャを付けているというのは、違和感がある。
「なんだ? あ、ほんとだ。今のオレじゃん。かわいいな、やっぱり」
「うん、かわいい。――って、そうじゃなくて、写真が勝手に変わるなんて、変だろ」
「体が変わっちゃったんだから、写真ぐらい変わることもあるだろ」
 そ、そうなのか? まあ、確かに、こいつボンって一瞬で変身したもんなあ。あれがアリなら、免許証の写真が変わるのだって、アリか。よく見ると、免許証の名前も「あかね」になってるし。ってことは、こいつ、既に戸籍上もあかねちゃんなのか。
 おれは、あかねちゃんの免許証を眺めていたが、もうひとつの異変に気付いた。
「おいっ、この住所」
「何だ、まだあるのか? オレはおっぱい揉むので忙しいんだから」
「何でおまえの住所がここになっているんだ?」
 あかねちゃんの免許証の住所は、おれのアパートのおれの部屋になっていた。
「そりゃあ、オレはご主人さまの専属メイドだからな。専属メイドなら、当然、住み込みだろ」
 こいつは口は悪いが、おれのことは「ご主人さま」と呼ぶ。デフォルト設定がそうなっているからだ。こいつの中では、「てめえ」と同じような意味合いで使っているのだろうが。
「今まで住んでいたとこは、どうした?」
「引き払ってきたに決まってるだろ。ほら、これが引越し用の荷物だ」
 そういって、ボストンバッグを持ち上げてみせるあかねちゃん。こいつ、荷物少ねぇ。
「おまえ、いままで何やってたんだよ」
「何って、――まあ、フリーターだな」
 無職か。
「学校は?」
「辞めた」
 ほう、大学中退か。
「5年前にな」
 高校中退かよ。
「フリーターって、何やってたんだよ」
「何って、何だろう? ――そうそう、住み込みで仕事してたこともあるぜ。飲み会の帰りに知り合った女のアパートでさ。そいつはどっかのOLで、毎日出掛けていくんだけど、ドラマのビデオの予約忘れたのをセットしたり、コンサートのチケット取るのに朝10時から代わりに電話したり。結構大変な仕事だったけど、案外、いい金になったな」
 そりゃ、仕事じゃなくて、ヒモだ。
 今日まで住んでたアパートは、その女のもので、女が勝手に出て行ったものだから、1人で住んでいたのだそうだ。要するに、こいつと一緒にいるのが嫌で、逃げ出したのだろう。聞けば聞くほど酷い男だということがわかってくる。もっとも、今では中身はともかく外見はFカップ美少女なのだが。
 両親はまだ健在らしいが、バカ息子がいろいろやらかした挙句、こんな美少女メイドになってしまったなんていったら、親御さんは泣くだろう。いや、今の姿なら、お父さんは喜ぶかもしれん。メイド姿がめちゃくちゃかわいいって。
「で、これから、ここで寝泊りするつもりなのか?」
「仕方ないだろう。他に行くところはないんだし」
「おまえ、自分が女の子になったっていう自覚がないだろ」
 見知らぬ男の家で泊まろうなんて、そうとしか思えない。
「そんなことはない。おれは、巨乳美少女って自覚はある」
「ほんとか?」
「さっきからおっぱい揉んでるからな」
 それでか。
「ついでに言うと、感度もいい」
 美少女の顔で、そんなこと、堂々と言うんじゃない。
「ここはおれの家だぞ」
「知ってる。だから来た」
「おれは、1人暮らしの男だぞ」
「オレはご主人さまの性処理専門の専属メイドだ」
 美少女がそっくり返って偉そうに言った。
「ってことはだ、その――おれがきみに、エッチなこととかしてもいいってことなのか?」
「おっ、とうとうやる気になったか。じゃあ、やるか。初仕事だ」
 仕事って、ムードも何もないな。まあ、拒否されるよりはいいが。
「それじゃ、ご主人さまは、そこに布団敷いとけ」
「準備、おれにやらせるのか。メイドのくせに」
「そのぐらいやれよ。その間にオレはシャワー浴びてだな。オレのこの体を、隅々まで、ぐへっ、ぐへっ、ぐおーっ!」
 なんか、美少女がスケベ面で叫んでいる。まあ、今は美少女になっているとは言え、元は21歳のヒモ男だ。さっきはボンって一瞬で変身しちゃったから、こいつはまだ自分の裸も見たことないんだよな。
「わかった。準備しとくから、自分の体、思う存分堪能しろ」
「思う存分って、いいのか? ほんとにこの体、何してもいいのか?」
 なんかこいつ、急におどおどしはじめたぞ。おもしろい。まあ、頭の中はまるっきり男のままだからな。見知らぬ美少女を前にして、本当にやっちまっていいか、うろたえているのだろう。
「おまえの体だろ。好きにしろ」
「お、おれの体。おれの体。――そうだな。おれの体だもんな。よし、じゃあ、行ってくるぞ」
「ああ。どんなだったか、後で教えてくれ」
 おれが散らかった部屋を片付けて布団を敷いている間に あかねちゃんは、アパートの狭いユニットバスでシャワーを浴びていた。
「うおおおっ、すげえ。やわらけえ。あ、あ、あんんんっ!」
 バスルームから、シャワーの音と一緒にそんな声が聞こえてくる。シャワーの音で声がかき消されるかと思ったら、逆に、シャワーの音を掻き消すような声だった。こんな声出してたら、隣にまる聞こえ。少しでも外に声が漏れないようにと、窓の鍵をきつく締め。カーテンを引く。
「はあ、はあ。すげえ。すげえよ、この体」
 息も絶え絶えという感じで、あかねちゃんがバスルームから這うようにして出てきた。立ち上がれないような状態なのか? 一応、体にバスタオル巻いているが、多分下着とか着けていないのだろう。前かがみに這っているので、バスタオルから、豊かな胸元がこぼれている。シャワーを浴びた顔は赤く上気していて、色っぽいことこの上ない。その状態で頭にはメイド用のカチューシャ。こ、これは天然なのか、それとも狙っているのか?
「ご主人さま。オレ、もう我慢できねぇ。やろう。いますぐやろう」
 相変わらず台詞にはムードも何もないが、そんなのどうでもよくなるぐらい色っぽくて発情した半裸の巨乳美少女が目の前にいる。
「よし、あかねちゃん、おいで」
 おれは、着ていた服を脱ぎ捨てて、床を這っているあかねちゃんを抱き上げた。
「あああんっ!」
 おれが抱き上げると、あかねちゃんが悲鳴を上げた。
 なんだ、感じてるのか? 触られただけでこんな声出すなんて、どんだけ敏感なんだ?
 ていうか、バスルームで何やってたんだ、こいつ。まあ、きっとあんなことやこんなことだろうが。
「おいっ、ご主人さま、あれだ。あれ、入れてくれえっ!」
 布団に寝かせた途端に、そんなことを言い出した。
「もう入れるのか? まずはそのでっかい胸を揉んでやるよ」
「ばかやろう。そんなのはどうでもいいんだよ。はやく入れやがれ、ご主人さま。入れねぇとぶっ殺すぞ」
 とても、今から男に抱かれようとしている女の子の言葉とは思えない。だが、聞こえてくる声を気にしなければ、目の前にいるのは直球ど真ん中な女の子。おれの息子も、既に出撃体制に入っている。
「それじゃ、あかねちゃん、行くよ」
「あっ、すげ。あん、あん。ご主人さま、すげえよ。こんなの、初めて。ああんんんんっ!」
 結局、あかねちゃんの処女をおいしくいただきました。
 その間、約5分。はやっ。
 気持ちよかったけど、ムードも余韻も何もありゃしない。
 仕方ないので、その日は、あかねちゃんのFカップに顔を埋めて眠った。
 あかねちゃんは口は悪いし、中身はサイテーのヒモ男だけど、こんなかわいくて、おっぱいでかくて、エロエロな専属メイドと暮らしていくってのもいいなぁ、とおれは思っていた。


 翌日、おれが起きるとあかねちゃんは、おれの横でぐーすか寝ていた。
「げっ。こんな時間。完全に遅刻だ」
 朝はあかねちやんに朝食を作ってもらおうと思っていたのだが、とてもそんな暇はない。あかねちゃんも起きないので、夕食の材料代として5000円ばかり置いて、急いで会社に向かった。一緒に添えた書置きには、掃除もしておいてくれるように頼んでおいた。
 おれは、会社勤めを始めて以来、この日ほど必死になって仕事をしたことはない。だって、昨日までは家に帰っても、誰もいない部屋でテレビ見てるしかなかったのが、今日からオレ専属の美少女メイドが出迎えてくれるのだ。机の上に山積みされていた書類はみるみる減っていき、定時のベルと共に会社を飛び出した。
(あかねちゃん、今日はどんな料理作ってくれるかなあ)
 昨日は、あかねちゃんがやってきたばかりで、一発やっただけで終わりだったけど、今夜は、あかねちゃんの手料理を堪能して、あかねちゃんのメイド服姿も堪能して、それを1枚1枚脱がすところから始めて、と、うおおおっ。楽しい夜になりそうだ。
 おれは、最寄り駅からアパートまでの道を小走りで駆け抜け、アパートの階段を1段飛ばしで昇った。
「あかねちゃん、今帰ったよ」
 きれいに片付けられた部屋にあったかい夕飯、というのを期待してドアを開けたのだが、中は真っ暗。電気をつけてみたが、部屋はおれが朝出たときのまま散らかっていて、あかねちゃんは朝と同じようにぐーすか寝ていた。
 ひょっとして、朝からずっと寝ているのかと思ったが、枕元に置いた書置きと5000円は消えていた。
「おい、こら、起きろ」
 カチューシャの脇を軽くぽかっと殴ってやると、あかねちゃんは「うーん」とか言って起き出した。寝ぼけ眼だと、中身も女の子みたいで、かわいいな。
「ひょっとして、ずっと寝てたのか?」
「そんなことないぞ。昼間は出掛けたりしてた」
 そう言えば、朝は裸だったけど、今はメイド服を着ている。気になったので、今日一日の行動を聞いてみた。
「まず、朝起きたら昼だった」
 じゃあ、起きたのは昼だろ。
「腹減ったから、昼飯食いに、駅前の回転寿司に行った」
「昼間から、寿司か。豪勢だな」
「枕元に5000円落ちてたからな」
「いや、あれは落ちてたんじゃないぞ。――ひょっとして、その格好で1人で回転寿司に行ったのか?」
「他にこの体に合う服、持ってないからな」
 なかなか勇気のある奴だ。回転寿司のカウンターに1人で座っている美少女メイドというのはシュールな風景だったに違いない。
「それで?」
「釣りが2000円ぐらいあったので、帰りにゲーセンに寄った」
 またその格好でか?
「格ゲーやってたら、人だかりができた。ギャラリーはオレのプレイに酔いしれてたぜ」
 ゲーセンでメイド服で格ゲーやるってのは、別の意味でプレイだな。
「それで?」
「格ゲーであっという間に20連敗した」
 弱いな。そんなんでゲーセン行くなよ。
「あとは?」
「それで、金がなくなったので、帰ってきて寝てた」
 それで、全部かよ。
 結局、金がなくなって、夕食の買い物もしていないというわけか。
「オレにメシなんて作れるわけねえじゃん。大体、ここはご主人さまの家だから、ご主人さまがメシ作って食わせてくれるものだとばかり……」
 こいつ、メイドの癖に開き直りやがった。
 そりゃあ、いくらメイド服が似合う美少女といったって、元はヒモだもんなぁ。家事をやらせるのは無理か。
 仕方がない。昼間は適当に小遣いやって遊ばせといて、夜のお相手だけさせよう。あかねちゃん、これだけかわいいし、抱き心地も最高だから、愛人にして高級マンションに囲おうとする金持ちがいてもおかしくないもんな。それが、飯代だけで、夜はあんなことやこんなことをし放題なんだから、安いものだ。


 ということで、おれは専属メイドのあかねちゃんと一緒に暮らし始めた。メイドといっても、家事など一切しない性処理専門なんだけど。あかねちゃんも、元は男だというのに、おれに抱かれることに抵抗はないみたいで、積極的におれに抱きついてくる。相変わらず口は悪いが、これで10万円なら、安い買い物だった。
 毎晩、あかねちゃんとあんなことやこんなことをやり放題、という日が3日程続いたある日、おれのアパートに30代の背の高いスーツ姿の男がやってきた。スーツもネクタイも、安物でないことは一目でわかる。一流会社のエリートサラリーマンか新進気鋭の青年実業家といういでたちだった。
「専属メイドの件で来たんだけど」
 そう言って、彼は懐から1枚のカードを出して見せた。あかねちゃんが持っていたICカードと同じものだ。
「今日から、君の専属メイドをさせてもらうことになる。よろしく頼むよ」
 そう言って、右手を差し出してきたものだから、思わずおれも「よろしくお願いします」なんて言って、握手してしまったが、誰だ、この人?
「おおっ、ようやく来たか」
 玄関でのやりとり聞きつけて、中からメイド服姿のあかねちゃんが出てきた。外出用に普通の女物の服も何着か買ってやったが、家にいるときは、メイド服姿だ。
「待ってたぜ。今までオレ1人で大変だったんだから。見てくれよ、この部屋の散らかりよう」
 散らかっているのは、おまえが掃除とか一切しないからだ。大体、最近はおれが片付けるのをおまえが片っ端から散らかしてるんだろうが。
「オレ、あかねっていうんだ。よろしくな。あ、一応、オレのがここでは先輩なんだから、そこんとこ忘れんなよ」
 妙に先輩風を吹かせるあかねちゃん。そういえば、最近は自分のことを「あかね」って言ってるなあ。そもそも、元々の名前ってなんだっけ?
「立ち話もなんですから、取りあえず上がってください」
 そう言って、スーツ姿の彼を散らかった部屋に上げた。散らかったものを脇にどけて、場所を確保するのも、もちろん、おれの役目。メイド服姿のあかねちゃんは、「ご主人さま、さっさと片付けねえか」と相変わらずの口調で口を出すだけ。
 まずは、彼の話を聞く。
 曰く、彼は外資系投資ファンドのファンドマネージャー。以前は、おれの一生分の給料以上の年収があったらしい。「リーマンショック後は全然だめだね」なんて言っているが、それでもおれとは1桁違う収入がある。要するに、おれとは住む世界の違う人間ってことだが、そんな人がなんでわざわざおれのところへ?
「本当はもっと早く来たかったんだけど、いろいろと残務処理があってね」
「残務処理って?」
「ああ。会社、辞めてきたから」
 はあ?
「だって、専属メイドとファンドマネージャーは両方できないだろう」
 だからと言って、ファンドマネージャーの方を辞めなくても。
「でも、専属メイドになれって、この紙にも書いてあるし」
 そう言って、ICカードと一緒に送られてきた文書をおれに見せる。あかねちゃんのところに届いたのと同じ文面だ。単なる通知文書なのだが、この紙に物凄い拘束力があるのだろうかと空恐ろしくなる。ひょっとして、オークションで負けてたら、おれも否応なしにこのアパートを引き払って、落札者の元に行く羽目になっていたのだろうか。
「会社辞めるのも急な話だったんで、引継ぎに手間取ってね。あと、妻との離婚の話もあったし」
「結婚してたんですか?」
「2年前にね。財産の大半は妻に渡して解決した。まあ、妻は手に職があるので、お金には困らないだろうけど」
「手に職って?」
 聞くと、昨日離婚した奥さんというのは、有名な女優さんだった。
「そう言えば、さっき、ネットで見たぞ」
 あかねちゃんが、おれのパソコンを何やら操作している。仕事のないあかねちゃんは、おれが会社に行っている昼間は、オナニーしてるかネットサーフィンしてるかどちらかだと言っていた。
 あかねちゃんが開いたページには、超有名女優の電撃離婚の記事が出ていた。離婚の原因は謎で、さまざまな憶測が書かれていたが、まさか、夫が性処理専門の専属メイドになるためだとは誰も思わないに違いない。
「妻と一緒にネットオークションを見てたら、おもしろそうなアイテムがあったんで、9万5000円まではがんばったんだけどねぇ。惜しくも、きみに競り負けたよ」
「なんでですか。そんなにお金持っているんなら、10万円なんて額で降りないで、もっと上積みすればよかったじゃないですか」
 そうすれば、おれがこの人の専属メイドになってたわけだ。女の子になっちゃうのはどうかと思うが、この人の方が金持ちだし、奥さんがあの女優さんだから、楽しい暮らしができたんじゃないか?
「いやあ、ネットオークションでは、10万以上は出さないって決めていたからね。だって、そうしないと、どんどん価格を吊り上げちゃって、収拾がつかなくなるだろう。青天井は身を滅ぼす元だから」
 で、その結果、会社も辞めて、女優の奥さんとも離婚して、こうしておれの安アパートにいるわけですね。
「そんなことはどうでもいいから、早く、設定決めようぜ。オレが適当に決めといてやったから、あとはご主人さまがOKボタンを押すだけだ」
 いつの間にか、あかねちゃんが専属メイド製造機の端末を操作していたようだ。
 おれは、画面で確認する。
 画面に映っているのは、金髪で、女神のように美しい女性。見た感じは完全に外人だ。背が高く、ほっそりしたスーパーモデル体型。おねえさま、という感じになるのだろうか。設定年齢は24歳だから、おれよりも年下なのだけど。名前はレイナとなっている。レイナさんか。まあ、なんでもいいや。
 既にICカードも読み込ませてあったみたいで、おれがOKボタンを押すと、ボンっと煙が出て、メイド服を着た外人のスーパーモデルが現れた。おれもあかねちゃんも、一瞬、レイナさんのあまりの美しさに見とれてしまった。
「よおし、レイナ。早速、研修だ」
 先に我に返ったのはあかねちゃんの方だった。レイナさんの手を取って、立ち上がる。
「あかねちゃん、何する気だ?」
「決まってるじゃねぇか。オレが先輩として、女の体のすべてをだな」
「ずるいぞ、あかねちゃん。てゆうか、おまえはおれの専属メイドだろ。他のメイドに手を出してもいいのか?」
「これは、仕事じゃなくて、個人的な趣味だからな。それに、別の男相手ならまずいが、女同士なら、OKだ」
「そ、そうなのか?」
「おれがたっぷり楽しんだら、ご主人さまにもおこぼれをやるから、それまで待っていやがれ」
 そう言って、あかねちゃんはレイナさんと共に風呂場へと消えていった。
「くうーっ。さすがに大人の女は違うねぇ。細いから胸なんてないかと思ったけど、意外とでかいじゃん」
「まあ、わたしは、外人みたいだからな。しかし、君も、子供っぽい顔して、なかなかのナイスバディだ」
「この体は17歳らしいぜ。Fカップ美少女が好きなんだってさ。うちのご主人さまは。オレのこと、直球ど真ん中だとほざきやがった」
「そうか。すると、わたしのようなモデルタイプはご主人さまはお気に召さないかも知れんな」
「大丈夫だって。ご主人さまのストライクゾーンは畳1畳分はあるから」
 なんか知らんが、風呂場で、おれのことを好き勝手に言っている。このアパートは壁が薄いので、そういう会話はすべて筒抜けだ。
 声だけ聞いていると、女の子同士のガールズトークなのだが、中身は21歳のヒモ男と35歳のおっさんだ。
「しかし、さすがに17歳の肌は素晴らしいものだな」
「そうか? 遠慮せずにどんどん触れよ」
「ピチピチというのは、こういう肌のことを言うんだな。わたしの妻は美人ではあったが、さすがに30歳を過ぎるとね」
「そういうレイナもまだ24歳の肌だろ。結構いけるんじゃないか? ほら、どうだ、こんなのは?」
「おっ。なるほど、これが女性の感触という奴か。想像していたよりもなかなか刺激が強いな。ならば、わたしも反撃だ。こうしてやる」
「あっ。すげっ。や、やるな。レイナって、意外にテクニシャンだな」
「当たり前だ。わたしは、こう見えても、女優を満足させてきた男だぞ」
「そりゃ、すげえ筈だぜ。ご主人様とは違うってことか。これはどうだ」
「うっ。なかなか。ということは、ご主人さまは、技術レベルはさほど高くはないということか? んっ」
「あんっ。そんなとこ。ぶっちゃけ、ご主人様はへたくそだ。あうっ」
「んむっ。それは、残念だが、仕方がないな、仕事だからな。おおっ」
「はんっ。仕事、仕事。うわああっ」
「んはっ。仕事第一。ひゃうっ」
「いやぁん」
「ああん」
 風呂場では、すごいことが行なわれているに違いなくて、おれも、そこに参加したくて仕方がないのだけど、心に引っかかるものがあって、入っていけない。
 おれって、そんなに下手なのか?
 たっぷり1時間後、すっかり出来上がったあかねちゃんとレイナさんが風呂場から出てきた。待ち構えていたおれは、2人をおいしくいただいたのだけど、終わった後にレイナさんが呟いた言葉をおれは聞き逃さなかった。
「まあ、こんなものか」
 その後、おれは激しく落ち込んだ。


 3人目は、次の日にやってきた。
 見るからにメタボって感じの男。歳は30歳ぐらい。だぶだぶの腹を包み込むロリキャラのTシャツ。3人の中で、歳は一番近そうだけど、話は一番合わなさそうなタイプだ。大きなリュックを背負ってて、それを大事そうにそっと下ろした。
「何だ、そのでけえリュック。中身を見せてみな」
 相変わらず口の悪いあかねちゃんが、大きなリュックを勝手に開けようとする。
「あ、あ」
 メタボ男は、困ったように口をあけて、あかねちゃんとおれを交互に見ている。
「どうも彼はあかねちゃんに何か言いたいことがあるみたいだね」
 レイナさんが、メタボ男の様子をそう分析する。
「言いたいことがあれば、言えばいいじゃないか」
 と、おれ。
「そうはいかないんだよ、ご主人さま。彼は、女の子と話したことがないタイプの男だからね。あかねちゃんみたいな美少女にいきなり話しかけるのは無理な話だ」
「だったら、レイナさん、話を聞いてやってよ」
「それこそ、無茶だ。彼にとっては、わたしのような美女は、話どころか見るのも初めてだろうからね。おそらく、彼の認識上では、わたしは存在しないものとして扱われている筈だ。ここは、この場にいる唯一の男性であるご主人さまがコミュニケーションを図るしかない」
 難儀な奴だな。こんなのが専属メイドになるのは、勘弁して欲しい。
「どうしたの、あんた。何が言いたいの?」
 おれの問いかけに、メタボ男はようやくまともな言葉を発した。
「これ、全部、宝物なんだから、もっと丁寧に扱ってって言ってやって」
「何だと? てめぇ、誰に向かって口をきいてやがる。いいか。ここでは先輩メイドの言うことは絶対だ。ご主人さまの命令には逆らってもいいが、先輩の命令には絶対服従。これがここの鉄の掟だ。わかったか、憶えとけ」
 見た目17歳のあかねちゃんに畳み掛けられてタジタジとなる30歳メタボ男。彼は、また何か言いたそうだったが、直接あかねちゃんに言うことはあきらめて、おれのほうに向かって言った。
「あの子に言ってやって。女の子がそんな乱暴な言葉遣いしちゃ駄目だって」
 もちろん、あかねちゃんがメタボ男の言うことなんて聞くはずもなく、リュックの中身を乱暴に広げ始めた。
「うわっ、なんだよ、これ。これがオマエのお宝か? キモ過ぎるぜ」
 出てきたのは魔法少女もののフィギュアやTシャツなどのグッズ。魔法少女でないものも混じっていたが、基本的にロリ系のものばかり。どうやら、こいつは、ただのメタボ男ではなくて、ロリコンメタボ男だったらしい。
「マジ、キモっ。コイツの姿なんて見たくないから、すぐ設定しちまおう。おいっ、ICカードさっさと出せ」
 あかねちゃんは、端末を取り出して、手馴れた手つきでいじっている。まるで、すごいスピードでメール打つ女子高生みたいだ。
「もう、何でもいいや。これにしよう。オマエなんか、これで十分。ご主人さま、これで設定しちまえ」
 そう言って、端末をこっちに寄越すあかねちゃん。画面に表示された設定を見ると、37歳の熟女。名前はヨネとなってた。
「ヨネはないだろう。それに、37歳というのもおれ的にはどうも」
 何しろ10歳も年上だ。
「ちょ、ちょっと貸して」
 おれが端末の設定を見ていると、メタボ男が端末をひったくった。
「何、この設定? 熟女なんて、嫌だよ」
 そう言いながら、設定を変えようと端末を操作するメタボ男。
「先輩の設定を勝手にいじるな」
 今度はあかねちゃんがメタボ男から端末を取り上げる。
「あ、まだ設定が……」
 突然端末を取り上げられて相手が女の子だということも忘れて、取り返そうとするメタボ男。
「ほい、ご主人さま、パス」
 あかねちゃんがおれに端末を投げて寄越す。
「面倒だから、OK押しちまえ」
 あかねちゃんに言われて、OKボタンを押す。ボンっという音がして、メタボ男が煙に包まれた。
「ほえ?」
 煙の中から出てきたのは、17歳のあかねちゃんよりももっと小さなロリっ娘。小学校高学年か中学生ぐらいの少女がメイド服に身を包んで立っている。端末を見たら、年齢の設定は13歳になっていた。
「なに? ヨネたん、どうなったの?」
 少女がかわいらしい声で、呟いた。あ、名前はヨネのままだ。
 どうやら、メタボ男は、一人称を「たん」付けにして、年齢設定を13歳まで引き下げたところで端末を取り上げられたらしい。
「ほい。これがオマエの新しい姿」
 あかねちゃんが、コンパクトを取り出して、少女の前で開いて見せた。
 このコンパクトもおれが買ってやった奴。悲しいことに、あかねちゃんがオナニーするときの必需品になっているらしい。
「こ、これがヨネたん?」
 見てたら、ヨネたんが手を前で組んで恥ずかしそうにしている。
 ――か、かわいい。
 ちょっと待て。おれはそんなロリ属性はないぞ。
 でも、目の前のメイド服姿で恥らっている13歳の少女は、そんな属性など超越するぐらいかわいかった。
 よ、世の中に、こんなかわいい物体が存在するのか? あかねちゃんもかわいいが、あかねちゃんの場合は、裸にひん剥いてその場で抱きたくなるようなかわいさだ。それに対してヨネたんは、いつまでもそのかわいらしい姿を眺めていたくなるかわいさだ。この子を裸にしてあんなことやこんなことするなんて、ヨネたんのかわいらしさに対する冒涜だ。むしろ、ときどき頭を撫でてあげて、嬉しそうに「えへっ」と微笑んでくれるとか。頬ずりしたら、「おとうさん、くすぐったいよぉ」と恥ずかしがってくれるとか、そういうかわいらしさだ。
 あ、そうか。おとうさんなんだな、この気持ちは。
 おれは、世の中のおとうさんたちが、娘を異常にかわいがる気持ちが、わかっちまったぜ!
「か、かわいいな」
 横で、あかねちゃんが、ぼそっと言った。
 おっ? あかねちゃんも、ヨネたんのこと、かわいいって思ってるみたいだぞ。下手すると、昨日のレイナさんのときみたいに、またあかねちゃんに取られそうだ。先手を打たないと。
「ヨネたん、一緒にお買い物に行こう。おとうさんが、お花でもお洋服でも、何でも好きなもの買ってあげるよ!」
「何がおとうさんだ、このご主人さまが。この間、オレがゲーム買ってくれと言ったら拒否しやがった癖に」
「だって、あのとき、あかねちゃん、怖かったから。買わねぇと殺すぞ、とか言うし」
「うるせぇ。このスケベご主人さまが。――ほら、ヨネ。先輩命令だ。こっちへこい」
 ヨネたんは、おれとあかねちゃんのやりとりを不安そうな顔で、見ている。しばらく、おれとあかねちゃんを交互に見ていたが、そのうちに、小声でこう言った。
「こ、怖い……」
 そうだった。女の子と話したことがない元ロリコンメタボ男のヨネたんは、女性恐怖症だった。そのあたりの設定は何もいじっていないから、そのままの筈。
「ほらほら、あかねちゃんが大声出すから、ヨネたんが怖がっているだろう。よしよし、おとうさんのところへおいで」
 そう言って、怖がっているヨネたんを抱きしめてやろうと、両手を広げた。
「怖いよぉ」
 ヨネたんは、小さな体を投げ出して、抱きついた。おれ――じゃなくて、あかねちゃんの方に。
「ええっ。な、なんで?」
「あかねおねえちゃん、助けて。ヨネたん、怖いよぉ」
「はっはっは。どうやら、オレの方がヨネに気に入られたみたいだ。勝負あったな」
「なんで、あかねちゃんなんだよ。さっきは、話もできなかったのに」
「なるほど。そういうことか」
 それまで、静かに状況を見守っていたレイナさんが、ポンと手を叩いた。
「何ですか、レイナさん?」
「つまり、ヨネちゃんは、女性恐怖症ではなく、異性恐怖症だったというわけだな」
「はあ?」
「要するに、今までは、あかねちゃんのことを異性だと思っていたから、怖くて話もできなかったわけだ。ところが、今はヨネちゃんも女の子。あかねちゃんも女の子。何ら問題はない。逆に、女の子のヨネちゃんから見たご主人さまは、異性。怖くて話もできない、というわけだ。恐らく、さっきまで認識すらできなかったわたしのことも、見えるようになったのではないかな」
「あれ? こんなところにきれいなおねえさんがいる。ヨネたん、全然気付かなかった」
 って、なんだ、そりゃ?
「ということは、ヨネたんと一緒に買い物に行ったり、遊園地に行ったり、動物園に行ったり、ということは――」
「ご主人様が男である限り、無理だろうな」
 そんな。
「はいはい。そういうわけだから、ご主人様は引っ込んでな。それじゃ、ヨネ。おねえちゃんと風呂入ろうか」
「うわあ。ヨネたん、嬉しい」
「女同士で一緒に入ろうな」
「女の子同士だもんね」
 中身はヒモ男とメタボ男だけどな。
 例によって、薄い壁を通して、2人の声が聞こえてくる。
「うわあ、あかねおねえちゃん、おっぱい大きいね」
「ヨネは見事にツルペタだな」
「あたしもおねえちゃんみたいに大きくなるかなぁ」
「なるさ。だって、ヨネはオレの妹だから」
「あっ。そうだよね。あはは」
「はははは」
 いや、妹じゃないから。
「ねえ、おねえちゃんのおっぱい、触ってもいい?」
「いいぞ。遠慮なく触れ」
「それじゃあ、えいっ」
「あんっ」
「あれっ、おねえちゃん、感じてる? それじゃ、今度は、谷間にヨネたんの顔をうずめて」
「ひゃうん」
「おねえちゃんって、すごい敏感なんだ。いいなぁ、だったら、今度は乳首を、はむっ」
「いゃああんっ」
 なんか、あかねちゃんがヨネたんにいいように弄ばれているように聞こえるのは気のせいでしょうか?
 ていうか、ヨネたんって、外見と喋り方が変わっただけで、中身はスケベなメタボ男のままなんじゃないのか?


 1人暮らし用の狭いアパートに、3人のメイドがやってきて、ずいぶん手狭になった。予定では、あと1人来るらしい。
 今のところ、2部屋あるうち、狭い方――4畳半の部屋をおれの部屋として使い、6畳の方をメイド用の部屋にしている。寝るときは、メイドのうちの誰か(ヨネたんは相変わらずオレに触れることもできないので、あかねちゃんかレイナさんのどちらか)とおれの部屋で、あんなことやこんなことをするので、まあ、何とかなっているが、これでもう1人増えるとなると、さすがに手狭になってくる。
 できれば、もう少し広いところに引っ越したいのだけど、金がかかるのはなあ。
 大体、メイドたちがやってきてからというもの、食費は4人分かかるし、いつまでもメイド服の一張羅というわけにもいかないので、普通に女の子の普段着や靴、下着なども揃えてやったので、予想外の出費になってしまった。美女・美少女を連れて、ファミレスなどに出掛けて、男同士で来ているような寂しい奴らに、おれのメイドたちを見せびらかしてやるというのは楽しかったが、メイドたちがステーキのセットからデザートまで散々食いまくったので、これもバカみたいな出費になった。ファミレスで1万円以上払ったのなんて。はじめてだぞ。しかも、おれはグラタンしか食ってないのに。あかねちゃんなんて、ここぞとばかりにデザートを頼みまくって、それだけで3000円近く食いやがった。
 うーん。10万円で専属メイド製造機を買ったときは、安い買い物だと思ったが、これは案外、高くついた気がする。さっきのファミレスの件にしたって、あれだったら、メイド喫茶で豪遊した方がマシだったのではないかと思えてくる。
 しかも、このメイドたちは、メイドとは名ばかり、家事は一切やってくれないのだ。
「食事を作れとは言わないが、せめて、部屋ぐらい片付けてくれ」
 メイド部屋は、常に布団が敷きっぱなしで、服や下着も脱ぎっぱなし。足の踏み場もない状態だ。だけど、おれの言葉に対して、女神のように美しいレイナさんが無表情にこう言った。
「我々は、ご主人さま専属の性処理専門メイドだから、家事はやらないんだよ」
 そう言って、レイナさんは、専属メイド製造機の分厚い取扱説明書を引っ張り出して、その細くて白い指で該当部分を指し示してくれた。確かに、『当製造機によって製造されたメイドは、性処理専門ですので、その他の作業(家事全般、ご主人さまの秘書的作業、買い物の代行など)は行なえません』とわざわざ書いてある。
「もしも、必要なら、家事全般を行なうメイドを雇ってみてはどうだろう? 正直、我々もそのほうが助かるのだが」
「これだけメイドがいるのに、別途メイドを雇えというんですか?」
「まあ、適材適所という言葉もあるし、役割分担という観点からも、そうした方がいいと思うよ」
 適材適所って、エリートファンドマネージャーだった人が、おれの性処理専門メイドをやっていること自体、適材適所じゃないという気がするのですが。いや、そもそも、おれのポジションが「ご主人さま」ってところから間違っているのかも。


 最後の1人は、20歳過ぎぐらいの色白の線の細い男だった。
「……」
 玄関のドアの外で何か言っているが、声が小さくて聞きづらい。
「おい、どうした。さっさと上がって来いよ」
 相変わらず、あかねちゃんががさつな物言いで出てきたら、彼は扉の影に身を隠してしまった。
「また、変なのが来たなぁ。レイナさん、ひょっとして、この人も異性恐怖症?」
 それだったら嫌だなぁ、と思っていたら、レイナさんが、その美しい顔を傾けて言った。
「これは、もしかしたら、アレかもしれないな」
「アレって?」
「わたしも、実物を見るのははじめてなので、確かなことは言えないが」
 やっぱり、面倒くさそうな奴みたいだ。
「恐らく、彼は、引きこもりだ。極度の対人恐怖症なのだろうと思われる」
 引きこもりかぁ。確かに、ドラマやマンガなんかだとよく見かけるけど、実物を見たことはないなぁ。まあ、メイドになるために、こうしてうちまで出掛けてきたという時点で、既に引きこもりではないような気もするが。
 取りあえず、家の中に入れて、話を聞く(もちろん、散らかっていた部屋は、おれが片付けた)。質問しても、なかなか答えが返ってこないし、ようやく返ってくる答えも、声が小さくて聞き取れないので、ちっとも話が進まない。
「現在22歳。高2のときに学校でイジメに遭って、以来、引きこもっている。高校は中退したが、通信過程で卒業。進学・就職はせず、ここ3年間は、家から出ることもなかった。と、これで間違いないね?」
 レイナさんの問いかけに、3秒ほどの間があってから、男はコクリとうなずいた。
 小1時間かけて、ようやくこれだけ判明した。
 3年ぶりの外出かよ。しかし、そんな引きこもり男を外出させちゃうような拘束力を持っているのか、この専属メイド製造機ってのは。あらためて、恐ろしいな。っていうか、こいつに落札されなくてよかった。万一、こいつがご主人さまだったら、おれたち全員で引きこもりだったかも。
「よし、わかった。じゃあ、おまえの設定はこれだ」
 そう言って、あかねちゃんが端末を寄越す。また、勝手に設定してるな。
「なんだよ、これ」
 見たら、画面に表示されているのは、あかねちゃんとそっくりなFカップ美少女。っていうか、名前もあかねとなっているから、あかねちゃんそのものじゃないか。
「自分と同じ設定にして、どうするんだよ」
 これが最後の1人なんだから、ここはもっと別のタイプの女の子にしとかないと。
「だって、考えても見ろよ。オレは、レイナみたいなスーパーモデル美女やヨネみたいなロリ美少女は抱けるけど、オレみたいなFカップ美少女は抱けないんだぞ」
「いつも、自分でおっぱい揉んで喜んでるじゃないか」
「だから、オレの手でアンアン言わせてえんだよ」
「いつも、アンアン言ってるじゃないか」
「わかんねえかなぁ。折角、超絶美少女で、おっぱいがでかくてやわらかくて、体中敏感な女の子がいても、それがオレ自身じゃ、つまんねえだろうが。そういう美少女を自分の手で抱いてこそ、男のロマンってのじゃないのか」
「うん、まあ。でも、あかねちゃんは女の子だからね」
 ということは、何か。あかねちゃんに取っても、今のあかねちゃんは、直球ど真ん中だったというわけか。
「大体、ご主人さま、よく考えても見ろよ。ご主人さまの直球ど真ん中のFカップ美少女がもう1人増えるんだぜ。右を向いても、左を向いても直球ど真ん中だ。これぞ、男のロマンだとは思わないか?」
 そう言われると、確かにそうかも。あかねちゃんは、直球ど真ん中ではあるのだが、性格がどうもなぁ。いや、あれはあれで、面白いからアリなんだけど、やっぱり、直球ど真ん中の子には、もうちょっと女の子らしくあってほしい。それに、あかねちゃんが2人いたら、2人のあかねちゃんを相手に、あんなあんなことやこんなこんなことするのも楽しそうだし。そうだ。あかねちゃんそっくりの子だったら、洋服も下着も、あかねちゃんのと共用できるから、新しく買ってやる必要もなくて、経済的にも楽かも。
「意外と、これでも、いいかな」
「だろ。よくわかってるじゃねぇか、ご主人さま。さすがこのスケベ変態」
 最後のは余計だ。
 早速、このまま登録しようとしたら、レイナさんから待ったがかかった。
「あかねちゃんと同じ姿というのはいいが、名前まで同じだと、ややこしいぞ」
 言われてみれば、その通り。ということで、こっちはあおいちゃんということにして、OKボタンを押した。
 ボンという音がして、煙の中からもう1人のあかねちゃん――あおいちゃんが姿を現した。さすがに同じ設定だけあって、あかねちゃんと外見上はまったく同じ姿をしている。
 ――が、どっちがどっちだか、一目でわかる。がさつで、元気一杯のFカップ美少女・あかねちゃんとは対照的に、元引きこもり男のFカップ美少女・あおいちゃんは、どことなく不安げで、今にも泣き出しそうな目でこっちを見ている。
 か、かわいい。
 あかねちゃんも、もちろんかわいいが、同じ顔、同じ体でも、がさつなあかねちゃんよりも、繊細で、頼りなさげなあおいちゃんの方が、圧倒的にかわいく見える。
 無口で恥ずかしがりやの引きこもり男はキモいだけだが、無口で恥ずかしがりやの直球ど真ん中のFカップ美少女は、おれの好みを通り越して、完璧理想形。
「よおし、あおい。さっそく、オレが風呂場で女というものを徹底的に叩き込んでやる」
 そう言って、あかねちゃんがあおいちゃんの手を引っ張っていく。
「ちょっと待て。どうしてあかねちゃんは、おれのメイドを最初に味見しようとするんだ」
「そりゃあ、先輩の特権で、おれと同じ体をしたこいつを隅々まで――いや、そうじゃなくてだな」
 そうなんだろ。
「大体、あおいは、3年ぶりに外に出たような来たばかりの引きこもり男なんだぜ。こいつには、仕事の何たるかを教えないとけいない」
 そう言うおまえだって、仕事なんてしたことなかったろうが。
「さあ、あおい。おれが今からメイドの仕事をすべて教え込んでやるから、さっさと来い」
 結局、元引きこもり男のあおいちゃんは、あかねちゃんの強引さになすすべなく風呂場に連れ込まれていった。
「ほれほれ、脱げ脱げ。オレも脱ぐから、あおいも脱げ。――さすが、おれと同じ体してるな。くうっ。こうして見ても、やっぱりすげえぜ。鏡で見てたのとはまた一味違うな。触り心地も最高だぜ」
「……」
 あおいちゃんも、なにやら声を漏らしているみたいなのだが、声が小さすぎてよく聞こえない。
「ああ、いいぞ。あおいも、触れ。――あうっ。おまえ、おとなしそうなくせに、意外と大胆だな。だったら、これはどうだ」
「……」
「ひゃうっ。お、おまえ、初心者のくせによくわかってるじゃねえか、この体のこと。なら、こっちは――あはっ。あっ、あっ、あうんっ」
「……」
「そ、そこ、ひゃ、ひゃんっ、んんっ、んんんーーっ」
 何だかよくわからないが、あかねちゃん、圧倒的にやられてないか?
 それから、しばらく、あかねちゃんの嬌声が盛大に響き渡った。
「はあ、はあ、す、すげえよ。こんなすごかったのはじめてだよ」
 あかねちゃんが息も絶え絶えと言った感じで、風呂場から出てきた。
「あおいちゃんは?」
「出たくないって言ってたぞ」
 まさか、風呂場でひきこもり?
 まあ、性格とかはいじってないから、そのあたりは変わっていないか。
「よし、ご主人さまが今助けに行くぞ」
 おれが服を脱いで、風呂場に入っていこうとすると、あかねちゃんに脚を掴まれた。
「ご主人さま、こんなところに全裸のFカップ美少女が転がっているというのに、無視するとは、いい度胸だな」
「だって、風呂場にも全裸のFカップ美少女が転がっているんだろう」
「だったら、おれも連れて行け」
 おおっ、いきなり、双子プレイですか?
 風呂場に入ると、片隅で背中を向けて小さくなっている全裸のFカップ美少女・あおいちゃん。向こう向いているけど、Fカップのおっぱいが隠しきれずにこぼれている。あかねちゃんと同じ顔、同じ体だけど、恥ずかしそうに顔を赤らめるなんて、あかねちゃんではありえない。あおいちゃん、最高だ!
「さあ、あおいちゃん、お仕事の時間だよ」
 いくら恥ずかしがっていても、所詮はおれの性処理専門の専属メイド。この「仕事」という言葉さえささやけば絶対に拒まないということは、あかねちゃんやレイナさんで証明済み(ヨネたんでは未確認だ)。
「……」
 あおいちゃんが、恥ずかしそうに何か言った。多分、「ご主人さま」とか言ったんだろう。あおいちゃんは、顔を赤らめたまま、おれに抱きついてきた。
「あ、あおいちゃーん」
 おれは、あおいちゃんを抱きしめる。この感じ、あかねちゃんと同じだけど、全然違うよ。あおいちゃん、大好きだよ。
「こら、あおい。ちょっとは先輩に遠慮しろ」
 おれがあおいちゃんをおいしくいただいてたら、あかねちゃんがおれの背中から抱きついてきて、Fカップのおっぱいをむにむにと押し付けてきた。
「おれおれ。どうだ、ご主人さま」
「あ、あかねちゃん、いいよ」
「……」
「あおいちゃんも最高だ」
 ああ、生きててよかった。
 おれは風呂場で、2人のFカップ美少女の痴態に酔いしれていた。


 とうことで、おれの性処理専門専属メイド4人が揃った。
 おれの4人のメイドたちは、元は男だったということに目をつぶれば、美女・美少女揃い。若干1名おれになついてくれないのもいるが、こんな美女・美少女を侍らせての生活なんて、夢のようだ。毎日、あかねちゃん、あおいちゃん、レイナさんの誰かを相手に、充実した性生活を送っていた。
 久しぶりに残業で帰りが遅くなったある日、今日のお相手は誰にしようかな、なんて考えながら安アパートのドアを開けると、珍しく、4人のメイドたちが車座になって、何か話し合っていた。
「よし、それじゃ、店の予約はレイナに一任でいいな」
 相変わらず、あかねちゃんが何かを仕切っている。きっと、仕切るだけで、自分では何もしないんだろうけど。
「何? 何の話?」
「ご主人様には関係ない話だ」
 つれなく言うあかねちゃん。
「……」
 あおいちゃんも何やら言ったみたいだけど、相変わらず聞こえない。
 あかねちゃんが教えてくれなかったので、代わりにレイナさんが教えてくれた。
「実は、メイド4人で親睦を深めるということで飲み会をやることになってね。これはその打ち合わせ」
「へえ。楽しそうじゃない。おれも混ぜてよ」
「ご主人様は駄目だ」
 とつれないあかねちゃん。
「なんで?」
「なんでって、これは女子会だ。男は遠慮しろ」
 女子会って、おまえら全員ほんとは男だろ。
「って、飲み会って、みんな大丈夫なの? レイナさん以外は全員未成年にしか見えないんだけど」
「いいだろ。実際はみんな、20歳過ぎてるからな」
「免許証見せれば、問題ないよ」
 とレイナさん。「この体でお酒を呑めるかどうかはわからないけど」と付け足した。
「こう見えても、ヨネは30歳だもんな」
「ええっ、ヨネたん、13歳だよおっ」
「どこが13じゃ。この免許証に30歳と書いてあるだろうが」
 実際、ヨネたんの免許証の生年月日は30歳のままだ。名前と住所は新しいのになっているし、写真も、両手でピースサインを出して笑っている今の姿なのだが。
「ひょっとして、メイド服のままで行くの?」
「そんなわけあるか。女子会だぞ、女子会。おめかししていくに決まっている。下着も、勝負下着で決めて」
 おめかしって、普段着は買ってやったけど、よそ行きの服なんて買ってないぞ。もちろん、勝負下着も。まさか、それも全部おれに買わせる気じゃ?
「そのために、飲み会を来週の給料日の日にセットしたんじゃねぇか」
 うわっ。やっぱり、おれに買わせる気だ。――ん? 来週の給料日?
「あのさ、おれの給料日は来週じゃないんだけど」
「ご主人様は先週だったよな。その日は、牛丼屋で豪遊したもんな」
 あかねちゃんも嫌味を言うようになったな。豪遊と言っても、大盛に味噌汁とサラダを付けただけだ。しかも、新聞のチラシに入っていた割引券を使ったので、それ程の出費ではなかった。
「あかねちゃん、そういうわけで、来週は給料日じゃないんですけど」
「ご主人様の給料日じゃねぇよ」
「は?」
「おれたちの給料日」
 ええーっ?
「メイドって、給料取るの?」
「当たり前だろ。どこの世界に無給で働くメイドがいるんだよ」
 うん。まあ、確かに言われてみればそうだけど、でも、おれ専属の性処理専門メイドだろ。住み込みで、食費も全員こっちで面倒見てるんだから、普通、給料取るとか思わないよな。
「ご主人さま、これを見て」
 レイナさんが、例の分厚いマニュアルを開いて、おれに見せた。
 そこには、メイドの給料に関する規定が、こと細かに記載されていた。
 それによると、確かに来週の火曜日が給料日だ。
 月給は、税込みで25万。メイドの月給の相場って、どんなものか知らないが、うちのは性処理専門と特殊だからなぁ。まあ、貰う方から見たら、それほど高額ではないが、払うおれにしてみたら、4人だと100万円? おれにそんな金払えるのか?
「今月は、途中からだから、日割り計算なので満額じゃないが、口座は全員用意しておいたから、来週の火曜日の午前中に振り込んでおいてくれるとありがたい。それを下ろしてから買い物に行くから」
 取りあえず、今月は、日割りだと半額の50万ぐらいになりそうだが、来月から毎月100万ずつ払うのか? おれの給料の倍以上だぞ。年間で1200万。とても払いきれる金額じゃない。
 会社に入って5年。無駄遣いはしてこなかったので、多少の蓄えはあるが、1年持たないぞ、これじゃ。
「どうした、ご主人さま。顔が青いぞ」
 あかねちゃんの陽気な声が、おれの耳と耳の間を通り抜けていった。


 長らく空き家だったアパートの右隣の部屋に、久しぶりに入居者がやってきた。築数十年のボロアパート。間取りも旧式で手狭なため、大家は新しい入居者など期待していなかったようなのだが、やってきたのが若い女性4人だったということもあって、二重の驚きだったらしい。いや、その4人がとびきりの美女・美少女揃いだったため、本当に腰を抜かしたということだ。
 以来、壁の向こうから、女の子の楽しげな会話が聞こえてくる。
 このアパートは、壁が薄いから、ちょっと大きな声を出せば、隣の住人の声が聞こえてしまう。
 正直、ここはセキュリティも何もないような安アパート。若い女の子が共同で住むなら、もっといいところがありそうなものだが、彼女たちがこのアパートを選んだのは、その立地条件。彼女たちの勤務地に近いのだ。出勤時間は、ドアトゥドアで僅か3秒。彼女たちが借りている部屋の左隣、おれの部屋が彼女たちの勤務地。
 彼女たちの仕事は、おれの専属メイド。それも性処理専門の。
 隣の部屋から薄い壁越しに一声かければ、おれの直球ど真ん中のFカップ美少女か、女神のように美しいスーパーモデルのような美女がすぐにやってくる。もちろん、あんなこともしてくれるし、こんなこともしてくれるという夢のような生活だ。
 しかも、この夢のような生活を実現するために掛かった費用はたったの10万円。10万円で買った専属メイド製造機が4人のメイドたちを作り出してくれた。その10万円も、元はと言えば、宝くじで当たったものだから、タダみたいなもの。いやあ、世の中、運がいいときは、何をやってもうまくいくなぁ。
 ――と思っていたのは、はじめのうちだけだった。
 たった10万円で、性処理専門の専属メイドたちに、あんなことやこんなことをしてもらえるというなんて、うまい話が転がっているわけがなかったのだ。
 おれは、すっかり忘れていたのだが、メイドたちには賃金を支払わなければならない。考えてみたら、当たり前だ。世の中に、メイドという職業の人がどれだけいるかわからないが、その中で、無給で働いている人なんて皆無だろう。
 月給25万円。それが定められた給料の額らしい。おれの月給よりは安いから、1人だったら何とか払えるところだったが、4人ともなると、合わせて100万円だ。そんなの到底無理。払えるわけがない。
 世の中、初期費用が安いものは、ランニングコストがやたら高いって決まっている。
 昔、契約した携帯電話がそうだったけど、それと同じだ。
 仕方がないので、おれは、バイトを始めた。会社の帰りや休日に、居酒屋や道路工事のバイトを入れている。バイトから帰るのは夜遅いので、最近は、アパートに帰ったら寝るだけという生活だ。
「おい、ご主人さま。今日も、仕事かよ」
 深夜のアパートでパソコンに向かっていると、後ろから口の悪い女の子の声がする。今日は、会社で明日の朝までに作らなければいけない資料があったのだが、道路工事のバイトをどうしても外すことができなかったので、アパートに持ち帰って、こうして深夜に作っているところだ。
「あかねちゃん、ちょっと、黙っていてよ。ほんと、この資料、朝までに作らないとヤバイんだから」
 多分、おれの後ろにいるあかねちゃんは、全裸かそれに近い格好で布団に寝転がっている筈なのだが、おれは、そんな涎が出そうな光景を振り向いて確かめる暇もないくらい追い詰められていた。バイトが2時間ほど延びてしまったために、徹夜で資料を作っても、朝までに間に合うかどうかの瀬戸際に立たされているのだ。
「だって、もう1ヶ月もオレたちのこと、抱いてねぇだろ」
 確かに、このところ、アパートに帰る頃には疲労困憊。風呂に入って寝るだけの生活だ。折角の専属メイドたちも宝の持ち腐れ。たまにこうしてあかねちゃんやレイナさんがおれの部屋にやってくることがあるが、その姿を見て眼福を楽しむ程度。あおいちゃんやヨネたんに至っては、最近見かけることもない。
 今日だって、いつもと同じぐらい疲れ切って帰ってきたのに、眠りたがる体に鞭打って、パソコンと格闘しているのだ。
「なあ、ご主人さま。たまにはオレを抱いてくれよ」
「あかねちゃん、欲求不満? いつもレイナさんとエッチなことしてる癖に」
 おれがこんな状態なので、性処理専門専属メイドのあかねちゃんたちは開店休業状態。暇なのか、あかねちゃんがレイナさんと抱き合っている声が、薄いアパートの壁越しにしょっちゅう聞こえてくる。まあ、大半はあかねちゃんの嬌声だが。
「レイナはテクニシャンだけど、やっぱり、アレが付いてないからな。たまには、思う存分アレを入れてぇんだよ」
 あかねちゃんたちは、あくまでおれの「専属」なので、他の男に抱かれるわけにはいかないのだ。直球ど真ん中のFカップ美少女に「ご主人さまじゃなきゃだめなの」というようなことを言われているのに、おれは、仕事から手が離せない。
「なあ、そんな仕事やめて、オレを抱けよ」
 とぞんざいな口調で誘ってくるFカップ美少女。おれだって、こんな仕事さっさと切り上げて、あかねちゃんを抱きたいに決まっている。
「だから、この仕事ができないと、マジヤバイんだって」
「できないとどうなるんだよ」
 どうなると言われても……。顧客提案用の資料だから「できませんでした」では済まない。確実に受注は逃す。そんなことをしたら、即クビってことにはならないだろうが、リストラの最有力候補になってしまうことは間違いない。
「会社にいられなくなるんだよ」
「会社にいられないと困るのか?」
「給料もらえないだろうが」
「給料ぐらいいいだろ」
「よくない。第一、給料が入らなかったら、あかねちゃんたちの給料も払えなくなるんだから」
 おれがそう言うと、あかねちゃんは「うーん」と考え込んでしまった。
 おれは、バイトをいくつも入れてはいるが、おれの主たる収入は、会社からの給料なのだ。ただでさえ、あかねちゃんたち4人分のメイドの給料を支払うために毎月貯金を切り崩しているというのに、会社をリストラされたら、貯金などあっという間に底をついてしまう。
 おれがリストラされようが、貯金が底をつこうが、メイドたちの給料は払い続けなくてはならない。
 試しに、例のマニュアルを見てみたが、給料を支払うこととは書いてあったが、払えなかったときのことは書かれていない。そう言えば、このマニュアルには、セリで負けたものがメイドになる、ということは書かれていても、メイドにならないとどうなるかは書かれていなかった。「メイドになる」というのは確定事項で、選択の余地はなかったということだ。レイナさんのように、おれと1桁違うような収入や女優の妻を捨ててでも、メイドになるしかなかったのだ。
 ということは、おれがメイドたちに毎月合計100万円の給料を払う、ということは確定事項で、多分、その方法は、「どんなことをしてでも」ということなのだろう。
 それが、どんなことなのかは、想像したくもない。
 そんなことにならないために、こうして、山程バイトして、少しでも支払いの足しにしているのだ。
「今やってる仕事ができれば、会社にいられて、給料もらえるってことか」
 まあ、そうだな。
「で、おれたちの給料も払える、と」
 いや、そうでもないから、バイト入れてるんだよ。どれだけバイト入れても、払いきれないけどな。
 そう考えると虚しくなってくる。
 パソコンのマウスを持つ手がぴたりと止まった。
 折角の美女・美少女揃いの専属メイドたちを抱くこともなく、必至にバイトしたって、おれの貯金は確実に減っていく。絶対に払わなければいけないメイドたちの給料を払えなくなる日は、遠からずやってくるのだ。
 だったら――。
 試しに、バイトをみんな辞めちゃって、収入が会社の給料だけになったらどうなるか、パソコンで計算してみた。当然、おれが破産する日は近くなるが、いますぐというわけではない。少なくとも、その日までは、バイトを入れなければ、会社から帰った後や休日に、いくらでもあかねちゃんたちを抱ける筈だ。
 ついでに、会社も辞めちゃった場合のことも計算してみる。これだって2ヶ月ぐらいは持つ、と計算結果が出た。その2ヶ月は、あかねちゃんやあおいちゃんやレイナさんを、朝から晩まで抱き続ける事だって可能だ。
 まあ、実際は、おれの身が持たないだろうが……。
「やめたやめた」
 おれは、大声を上げて、いきなりパソコンの電源を切った。作りかけの資料は保存してないが、そんなのもうどうでもいい。
 あー、ばかばかしい。こんな死ぬような思いをして仕事してたって、折角の専属メイドたちに何もできないまま、いつか破産してしまうんだ。
 だったら、バイトなんか辞めちゃった方がいい。会社もリストラされるならそれで構わない。どうせ「その日」は来るのだから、それが早いか遅いかの違いだけ。それまで、あかねちゃん達を思う存分抱いた方がはるかにマシだ。
「あかねちゃん」
 後ろを見ると、あかねちゃんは、下着姿でうつ伏せになって、おれの布団の上で居眠りしていた。Fカップのブラからこぼれたおっぱいが、潰されている様が刺激的だ。
「あかねちゃーん、お仕事だよ」
 おれは、そう言って、あかねちゃんに飛び掛った。
「ん? わっ。こら、ご主人さま。急に。あっ。そこは。あんっ。ひゃん。あん。ひゃうん!」
 おれは、結局、その日は朝まであかねちゃんを攻め立てた。あかねちゃんは、久しぶりに、おれの下で嬌声を上げ続けた。


 というわけで、おれはそれまで入れていたバイトを全部辞めてしまった。
 会社の方は続けているが、先日の顧客提案用の資料を作らないまま無断欠勤してしまったことで、大目玉を喰ってしまった。その後も、仕事が残っていても定時になると帰っているので、勤務評定はボロボロだ。こんな調子では、そのうちリストラされるだろうが、まあ、構わない。
 あの日以来、おれは毎日メイドたちを日替わりで抱く生活だ。
 性格はがさつだけど、直球ど真ん中のFカップ美少女あかねちゃん。
 女神のように美しい、スーパーモデルのような美女レイナさん。
 姿形はあかねちゃんと瓜2つだけど、性格は正反対のあおいちゃん。
 あ、それから、見た目ロリっ娘のヨネたんともやっちゃいました。異性恐怖症のヨネたんは、相変わらずおれとは口をきいてくれないけど、「お仕事」はちゃんとやってくれる。もっとも、小学校高学年かせいぜい中学生の女の子を相手にやっちゃうというのは、人としていかがなものかと思ったが、ヨネたん、実際には30歳過ぎてるから、まあ、それはOKってことで。
 毎日会社は定時で切り上げ、日替わりでメイドたちをいただく毎日。休日は、メイドたち4人と乱交パーティー。もちろん、おれの貯金は日に日に減っているので、破滅に一歩、また一歩と近づいている日々でもあるのだが、おれは、すべてをあきらめて刹那的な毎日を過ごしているわけではない。
 これでもおれは、最後の望みを託した一発逆転に賭けている。
 おれが最後の望みとしているのはネットオークション。そう。おれが落札してしまった専属メイド製造機が出品されたオークションだ。
 あの出品者がどこの誰かはわからないが、相変わらず、週に2品ぐらいの割合で、変なものが出品されている。
 年齢性別オートチェンジャー。
 Gカップ美女養成ギプス(男女兼用)
 幼なじみ美少女発生器(昭和版)。
 相変わらず、意味がよくわからないものが多いが、おれは、この出品者からの新たなアイテムが出ていないか、毎日チェックしていた。
 そして、3ヶ月目。とうとう見つけた。

 理想の愛人製造機。

 これだ。これしかない。見つけたときに、そう思った。早速、詳細という文字をクリックする。

 今の奥様にご不満のあなた。理想の愛人を作ってみませんか。
 容姿・性格・テクニックなど、1080項目もの設定が自由自在。
 秘密厳守ですのでご家庭とのトラブルを起こすことはありません。

 この文句。おれが買った専属メイド製造機と同じだ。性処理専門メイドが愛人になっただけ。
 あれの高級版といったところか。実際、最低入札価格が50万円と高額な設定になっている。
 愛人となっているから、妻帯者でないと入札できないかと心配したが、「未婚者でも入札可」とわざわざ注釈がついている。これは、まさに今のおれのために出品されたようなアイテムだ。
 もちろん、おれは、この愛人製造機に入札はしても、落札するつもりは毛頭ない。ただでさえ金がなくて困っているのに、こんな50万円スタートの高級品を買えるわけがない。
 おれがやるのは、あくまで入札だけ。ここには書いてないが、専属メイド製造機のときと同じだとしたら、入札者のうち、落札できなかった人間が、落札者の愛人になるのだろう。
 おれの狙いは、その愛人の方。たかだか10万円で落札できた専属メイド製造機と違って、こっちは50万円スタートだから、落札者はそれなりの金持ちの可能性が高い。おれは、そいつの愛人になるわけだが、運よくそれが物凄い金持ちだったら、月々100万円以上の「お手当て」をくれるかもしれん。そうすりゃ、今の悩みは、万事解決だ。
 さすがにそうはうまく事は運ばないだろうが、金持ちの愛人になるような女ともなれば、高級クラブでナンバー1を争うような超美人になれるだろう。最悪、風俗店で荒稼ぎすれば、月100万円ぐらいはなんとかなる。おれが買った専属メイド製造機と違って、こっちは「専属」と謳っているわけではないから、愛人が別の仕事をしたって構わないだろう。メイドと違って、愛人は職業じゃないからな。
 どっちにしたって、普通の方法では、おれには破産する以外の道は残されていないのだ。月収100万以上なんてのは、今のおれでは絶対無理。この愛人製造機で女になって、体で稼ぐ以外には、多分この窮地を脱することはできない。これにて男とはおさらばというのは寂しいものがあるが、背に腹は変えられない。
 まあ、50万スタートの理想の愛人製造機を落札しようというような金持ちは、きっと若くてさわやかなイケメンなんかではない。恐らく、50過ぎてる割にはやたら脂ぎったオヤジみたいなタイプだろうから、今の時点でおれが女になってそいつの愛人になることを想像するのは、マジでキモいんだけど、そういった感情も、理想の愛人製造機で女になってしまえば、消えちゃうんだろうと期待している。実際、あかねちゃんたちだって、男に抱かれることに抵抗はないみたいだし。それどころか、おれのことを「下手だ」「早すぎ」と文句ばかり言ってる割には、いつも気持ちよさそうだもんなぁ。
 理想の愛人製造機は、さすがにこの値段だとポツポツとしか入札がないが、それでも着実に値が上がっている。主な入札者は2人で、ほぼ一騎打ちの様相を呈していて、価格は100万円にまで上がったところだ。
 おれは、101万円と入札してみた。
 これで、できることは全部やった。
 あとは、おれを上回る価格で落札してくれる奴を待つばかり。
 どんな奴がおれを愛人にするんだろう。
 いや、そんなことよりも、おれはどんないい女に変えられるのだろう。
 どうせなら、おれも直球ど真ん中のFカップ美少女になってみたいなぁ。ついでに、感度抜群の女の子に。あんまり淫乱なのは嫌だけど、あかねちゃんとか見てると、マジで気持ちよさそうなんだよなぁ。
 そのあかねちゃんたちは、相変わらずおれの性処理専門専属メイドだから、そうなると、レズるしかないのかなぁ。まあ、その頃には、おれだって凄い美女になっているだろうから、それはそれでそそるものがあるよなぁ――。
 おれは、そんなことを妄想しながら、パソコンに新たな入札額が表示するのを待ち続けている。
 万一、このままおれが理想の愛人製造機も落札しちゃったらどうしよう、と一抹の不安を抱えながら。









テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》 - ジャンル : 小説・文学

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