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xxxy 05

 退院して2度目の朝、おれが起きたのは、12時ちょうどだった。――この時間では、もう、朝とは言わないか。
 昨夜は8時に寝たから、睡眠時間は16時間。昨日よりは1時間ほど減った。その分だけ、今日は余裕がある。少なくとも、園子さんを昼食抜きにしてしまうことはなさそうだ。
 園子さんは、今日も文庫本を読んでいるところだった。残念ながら、もう着替えていて、昨夜お揃いで着た黄色いパジャマ姿ではない。おれだけがこんな子供っぽい格好をして、何だか恥ずかしい。
「おはようございます」
 おれが起きたことに気付くと、園子さんは、読んでいた文庫本をテーブルの上に置いた。何を読んでいたのだろう? おれは、結構本を読む方なので、気になった。読書の趣味がおれと合う人だといいのだが。
 おれは、ベッドの上に座って、両手で伸びをした。病院のおれは、朝の8時から起きているから、おれの意識としては寝起きということは全然ないのだが、双葉の体は起きたばかり。ちゃんと動き出すまでに少々時間を要する。頭の上で思い切り両手を伸ばすと、皮膚が引っ張られて、胸が少し揺れた。
 体がちゃんと動き出すと、おれはベッドの上に正座した。
「園子さん」
 昼食の準備をしようと部屋を出て行きかけた園子さんを呼び止める。おれのいつになく真剣な表情を見て何か察したのか、園子さんは、おれの前に椅子を置いて姿勢を正して座った。
「昨日は、ごめんなさい」
 おれはそう言って、ベッドに頭がくっつくぐらい深く園子さんに頭を下げた。
「どうしたんですか、改まって」
「あ、あの……昨日のふた――昨日の、わたしは、園子さんにいろいろ迷惑かけちゃって、すみませんでした」
 おれは、園子さんにひたすら謝った。シャワーでもたもたしていて、昼食の時間がなくなってしまったこと。買い物のとき、ふざけて園子さんに抱きついたこと。風呂場で背中を洗っていたとき、思わず頬擦りしたことも白状した。夕食の準備で、危うく指を切り落としそうになったことについては、何度も何度も謝って、今後は、おれに刃物を持たせないようにしてくれと、お願いした。胸の話をたびたび持ち出して、園子さんを不快にさせた件だけは、黙っておいたが。
「昨日一日でわかっちゃったと思いますけど、わたしは、すごく不器用で、運動神経も鈍くて、24歳になったのに、まだまだ子供で、大人の女としての自覚が足りないんです。でも、いつかは、園子さんみたいな素敵な大人の女性になりたいって、思ってるんです。だから、これからは、わたしのこと、女として、ちょっとでも変だったら、犬を躾けるみたいに、びしびし叱って欲しいんです」
「まあ、犬を躾けるだなんて」
 園子さんは、苦笑した。そして、座っている椅子を前に出して、おれの手を取った。
「双葉さんは、今のままでも素敵なレディですよ」
「えっ。――で、でも」
 園子さんの言いたいこともわかる。おれは、確かに見た目だけなら、素敵なレディにも見えるかもしれない。口を開かず、何もせずに突っ立っていれば。
 だが、ひとたび動き出すと、おれは、まるっきりの女初心者。双葉の体を動かすようになって、もう半年になるが、ずっと病院暮らし。社会に出てきて、今日でようやく3日目。社会と言ったって、このマンションと病院を往復する程度だから、他人と接することはほとんどないため、世の中の女性がどのように行動しているのかを観察することもできない。女としての常識など何一つ知らないし、知る機会もないのだ。双葉に残った記憶を頼りに行動してはいるが、昨日のシャワーのときのように、どこまでが女の常識で、どこからがグラビアアイドルとしての行動なのか、おれには判別できないこともある。かといって、24歳にもなったおれが今更一から教えてもらうわけにもいかないので、おかしな行動をするたびに指摘して欲しいのだ。
 それに、おれとしては、園子さんに素敵なレディだと言われてもあまり嬉しくない。おれは、本当は、頼れる男と思われたいのだ。おれは、双葉として――女として生きていかなければならない以上、女として恥ずかしくない程度の常識を身に付けたいというのが本心だ。
 そして、もうひとつ――。
「昨日、お風呂で園子さんの肌を見たとき、びっくりしたんです。なんてきれいな肌だろうって。それで、わたしが園子さんの歳になったときに、園子さんみたいにきれいでいたいって。折角、2ヶ月も園子さんに一緒にいてもらうんだから、わたしの先生になって欲しいんです」
 園子さんは、「困りましたね」と照れていたが、結局は承諾してくれた。「先生」なんて大袈裟なものではなく、友人として、おれの至らない点があれば、遠慮せずに指摘してくれるということだった。化粧の仕方、服の選び方、お肌のケアについては、一緒に勉強しようということになった。おれの目からは既に達人の域に達しているとしか思えない園子さんだが、本人によれば、まだまだ修行中の身なのだそうだ。
 女の道は果てしなく遠い、といったところだろうか。

 病院のおれは、これから昼食というところだった。どうやら、今のうちにシャワーを浴びておいた方がよさそうだ。ちなみに、今日もおれは筋肉痛でベッドから出られそうにない。
 昨日は急いでいたので、洋服も下着もすべて園子さんが準備してくれたが、今日は自分で用意をする。洋服はシャワーの後で考えることにして、まずは下着を選ぶ。と言っても、正直、おれとしては女性の箪笥をあけて下着を物色するのはまだ気恥ずかしい。よくわからないので、引き出しの上の方に載っているブラとショーツの白いのを適当に引っ張り出しただけだ。取りあえず、まだ、色付きのを選ぶ勇気はない、というのがほとんど唯一の判断基準。
 昼食の準備をしていた園子さんが、時折、チェックにやってくる。もちろん、おれの女修行をチェックするのではなく、体調を確認するのが主目的なのだが、そのときについでに園子さんにおれが適当に選んだ下着をチェックしてもらう。
「このブラは、今日はやめときましょうね」
 いきなり、ダメ出しされた。
「これ、ワイヤーが入っていて、聴診器が当てづらいんですよ。――そうですね。このタイプのとか、こういうのがいいですかねえ」
 園子さんは、箪笥の中から、ブラジャーを取り出しては選別していく。基本的には、シンプルで装飾があまりついていない物がお奨めらしい。
「本当は、ブラは脱いで診察してもらった方がいいんですよ。先生が聴診器で聞き取りやすいですからね。でも、それじゃ双葉さんも恥ずかしいでしょう。肺や心臓の病気というわけではないですから、そこまで神経質にならなくてもと思いますので、邪魔にならない程度のブラなら、いいと思いますよ」
 おれは、ブラを選び直したが、今度はパンツとのバランスがおかしいと園子さんに指摘された。ブラジャーは、おとなし目なのに、パンツがセクシー系なのは、変だと言われた。
「でも、下着だから、誰かに見せるというわけじゃないし」
 おれが理屈を捏ねると、園子さんは、ぴしゃりと言い放つ。
「そんなことないですよ。少なくとも、わたしが見てますから。それに、見えないところだからと手を抜くのはいけません。見えないからと手を抜くような人は、そのうち、見えるところでも手を抜くようになるものです」
 おっしゃる通り。会社でも、似たようなことをよく言われてました。
 結局、下着を決めるだけで20分。こんなことでは、今日も昼食(おれに取っては、朝食だ)抜きにされかねない。おれは、大急ぎでシャワールームに向かった。
 シャワールームでは、昨夜決めた通り、ひたすら事務的に自分の体を扱う。脱衣所でも、姿見は最初に寝起きの自分の姿をチェックしただけ。服を脱ぐときは、鏡に背を向けた。さすがに、ブラジャーを外して大きな胸を開放したときや、ショーツを脱ぐときに前屈みになって、ノーブラの乳房がぶるんと揺れたときには、病院のおれは平静ではいられなかったが、持っていた茶碗を落としたりということはなかった。昨日みたいに布団を引き剥がされては困る状態ではあったが。

 シャワーを終えて、髪を乾かしたところで昼食の準備ができた。さっき選んだ下着の上に取りあえず着る物として、園子さんがTシャツと短パンを用意してくれていた。
 病院のおれは、シャワーが済んだことで今日の前半の危機を乗り切ったと思っていたが、思わぬ難敵と戦う羽目になった。双葉になって、短パンははじめての経験。短パンから肉感的な白い脚がすっと伸びているのは、その付け根にあるものを想像させて、男に取っては充分刺激的。想像も何も、おれの体なんだから、見ようと思えばいつでも自由に見られるし、触ることもできるのだが。
 ブラは、サイズは同じGカップだが、今日のは緩めに作られているのか、つけていても楽な感じ。昨日おとといのブラは、もっと締め付ける感じだった。特に、退院した日のブラは胸を形よく固定させるようなブラだったため、結構苦しかった。あの日は、夕食の後、着替えもせずに寝てしまったので、ほとんど24時間近く付けていたことになるが、よく我慢できたものだ。
 それに比べて、今日のブラは締め付ける感じがなくて、かなり楽。――と、思っていたら、落とし穴が。歩くたびに胸がぼよんと揺れるのだ。締め付けが少ないから、当然そうなるわけだ。どうしたらいいか、園子さんに訊こうかと思ったが、やめておいた。「わたしがそんなこと知るわけありません」とか言って、怒られそうだったから。
 歩くだけでもこうだと、このブラで走ったりするのは、ちょっときついだろうが、今日は病院に行って帰ってくるだけ。歩く距離もたかが知れているので、このブラのままで行くことにした。
 昼食は、予定通り、うどん。昨日の鍋の残り汁で作ったので、病院のおれだったら、涙が出るぐらいにうまかったのだろうが、案の定、双葉の舌には合わなかった。お前の舌には、ダシを感知するセンサーがついてないのか、と怒鳴りたくなる程、双葉の舌はわかってくれない。うどんをお湯で温めて、醤油をかけただけのようにしか感じないのだ。まあ、それでも、うまくは感じないがまずいとも思わないので、何とか食べた。うどんの他に、キャベツとレタスがメインのサラダを園子さんが作ってくれたが、これも、味がしなくておいしくない。マヨネーズをたっぷりかけて味付けしようとしたが、園子さんからはほんの少ししか許してもらえなかった。
「調味料を控えることを憶えないと、30歳になったとき、どうなっちゃうか、知りませんよ」
 おれは、ついさっき、園子さんにご指導ご鞭撻の程をお願いしたばかりなので、味気ない食事でも我慢するしかなかった。
 食事が終わると、お化粧タイム。今日は時間もあるので、退院するときにメイクアップアーチストから教えてもらった化粧をやってみたかったのだが、またしても園子さんにNGをくらった。病院に診察に行くのだから、医者が顔色などで判断できるよう、あまりべたべた塗りたくってはいけないのだそうだ。素肌を晒すのではなく、透明な膜を肌にコーティングするような化粧を伝授された。
 洋服にしても、診察しやすいように、基本はブラウス系。こうして考えると、化粧も下着も洋服も、診察があることよってかなり制限されてしまう。というより、選択肢がほとんどない。これじゃ、おしゃれなんてできやしないと嘆いたら、それは違う、とたしなめられた。
「おしゃれには、制約がつきものなんですよ。どんなに素敵なコートでも、夏には着られないでしょ。季節だとか、場所だとか、予算だとか、制約はかならずあるんです。その制約の中で、どれだけ自分に合ったものを見つけていけるか、ということがおしゃれする、ということなんですよ」
 園子さんって、凄い人だと思う。本当にこの人、おれより10歳も下なのだろうか。少なくとも、おれが31歳のとき、ここまで確固とした見識も持っていなければ、自制心も持ち合わせてはいなかった。いや、あれから10年経った今だって、園子さんにはかないそうにない。
 着替えも終えて、いつでも出発できるようになったが、まだ1時40分。診察は3時からだから、移動時間を入れても、1時間ぐらい余裕がある。
「双葉ちゃん、どこか寄りたいところ、ある?」
 本当なら、洋服でも見に行きたいとでも答えるべきなのだろうが、おれには、1つ行きたいところがあった。
「本屋さんへ行きましょう」
 園子さんがどんな本を読むのか知りたいし、おれ自身も最近は病院の売店程度にしか行ったことがないので(それも、最近は許してもらっていない)、ちゃんとした本屋に行ってみたかった。このマンションの3階よりも下は駅と一体になった商業スペースなのだが、その中に、かなり広い本屋があった筈だ。
「双葉ちゃんは、どんな本読むの?」
 エレベーターを降りるとき、園子さんが訊いてきた。余程正直に「ミステリーや歴史小説なら何でも読みます。宮城谷昌光と初期の志水辰夫が特に大好きです」と答えようかと思ったのだが、双葉はろくに漢字も読めないことになっているのだ。
「あ、あたしは、ファッション雑誌を買うぐらいです」そう言うしかなかった。だが、ふと思いついて、その後にこう続けてみた。「でも、わたしも小説とか読んでみたいんです。何か、お薦めのがあったら、教えてください」
 こう言っておけば、双葉のおれが本を読む口実にもなるし、おれが読んだ本は園子さんも気に入っている本の筈なので、ふたりでその作品について批評しあうことだって可能だ。
 書店に着くと、まずはおれがファッション雑誌を2冊ばかり買った。以前、病院の売店で買い込んで来た雑誌は、とっくに読んでしまった、というか、見て憶えてしまっていたので、そろそろ次のが欲しいと思っていたのは事実だ。女性のファッションについて、何の知識もないおれとしては、とにかく写真を見て、データを増やすことから始めないといけない。
 おれの買い物が終わると、今度は園子さんについて回る。今日は緩めのブラをしているため、歩くたびにバストが大きく揺れる。すれ違う男が必ず振り返っておれの方を見るので、恥ずかしい。おれはさっき買った雑誌を抱きしめるように持って、胸の揺れを押さえていた。胸に本を当てた程度だと、胸の揺れは納まらないし、あまりきつく押さえると、乳首が刺激されて困ったことになる。取りあえず、ゆっくり歩いて胸の揺れを最小限にするようにした。
 園子さんは、小説の単行本の新刊コーナーをざっと眺めて、新書の棚をチェックしてから、文庫本を丹念に見て回っていく。おれと同じような回り方だ。基本的に、買うのは安い文庫本なのだけど、単行本の新刊も情報だけは仕入れておいて、面白そうなら文庫になったときに買おうということなのだろう。
 おれにとって、半年振りの本格的な書店は、新鮮な驚きに満ちていた。半年も入院している間に、新刊が山のように出ているのだ。お気に入りの作家の新刊が場合によっては2冊も3冊も出ていて、嬉しくなった。同じように、ずっと文庫になるのを待っていた本も、文庫化されている。おれは、このあたりの本を買い占めて、病院で寝ているおれに届けられたらいいのに、と思わずにはいられなかった。
 園子さんは、基本的にミステリー系の本を好むらしい。時々手に取ってみるのは、ほとんどがミステリーだった。たまに「これなんかは、読みやすいし、面白いですよ」なんて、おれに薦めてくれる。そのうち半分ぐらいはおれも読んだことのある本だった。最近は、日本の小説も大作が増えてきて、上下巻も当たり前という世界だが、園子さんは、おれには短くて読みやすいものを薦めてくれているみたいだった。おれは折角なので、薦められた中から、新鋭の女流作家の文庫本をひとつ買ってみることにした。もちろん、元々のおれも読んだことがない作品だ。作者は、かなりマニアックなミステリーを書く人の筈だが、小説初心者の双葉に薦めたのだから、それほど変な話ではないのだろう。
 文庫本の棚を一通り回って、最後に翻訳もののミステリーのコーナーで、園子さんが立ち止まっている。手に取っているのは、英国の女流作家の歴史ミステリー。西洋の絵画の一部分だけを表紙にしたのが印象的な本で、実は、これは、おれの自信のお薦め本だ。とはいえ、双葉のおれが「それ、絶対面白いです」と言うわけにもいかないので、黙って見ている。
 園子さんはかなり興味を惹かれたらしく、裏表紙の説明だけでなく、冒頭部分を読み始めていた。園子さん、この本を買うのだろうかと、おれはちょっと緊張する。
 というのも、この本は、世間知らずの令嬢から財産を奪うために令嬢付きのメイドとなった掏摸の少女の話。その話自体はとても面白いのだが、実は、途中で掏摸の少女と令嬢のレズシーンがちょっとだけあるのだ。立場的にはおれが世間知らずの令嬢(自分で言ってて恥ずかしい)だとすると、園子さんは身の回りの世話を焼いてくれるメイド(と呼ぶのは申し訳ないが)みたいなものだから、おれたちふたりとかぶるところがある。そのふたりのレズシーンだなんて……。
 双葉のおれは、以前、元々のおれの体でその本を読んだときにはなかった昂ぶりを感じてしまう。
「双葉さん、どうかした? 顔が赤いですよ」
 おれの様子が変だったのか、園子さんが読んでいた本を閉じて、おれの額と手首に手を当てる。
「多少熱っぽいですけど、それはいつものことですよね。――気分は悪くないですか?」
「だ、大丈夫です。久しぶりにたくさんの本を見たので、本に酔っちゃったんです」
 まさか、おれと園子さんのレズシーンを思い浮かべていたとは言えやしない。
「そう。それならいいけど。ずっと立ちっぱなしだったから、疲れたんですね。一度部屋に戻って休みますか?」
 それも悪くはないが、このブラだと、歩く距離は一歩でも短い方がありがたいので、わざわざ戻りたくはなかった。
 家の中でリラックスしたいとき専用のブラだな、これは。
「ほんとに大丈夫ですから。このまま、どこかでお茶にしましょう」
「それなら、お買い物だけ済ませちゃいますね」
 園子さんは、そう言うと、さっきまで興味深げに見ていた本を棚に戻す。なんだ、買わないのかと思っていると、別の棚のところに行って、緑の背表紙の文庫本を棚から15冊ばかり、一気に引き抜いた。
「園子さん、それ、全部買うつもりですか?」
「ええ。今、この人の作品に嵌っているところなの」
 そう言って、園子さんは、文庫本を蕎麦屋の出前みたいに担いでレジへと持っていく。はじめて見た。文庫本の大人買い。
 この作家は、英国の冒険小説作家で、日本でも人気が高い。おれも、大好きな作家だ。おれの家は狭いマンションなので、読んだ本は処分していくのだが、この人の本は、処分せずに全部持っている。ただ、この人の愛読者の大半は男性の筈。園子さん、結構豪快な一面もあるみたいだから、こういうのも読むんだろうか。そう言えば、昨日の夕食のときの会話で、園子さんは子供の頃、少女マンガよりもジャンプを読んでたタイプだと言っていた。そう言われてみると、そういう感じもする人なのだが。
 おれと園子さんは、部屋には戻らずに車に乗って出発した。まだ時間に余裕があるので、途中でお茶でも飲む予定。おれは、また砂糖たっぷりのミルクティーを飲みたくてうずうずしている。
「昔のナース仲間が薦めてくれたの。座って待っている時間がたくさんある仕事なんだけど、そのときに読む本でいいのはないかって訊いたら、これがいいって」
 園子さんは、さっきの「大人買い」について話し始めた。確かに、付き添いの看護師とは言え、おれが1日16時間も寝てるので、実は園子さんは暇に違いないのだ。おれは寝ているから気付かないだけで。
 おれが寝ている間は、別室でテレビでも見ててくれればいいと思うのだが、園子さんは律儀におれに本当に付き添っていてくれているらしい。
「札幌にいるときに最初の5冊を読んじゃって、こっちに来てからも時間があったので、読んでは買い足していて、実はさっき、17冊目が終わって切らしちゃったところ」
 ということは、1日2冊強というペースで読み進んでいるわけか。いくら暇とは言え、凄いスピードだ。
「17冊も同じ作者の本を読み続けるなんて、飽きませんか?」
「続き物じゃなくて、キャラクターも話も全部別だから、飽きるってことはないけど、確かに、最近はちょっと詰まらなくなってるかな。でも、折角ここまで読んできたんで、時間もあることだし、このまま最後まで見届けちゃおうという感じ」
 確かに、この作家、途中でパワーダウンして詰まらなくなるんだけど、その後、劇的に復活を遂げるんだよなぁ。園子さんはまだそのことを知らないみたいだけど、「もうすぐ、また面白くなりますよ」って、教えてあげたいなぁ、と思いながら、おれは助手席で園子さんの大人買いした文庫本を手に取ってみた。
 あ、これだ。
 ちょうど18冊目。これがその劇的な復活を遂げた作品。
 そうか、園子さんは、今夜からこれを読むのか。この作品の後、この人の作品はずっと高値安定が続くので、ここからがこの作家の一番おいしいところだ。いいなぁ、園子さん。できれば、おれも園子さんとこの作家について語り合いたいが、双葉になっているおれでは、それは無理。取りあえず、時間を見つけて、園子さんに薦められた本を読もう。この本をちゃんと読み終えたら、園子さんと語り合おう。
 病院へ向かう車の中で、おれはそう心に決めた。

 病院から帰ると、まず入浴。今日から夕食の前に入浴を済ますことにする。これまで昼頃起きて、夜寝るという生活だったが、これをもう何時間か前倒しするためだ。取りあえず、明日は10時起き。明日の夜には夫が出張から帰ってくるので、あさっての朝は8時半には起きて、園子さんと一緒に夫の朝食を準備するのが目標だ。
 ということで、まだ日のあるうちから入浴の時間。病院のおれは、夕食を待っている時間だ。この時間帯なら、検温も検診もないので、ちょっと安心した。
 入浴のときも、シャワーのときと同じように、ひたすら事務的に体を洗う。正確には、事務的に洗うように努力する。努力だけはする。
 努力もむなしく、胸を洗うときには、ベッドのおれの股間が反応し、園子さんの背中を洗うときには、息が荒くなった。これはもう、毎日のことだが、どうしようもない。おれが――元々のおれが男である以上、いくら自分の体とは言え、双葉のようなナイスバディや、園子さんのような好みの女性の全裸姿を見せられたら、反応するなというのは、無理な注文だ。おれが、完全に双葉だけになりきっているのなら、そのうち、自分の体に興奮するなんてことはなくなるだろうが、半分は(起きている時間を考えたら、3分の2は)おれは男なのだから、女性の裸に興奮してしまうのは自然な反応だろう。男は、昨日やったから今日はやりたくありません、という生き物ではないのだ。
 とにかく、おれとしては、興奮するのは仕方がないが、その興奮を最小限に留めることと、興奮してしまっても、周囲に気付かれないようにすることが肝要だ。取りあえず、この日は2度の危機はうまく乗り切ることができた。
 夕食は園子さんの手作りハンバーグ。献立を聞いたときには、双葉の体は思わずガッツポーズしそうになった。双葉の脳が、すぐにキャンセルをかけたので、園子さんの前で恥ずかしい思いをしなくて済んだ。
 この日のハンバーグは、鍋やうどんに対するおれの反応を見極めて、このあたりでご機嫌を取っておこうという園子さんの作戦みたいだったが、おれは、まんまとそれに引っ掛かって、ケチャップをいっぱいかけたハンバーグでとろけていた。
 ちなみに、ハンバーグと言っても、実は半分は豆腐で、玉ねぎもたくさん入っていたので、意外と肉の量は少なかったらしいが、双葉の舌はそこまでは気にしない。重要なのは、ケチャップがたくさんかかっていることなのだ。
 食事の後、お肌のお手入れをして、この日は7時前には寝てしまった。

 次の日、10時に園子さんに起こされた。これまで、好きなだけ寝させてもらっていたが、起こされたのは初めてのことだ。このぐらいの時間に起きておかないと、翌日、8時半に起きるのは難しい。でも、15時間ちょっとしか寝ていないので、やっぱり眠い。その日は1日あくびが絶えなかった。
 園子さんも目が赤かった。昨日は、おれが寝た後、買ってきたばかりの文庫本を読み始めて、結局2冊読んでしまったという。読み出したら止まらなかったということだが、それにしても凄いパワーだ。寝不足気味なのは確かだが、この程度のことで、仕事が疎かになるような自分ではないので、安心するように、と言われた。いや、園子さんに関しては、おれは何一つ心配していません。
 前日よりも更に早く起きたので、余裕があると思っていたら、今日から診察の時間も1時間早くなったということだった。11時過ぎに朝昼兼用の食事をして、1時半に出発。診察は2時からなので、3時にはマンションに帰ってくる。車の中で、少し居眠りしてしまった。入浴と食事を終えて、夕方の5時には就寝。今のおれは、5時には寝ないと朝の8時半には起きられないので、園子さんが医師と相談して、診察の時間を早めてもらったのだ。
 我ながら、凄い生活サイクルだと思う。双葉の体は、1日8時間しか起きていられない。普通の人の半分の時間だ。普通の人の半分しか起きていられないということは、普通の人の半分しか時間がない、ということだと思っていたのだが、実際生活をしてみると全然違っていた。使える時間が普通の人の半分しかないのに、その時間の中で、普通の人と同じように、顔を洗ったり、歯を磨いたり、シャワーを浴びたり、風呂に入ったりするのだ。この他に、女性である双葉のおれは、化粧をしたり、髪を整えたり、服を選んだり、お肌のお手入れをしたりと、忙しい。記憶を辿って計算してみると、これだけで1日3時間以上は潰れている。更に、2度の食事(さすがに3度は食べない)と病院への往復を入れると、おれの自由時間は、ほとんどない。昨日買った文庫本も、まだ開いてもいなかった。
 更に、明日からは、夫と一緒に過ごす時間も加わる。夫の生活サイクルは、朝の9時過ぎに起きて、出社。夜はほとんど10時過ぎにならないと帰らない。その日のうちに帰ってこないことも珍しくない。おれが退院後の初日のように、昼過ぎに起きて、夜8時には寝てしまうような生活を送っていたら、夫はおれが起きている姿を見ることができなくなってしまう。
 かといって、昼間の通院はやめるわけにはいかない。双葉の体のことを考えると、睡眠はまとめて取りたいので、夫の起床時か帰宅時のどちらかは、おれは睡眠中ということになってしまう。結局、おれは夫の起床時には起きていて、一緒に朝食を取ることにした。申し訳ないが、夫が疲れて帰ってきた時には眠らせてもらうことにしたのだ。夫の帰宅時には、おれのかわいい寝顔(見たことないが、きっとかわいい筈だ)を見て疲れを少しでも癒してくれたら、と願っている。

 病院のおれの方は、3日間、筋肉痛で動けなかった。
 この3日間、例の新人医師が、頻繁におれの病室に来るようになった。来ても、別に診察をするわけでもない。特に何をするでもなく、世間話をしただけで帰っていく。どうも、医者として仕事で来ているわけではなく、単に暇を潰しに来ているようだ。ひょっとして、医局にいたくない理由でもできたのだろうかと、勘繰ってしまう。
 元々、くだけた感じの若者ではあったのだが、話し方も以前に比べて妙に馴れ馴れしい。どうやら、この新人君、先日の一件以来「下半身の恥ずかしいところを若い女性に見られた者同士」ということで、おれに妙な親近感を覚えてやってくるようだ。まあ、こちらもいい暇潰しになると思って、適当に相手になっている。
 その日、新人君がやってきたとき、双葉のおれは、ちょうど入浴中で、これから大きな胸を洗おうかというところ、ベッドのおれは、双葉のおれが取り組もうとしている作業から、なるべく意識をそらしていようと努めているところだった。
「相変わらず暇そうですね」
 その言葉はおれのところへたびたび油を売りに来る新人君にそっくりそのまま返してやった。それに、こう見えてもおれはそんなに暇じゃない。
 新人君の目に見えているおれは、ベッドの上で暇そうに寝転がって、夕食の時間が来るのを待っているだけのようだが、実は、おれは双葉の体を洗うことで忙しいのだ。おれの意識としては、ベッドに寝転がって何もしていないおれよりも、風呂場で自分の胸についている巨大な肉塊と格闘しているおれの比重の方がはるかに高くなっている。というわけで、おれとしては、入浴中に、新人君に入って来られたような気分なのだ。かといって、「キャー、出てって!」と叫ぶわけにもいかないので、取りあえず新人君の相手をする。まあ、少しでも双葉と園子さんの裸体から意識をそらすのに役立ってくれればと、期待もしているのだが。
「実は、この間、はじめて特別病棟で診察させてもらったんですよ」
 新人君は、嬉しそうにそう言った。こいつは、どんな話をするときでも嬉しそうに話すので、本当はどうだかわからない。この間なんて、急性盲腸炎で運ばれてきた患者が手遅れで死んでしまったという話を、おれの前で嬉しそうに話しやがった。 
「それは、若手のお医者さんに取っては、出世ということなのかな?」
「出世というわけではないですけど、ぼくらぐらいではなかなか特別病棟の患者さんは診させて貰えないんですよ。やっぱり、向こうは腕の確かなベテランじゃないといけないみたいで」
 おいおい。そんな言い方したら、一般病棟は、腕に問題のあるボンクラにやらせてるって聞こえるぞ。まあ、ある程度はその通りだとは思うが、さすがにその言い方では一般病棟の患者は怒るだろう。くだけた感じの若者と言ったが、それはよく言えばの話で、悪く言えば無神経なのだ。
「この間は向こうの先生が急患でこっちに来ちゃったんで、代わりに行ったんですよ。緊急時のピンチヒッターみたいなものですね」
 こいつ、その急患がおれだということを忘れてるんじゃないのか?
「そのときはじめて知ったんですけど、特別病棟でも、外来を受け付けてるんですね」
 おれは知ってたぞ。まあ、双葉として半年も向こうにいたから、特別病棟については大概のことは知っている。ついでに言うと、一般病棟も長いから、よく知っているぞ。2つの体を合わせると、のべ1年はこの病院で生活しているのだから、お前さんよりもよっぽど詳しい筈だ。この病院でわからないことといったら、一般病棟から特別病棟への行き方ぐらいだ。
「で、その外来の患者をぼくが診察したんですが、凄かったんですよ。何が凄いかわかります?」
 わかっていたが、おれは、「さあ」と答えておいた。「わかります?」と訊かれて、すらすら答えを言うのは、無神経な奴のすることだ。
「それが、無茶苦茶かわいい女の子だったんですよ。絵に描いたような美少女ってあのことですよ」
 待て待て。美少女って、おれのことか? まあ、おれは確かに自分でもかわいいと思っているが、さすがにもう24だし、「少女」じゃないと思うぞ。
 双葉のおれは、風呂場の鏡に自分を映してみる。新人君をからかったときと同じように、恥ずかしそうにうつむいて、上目遣いに鏡を見る。うん。確かにかわいいな。こいつは、この表情に騙されたというわけか。
 鏡の前でポーズを取っていたら、園子さんに見つかってしまった。
「双葉ちゃん、どうしたの? 明日ご主人と会ったときの練習?」
 おれは、真っ赤になって、黙り込んだ。
「まだ、その子は慣れてないんですかね。恥ずかしがっちゃって、なかなか胸をあけてくれないんですよ。やっぱり、若い女の子は男の前で胸をあけるのは恥ずかしいんでしょうね」
 恥ずかしいのは確かだが、その子は、半年間、毎日診察されていたってこと、お前、知らなかったのか? どうでもいいが、おれはさっきから新人君の言葉に心の中で突っ込みっぱなしだ。
「ようやく、ブラウスのボタンをはずしてくれたんですが、また、この仕草がたどたどしくて、かわいいんですよ」
 実は、ボタンをうまく外せないのは、女物のボタンの位置に慣れていなかったからだ。元々の双葉の指が不器用ということも大いにあるが。
「ブラウスのボタンを外したら、開けてびっくりですよ。あんな清楚でかわいい子なのに、爆乳なんですよ。こんなのあり? ってぐらいの。多分、あれ、Iカップとかありましたよ」
 こらこら、嘘をつくな。いくらなんでもおれの胸はそこまでに大きくない。
 おれは、実際に胸を鏡に映してみる。Gカップのバスト。十分に大きいけど、大きすぎることはない。
 いけない。あまり見ていると、興奮してきてしまう。医者の前で興奮してしまったら、異変を悟られて、また鎮静剤を打たれかねない。まあ、この新人君なら大丈夫だとは思うが。
「ぼくも、女性の診察は何度もしたことありますけど、あんな胸の大きい子を診るのははじめてでしたよ」
 おれとしては、こんな能天気な新人君の言葉でも、かわいいとか胸が大きいとか褒められるのは悪い気分じゃない。ついでに、もっと褒めてもらおうと、敢えて「いくら胸が大きくても垂れてちゃ仕方ないよな」と言ってみた。もちろん、おれの胸は垂れていない。おれの自慢の胸の形も褒めてもらおうと思ったのだ。
「そうですかねぇ。ぼくは、垂れてても、大きい方が絶対にいいと思いますよ。きっと、あの子だったら、まだまだ成長して大きくなりますよ。将来が楽しみだなぁ」
 ええい、黙れ。おれは、今の胸が形といい大きさといい、ベストだと思っているのだ。少なくとも、見る分には。生活するにはちょっと重過ぎるけど。だから、これ以上大きくならなくてもいいし、もう24だし、多分、これ以上成長したりはしない。それに、たとえ大きくなったとしても、お前には二度と見せてやらない。
「それで、後で先輩に言ったんですよ。物凄い巨乳美少女を診察しましたって。そしたら、その子は特別病棟の中でも有名な子だったそうなんですよ」
 そりゃあ、おれぐらいの容姿で、原因不明の昏倒のため半年も入院してたとなれば、有名にもなるだろう。おまけに夫はIT長者と来ている。
「何でも、その子は、さる大企業の社長令嬢なんだそうですよ」
 はあ?
「確かにいかにも深窓の令嬢という感じですもんねぇ。ぼくが聴診器当てようとしたら、きゃっとか言って、胸隠しちゃいましたし。きっと、箱入り娘で、世間知らずな子なんですよ」
 世間知らずというか、女暦がまだ短いから、女としての常識は知らないと思うが、いくらなんでも、おれが深窓の令嬢ということはないだろう。双葉自身も、普通の家庭で育った普通の子だ。
「きっと、女子高を卒業したばかりで、男に触られたことなんて、なかったんでしょうね」
「女子高を卒業したばかりって?」
「この春まで女子高生で、18歳だって聞きましたけど」
 お前、その先輩に完全に担がれてるぞ。左手の薬指の指輪も見えてた筈だ。その意味、わかっているのか?
 大体、18歳って、カルテに年齢とか書いてあるんじゃないのか?
 それゃあ、おれの肌は透き通るように白いし、きれいだから、肌だけ見たら18歳でも通るかもしれないが、この顔は、さすがにもう大人の女だろう。
 そう思って、風呂場のおれは鏡に自分の顔を映してみる。むう。やっぱり18歳はきついな。もうちょっと、髪を上げて野暮ったい感じにして、甘えた雰囲気にすると――うーん。ちょっとは若く見えるが、18歳は微妙。
「何やってるの?」
 さっきから鏡を覗き込んでいるおれを見て、不思議そうに園子さんが声をかけてきた。
「わたし、こうやってると、いくつに見えます?」
 おれが髪を掻き上げたまま園子さんの方を向いた。途端に、おれの視界に園子さんの全裸姿が入ってきた。しまった。油断してた。
「双葉ちゃん、24だっけ。そうだなあ、そうやってると、20歳そこそこには見えるかもね」
「18歳には見えないですよねぇ」
「あなた、世間を舐めてるでしょ」
 そうだよなぁ。いくらなんでも18歳とは、思い上がるにも程がありました。
「その先輩が言うにはですよ。その子、お前に気があるんだって。だから、極度に恥ずかしがるんだって。どう思います?」
 どうって、からかわれたに決まっているだろう。その先輩にも。おれにも。
 この新人君は、世間を知らなさ過ぎ。間違いなく、うまい話に騙されるタイプだろう。おれは、将来、夫の会社が倒産して路頭に迷ったら、没落した元社長令嬢を装って、こいつのところに金をせびりに行こう、と決めた。
 おれは、ふと思いついて新人君に言ってみた。
「実は、折り入って相談したいことが」
 おれが、急にまじめな顔になって切り出すと、向こうも「何でしょう?」とにじり寄ってくる。
「入院生活ももう半年を過ぎてしまい、有給も使い果たし、今は欠勤扱いで無収入。このままではいつ馘首になるかも知れません。貯金を切り崩して入院費を支払っていたのですが、それも底をつき、明日の支払いにも事欠く有様」
「ええっ、それは大変」
 大変と言いながら、顔は嬉しそうだ。元々、こういう顔なんだろう。新人君は、嬉しそうに続けた。
「でも、入院中じゃ、バイトとかできないですよね。あ、そうだ。出入りの製薬会社の人に、新薬の臨床実験のバイトとかないか聞いてみましょうか」
 いや、そんなことを頼みたかったわけじゃない。単に金がないから、退院は無理としても、料金の安い相部屋にでも移してくれないかと言ったつもりだったのだが、うまく伝わらなかったようだ。第一、そんなバイト、死んでもやりたくない。
 さすがに、この新人君にこんな話をしたからといって、それでは退院させてあげましょう、とはならないだろうが、おれとしては、もう何振り構ってはいられないのだ。ちょっとでも親しくなった医者に話を通して、少しでもおれのために動いてくれるように仕向ける。そうでもしていかないことには埒が明かない。双葉のときだって、結局は夫が動いてくれたから退院できたのだ。もちろん、夫が1人で何もかも取り計らってくれたわけではなく、いろんな人に働きかけてくれた結果、双葉のおれは今、自宅の展望風呂で広い湯船に浸り、巨乳をお湯に浮かせてリラックスしていられるのだ。
 取りあえず、この新人君は突破口。おれが金銭的に苦しくなっているという話になれば、病院だって営利団体。踏み倒されないように退院させてしまおう、とは単純に思わないにしても、何らかの方策を考えないといけない、とは思ってくれるはずだ。
 新人君は、夕食の直前まで、おれの部屋で時間を潰していたが、なにやら雑事があるらしく、立ち上がった。おれは、名残惜しそうに仕事に戻っていく新人君に、こう付け加えることを忘れなかった。
「さっき言っていた先輩も、今度ここに連れてきてくださいよ。一緒に面白い話を聞かせてください」
 この新人君をきっかけに、もうちょっと発言力のある医師と仲良くなっておくに越したことはない。今のおれの立場では、1人でも多くの医者と親密になること。それが退院の時期を早めるために、おれにできる唯一のことだった。

 眠っているおれの体が揺り動かされた。
 目を開けると、そこには園子さんがいた。
 おれが「おはよう」と言いかけると、園子さんは、しーっと指に手を当ててそれを制した。視線がおれの背中越しに飛ぶ。
 そうだった。今日から夫のために園子さんと一緒に朝食の準備をするんだった。
 ゆっくりと、音を立てないようにおれはベッドから抜け出した。隣のベッドでは、夫がかすかにいびきを掻いて寝ていた。昨夜、おれが寝ている間に出張から帰ってきたのだろう。
「シャワーを浴びて、身支度してらっしゃい。その間に朝食の準備はしておくから」
 まだ8時半。今日も15時間半しか寝ていないから、眠い。ちなみに病院のおれは、8時間たっぷり眠ったので元気いっぱいだった。
「朝から、お化粧もするんですか?」
 おれがそう言うと、園子さんは、呆れた、という表情になる。
「世の中の女性たちは、もっと早い時間に起きて、お化粧してから出掛けていくんですよ」
 ああ、そうだった。おれの会社は、8時半始業だったから、この時間には女子社員たちは完璧に化粧をして、机に座っているのだ。おれは、いつも起きてから15分ぐらいで家を出ていた。逆に言えば、家を出る15分前に起きればよかったのだが、OLともなると、家を出る1時間以上も前に起きて、身支度をするのだろう。そんなこと、おれには到底できそうにない。おれは、双葉が気楽な専業主婦(それも、名ばかり)でよかったと心底思った。
 もっとも、これからはおれも、夫が起きる頃には完璧に化粧をして、綺麗な妻でいなくてはならないのだが。
 おれは、シャワーを済ませ、髪を整えて、化粧に取り掛かる。取りあえず、夫に見せるためのメイクだから、病院へ行くときみたいに肌の色を隠さないなどの制約はない。かといって、退院のときにやってもらったメイクを自分でできるかといったら、自信がなかった。手順は完璧に憶えているし、必要な化粧品も揃っているのだが、おれの技術が伴わない可能性が大だ。少なくとも、夫が起きるまでに完成させることは無理だろう。今日のところはやっぱりこの人に頼るしかない。
「園子さん、助けて」
 まるで、毎回ドラえもんに泣きつくのび太くんみたいだが、仕方がない。園子さんは、朝食の準備を中断して、やってきてれた。
「さて、どんなお化粧がいいですかねえ」
「取りあえず、簡単なのでいいですから」
「でも、ご主人に取っては、起きている双葉さんをご覧になるのは今だけなんですから、ここは最高の双葉さんをお見せして差し上げないと。ご主人は、どんな双葉さんがお好みなんでしょうか?」
 基本的に、夫はどんな双葉でも好みだと思う。そうは言っても、朝だし、セクシー系よりもかわいい系だろうか。
 園子さんにそう告げると、園子さんは、おめめぱっちり、ほっぺたもほんのり赤みが差す感じで仕上げてくれた。明日からは自分でできるように化粧の仕方やコツもちゃんと解説してくれる。
「うわあ、かわいい」
 メイクが完成すると、園子さんは嬉しそうに言った。どうやら園子さんにして会心の出来だったらしい。おれが鏡の前で微笑んで見せると、破壊力はさらに5割増し。この化粧のときは、退院の日みたいに小さく笑うのではなく、ちょっと大袈裟なぐらいに口元を緩めた方が、おれのかわいらしさが引き立つことを確認した。試しに、鏡の前でちょっとふくれてみせたが(以前開発した必殺技Aのことだ)、こちらも無茶苦茶かわいかった。
 メイクに合わせて洋服も着替える。園子さんに言われるまま、スカートを穿かされた。しかも、短い。膝が出ている。こんな短いのを穿いたのは初めてだ。座るときに注意しないと、パンツが見えそう。凄く恥ずかしいが、園子さんには「その表情、かわいい」と言われてしまった。照れて、赤くなっていただけなのに。
 その後は、園子さんと朝食の準備のため、エプロンをつける。また、そのエプロンがフリルがついてて、かわいい奴。鏡を見たとき、病院のおれは、くらくらっときた。おれ、かわい過ぎ。
 エプロンをつけて準備万端のおれだったが、おれは包丁を握らせてもらえないし、おれも包丁には近づかないので、園子さんがたまに出す指示にしたがって、皿を出したり、火を止めたりする程度。それでも、危うく皿を落として割りそうになった。双葉の底なしの不器用さにおれはひたすら落ち込んだ。
 おれが何とか並べた皿に園子さんが盛り付けして、9時10分に3人分の朝食が完成。今日は和風で鮭の切り身と豆腐、納豆、半熟卵、海苔、味噌汁というスタンダードな朝食だ。スタンダードではあるが、旅館の朝食みたいに品数が多い。このあたりが園子さんの凄いところ。
「それじゃ、行ってらっしゃい」
 2人分の朝食をワゴンに載せて、おれは園子さんに送り出されて夫婦の寝室に向かった。基本的に、夫とふたりでいるときは、園子さんは部屋の外で待機。そうしないと、夫はおれとふたりきりでいる時間をほとんど取れなくなるのだ。
 寝室に入ってドアを閉めると、緊張感が襲ってきた。退院した日に、夫と車の中でふたりっきりになったときに感じた緊張感と同じ奴だ。
 こらこら、こんなことで緊張してどうする。あの時と違って、今日は寝ている夫を起こして一緒にご飯を食べるだけ。夫は食べたらすぐに会社に行くのだから、セックスに発展することは絶対にない。緊張する必要なんて、どこにある?
 おれは、すうっとひとつ深呼吸する。そして、さっき鏡で確認した大袈裟なくらいの笑顔になって、言った。
「ダーリン、朝だよ。早く起きて」
 ああっ。言ってるそばから恥ずかしくて顔が真っ赤になるのが自分でもわかる。園子さんに聞こえてないだろうなぁ。
 おれが恥ずかしい思いをして言ったのに、夫は「うーん」と唸ったきり、動かない。布団を頭から被ってしまっていて、起き出す気配はなかった。
「ダーリン、起きないと遅刻しちゃうよ」
 夫は重役で、定時に出勤するわけではないので、遅刻という概念はない筈だが、取りあえずそう言ってみた。今度は布団の上から揺すってみるが、夫の反応は同じ。こいつ、このおれが恥ずかしい思いをして起こそうとしているのに、無視するとはいい度胸だ。
「ほら、ダーリン、お、き、て」
 おれは、夫の布団を撥ね上げる。軽い羽毛布団がふわっと宙に舞い、中からパジャマ姿の夫が現れた。惰眠を貪り続けようとする38歳の男は、正直、愛が芽生えるような姿ではない。
「ダーリンったら」
 おれは、ここで夫の体を揺すりながら、必殺技A(意外とかわいい怒り顔)を炸裂させた。それは、おれとしても会心の出来で、これで心を揺さぶられない男はこの世に存在しないだろうという程の破壊力を秘めていたに違いないのだが、夫は相変わらず起き上がる気配はない。それもその筈。夫はずっと目を瞑ったままおれの方を見てもいない。しまった。おれの必殺技は、目を閉じている相手には、無力なのだった。
「ダーリン、早く起きないと、ご飯が冷めちゃうよ。早く起きて、双葉と一緒にご飯、食べよ」
 おれがそう言うと、夫はぴくりと反応した。ようやく起きる気になったかと思ったが、口元でなにやらごにょごにょ言っているだけで、相変わらず寝転んだままだ。
「何? 何か言った?」
「キス」
「はあ?」
「お目覚めのキスしてくれたら、起きる」
 何を駄々っ子のようなことを言っているんだ、こいつは。調子に乗るんじゃない、と、おれは、夫が敷いているシーツを引っ張り上げて、ベッドから転がり落としてやろうかと思ったが、いやいやと思いとどまる。前にも考えたように、おれは妻としての役割をほとんどできていない。夫だって、おれと半年以上もセックスレスでは、不満は溜まっているだろう。ここでおれが切れたんじゃ、夫と不仲になってしまう。まあ、お目覚めのキスなんだから、ほっぺたにチュッとかやればいいだけだ。別に減るものでもないし。
「キスしてあげたら起きてくれる?」
「起きる起きる」
 おれは殴りたがっている右手を体の後ろに隠して、夫の寝ているベッドの脇に跪き、目を閉じている夫の右の頬にチュッとキスした。うわあ。ほっぺたとは言え、男にキスしてしまった。病院のおれは、激しく落ち込むが、双葉のおれはそれどころではない。
「さあ、早く起きて、双葉と一緒にご飯にしよ」
 これで起きてくれるかと思ったのだが、夫はまだベッドの上でじたばたと体を動かすだけ。
「左もキスしてくれたら、起きる」
 舐めとるんか、こいつは。
「さっきもそう言って、起きてくれなかったじゃない」
「今度はほんとだよ。左もキスしてくれたら起きる」
「ほんとに?」
「約束する。指切りしよう」
 そう言って、夫は右手の小指を出してきた。仕方なく、おれもかわいらしい小指を夫に絡めた。
 って言うか、お前、もうとっくに起きてるだろう?
 病院のおれは、なにやってるんだ、おれ、と激しく自己嫌悪に陥るが、妻という文字がおれを奮い立たせる。
「キスするから、今度こそちゃんと起きてね」
 そう言うと、おれは夫の左頬にキスするために、夫に覆いかぶさるようにして、体を伸ばす。あ、胸が夫の顔に当たっちゃった。
 その瞬間。
「つかまえた」
 下から夫の手が突然伸びてきた。
「えっ?」
 夫に覆いかぶさっいてたおれは、夫の腕に絡めとられて、抱き寄せられる。そのまま、胸から夫の顔めがけてダイブする格好。
「あんっ」
 思わず声が出た。左の乳首が夫の顔で押し潰されたせいだ。夫は、あっという間に体勢を入れ替えた。気付いたときには、おれは、下から夫を見上げていた。短いスカートがめくれ上がって、パンツが丸見え状態なのが、感触でわかった。
「ダーリン……」
 夫は、おれにキスしてきた。ほっぺじゃなくて、唇に。
「ん、んむっ?」
 いきなり口を塞がれたおれは、何が何だかわからなくなった。
 体が動かない。
 フリーズした?
 いや、そんなことはない。フリーズしたんじゃないかと心配しているおれがいる。病院のおれもちゃんと動いているし、2つの体はつながっている。その証拠に夫にキスされているのがわかる……。
 そうか。双葉の体が動いていない。夫にキスされて、それで……。
 それで、どうだというのだ?
 おれは今、男とキスしている。以前、キスなんて、男とするのも女とするのも同じだろうと思っていた。
 全然違った。
 夫がおれの口を吸う。舌を絡めてくる。
 女とのキスでは経験したことがない感じ。するキスとされるキスの違い。
 いや、男の体でするキスと、女の体でするキスの違い。
 何だか、体が痺れている。
 今までに感じたことのない不思議な感覚。
 動けない。
 夫が激しくおれの口を貪る。
 おれは、夫のなすがままにされていた。

「……双葉――双葉」
 夫がおれを呼んでいる。
(動け、動け)
 おれは、動かなくなった双葉の体を何とか動かそうとしていた。
 心臓は動いている。呼吸もしている。心配そうにおれの顔を覗き込んでる夫の顔も見えているし、声も聞こえる。
 ただ、双葉を動かせないだけだ。
 まるで、双葉の動かし方がわからなくなってしまったみたいだ。
「双葉」
 夫が、おれのほっぺたを軽く叩いた。
「あ――」
 ようやく、声が出た。大丈夫。動かせる。おれは、目をぱちくりと瞬かせた。緊張していた夫の顔がほっと安堵の表情に変わった。
 おれは、記憶を巻き戻してみる。おれが双葉の体を動かせなかったのは、2分間ぐらいだが、夫がおれの異変に気付いたのは最後の15秒だけ。それまでは夢中になっておれにキスしていた。おかげで、部屋の外で待機している園子さんを呼ぶところまでは行っていなかった。
「よかった。また、意識を失ったのかと思った」
 何が、よかっただ。大体、お前が急におれにキスなんかしてくるから……。
 そう思うと、無性に腹立たしくなってきた。
「大体、お……お、おま……」
 いけない。今、夫に向かって、男のおれの口調で「お前」って言いそうになった。
 おれは、言いかけた言葉を慌てて飲み込んだ。すると、飲み込まれた言葉と体の奥から湧き上がってきた得体の知れない感情で、おれの小柄な体は溢れてしまった。
「う、う……」
 おれは、この変な感情を抑えることができなくなった。それは、おれが随分長い間忘れていた感情だった。子供の頃には近しかった感情。悲しいこと。怖いこと。つらいこと。何か心が揺さぶられるたびにほとばしってきたあの感情。それが、おれの体からこぼれ出す。
「ど、どうしたの、双葉? 泣いてるの?」
「泣いてなんかいない」と気丈に言うつもりだったが、言葉にならない。知らないうちに、おれは、涙を流しながら、嗚咽していた。双葉のおれも、病院のおれも一緒に泣いていた。幸いなことに、病室には誰もいなくて、助かった。
「だ、だって……」
 夫の前で、おれは、ようやくそれだけ搾り出した。
「ダーリンが……」
「ごめんよ、双葉。びっくりさせちゃって」
「ダーリンが……」
「そうだね。ぼくが悪かった」
「ダーリンが……」
 さっきから、おれはそれしか言っていない。それしか言えなかった。夫の方も、おれが「ダーリンが……」しか言わないので、うろたえてしまっている。
「ごめん。ほんとに悪かった。お詫びに何でも買ってあげるから。……そうだ。今度の日曜日、ピザ食べに行こう」
「ピザ?」
 一瞬、おれの声が弾んだ。
「そう。ピザ。双葉の大好きなピザ。横浜に凄くおいしいピザの店があるんだ。ドライブがてら、そこ行こう」
「うんっ」
 おれの馬鹿。こんな子供だましのご機嫌取りに引っ掛かりやがって。でも、おれの頭の中では、ピザが占める割合がどんどん広がっている。それと同時に、さっきの感情はどこへやら。幸せな気持ちがおれの頭の中を支配し始めた。
「それじゃ、ご飯食べようね。冷めちゃわないうちに」
「ご飯?」
「そう。ご飯だ。双葉が用意してくれたんだよね」
 そう言うと、夫はおれをよいしょと抱き上げる。やめろ。今日は、短いスカートなんだから、そんな膝のところで持ち上げたら、パンツが見えちゃうだろうが。
「さあ、お姫様、朝食の用意が整いましたよ」
 何が、お姫様だ、こいつ。って、これはいわゆるお姫様抱っこというやつか? ちょっと待て、お前ももう若くないんだぞ。おれも女とは言え、50キロぐらいはあるんだから、こんな重いものを抱えて、ふらついて転んだりしたら危ないだろうが。花嫁を無理にお姫様抱っこして転ぶ損保会社のCM、知らないのか?
 おれは、怖くなって、夫の首に手を回してしがみつく。
「おや、姫様。今度は姫様の方から抱きついてこられるとは。これは光栄の至り」
 いや、そういう意味じゃないぞ。怖かったからお前につかまっただけだ。おれは、慌てて夫から逃げようとしたが、遅かった。
「では、お言葉に甘えて」
 何も言ってないだろうが、と突っ込む暇もなく、夫はおれの唇を奪う。本日、2度目のディープキス。まだ朝だというのに。
 ――あ。
 まただ。痺れるようなあの感覚。不思議な気持ちになってくる。
 体が動かない。
 いや、違った。
 おれは、知らないうちに、夫がおれの口を貪るのと同じように、夫の口を貪っていた。おれは、夫と舌を絡め合っていた。
 おれは、無意識のうちに、夫のディープキスに応えていた。
 ああ。そうなのか。
 おれは、痺れるようなあの感覚の正体を知った。
 認めたくないことだったが、あの感覚の正体は――。
 快感。
 おれの体は夫とのキスによる快感を受け止めるので精一杯だったのだ。
「ん、んんっ」
 おれは、呻き声を漏らした。夫は、相変わらず舌でおれを攻め立てる。このキスで、体中が熱くなった。体の至るところが敏感になっていた。夫と接触している皮膚が、おれの脳に快感を伝えてくる。夫の腕に抱えられた背中が、膝裏が。夫の胸板で押し潰されている大きな胸が。その先で硬くなっている乳首が。
 それは、双葉の体ではじめて自慰をしたときと同じような快感だった。違うのは、おれが自分でその快感を作り出しているのではなく、それが夫によってもたらされているというところだった。
(もっと)
 おれは、キスだけでは満足できなくて、更に夫と体を密着させる。夫の胸板との間で潰れていた乳房を動かすと、硬くなっていた乳首が擦れて、信じられないような快感が脳天を突き抜けた。
(ああっ)
 おれの頭の中がスパークする。
 おれは、夫の腕に抱かれながら、めくるめく快感に蹂躙されていた。
 

テーマ : *自作小説*《SF,ファンタジー》 - ジャンル : 小説・文学

コメント

05のあとがき

この05を書いている頃に、ラストを1つだけ思いつきました。
今のところ、他のラストを思いついていません。
ということで、今度図書館に上げる最終回は、このとき思いついたラストということになります。

一応、ラストを思いついたので、あとは、それに向かって書くだけ、と思っていたのですが、この頃は、1章かかって、ようやく1日進むペース。この後、あれとそれとこれは書きたい、というのはあったのですが、そこに至るまでのお話を考えるのが大変でした。ここまでこと細かく書いてきたのに、いきなり「3ヵ月後、おれと園子さんは……」なんてするわけにはいきませんからね。
元々のおれの方も、もっともらしい理由をつけて(園子さんがいるうちに)退院させないといけなかったので、それを考えるのも大変でした。正直言って、もっとうまいやり方があったんじゃないかと思っています。

どんな小さなエピソードも手を抜かない、というのが、少しでもいいものにするための絶対条件だと思うのですが、ここの部分は、本当に全力を尽くしたのか、と問われると、そうだと答える自信がありません。

この章のラストの夫との絡みも、何とか話を膨らませようと頭から捻りだしたわけですが、こちらのエピソードは、駄々っ子みたいな寝起きの夫と、それに振り回される「おれ」というのが、結構気に入っています。急いでひねり出した割には、上出来かも。
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